第575話 ナイの両親は……

(……ナイ君が暮らしていたのは村は確か和国の旧領地でムサシノと呼ばれていたはず。そしてシノビ君の一族が暮らしていた隠れ里は和国の旧領地……これは偶然か?それともまさか……)



アルトはナイの生まれの事を聞いており、彼は小さい頃に山奥にて捨てられていた話していた。しかし、ナイが捨てられた山は彼が育った村以外には近くに人里は存在せず、そもそも普通の人間が簡単に立ち寄れる場所ではない。


ナイが暮らしていた村は和国が健在だったころは「ムサシノ」と呼ばれ、そしてシノビ一族が暮らしていた里も和国の旧領地だとしたら、もしかしたらナイを捨てた人間はシノビ一族の可能性もある。



(ナイ君は気づいていないようだが、彼の両親がシノビ一族だとしたら彼の髪の色も辻褄が合う)



黒髪の人間など今の時代では滅多に存在せず、もしもナイがシノビ一族の誰かの捨て子だとしたら、黒髪だとしてもおかしくはない。しかし、それが事実ならばナイはシノビ一族から捨てられた可哀想な子供である。



(詳しい事情はシノビ君から聞く必要がありそうだな……)



自分の仮説があっていればナイはシノビ一族の人間であり、それが事実ならばナイは自分を捨てたシノビ一族の人間と知らず知らずに行動を共にしていた事になる。しかもシノビ一族に捨てられたにも関わらず、結果的にナイはシノビ一族の悲願である和国の再興のために大きく協力していた。


表彰式の際にナイがシノビを国王に紹介し、彼の話を聞かせていなければシノビは和国の返還を願い出る事も出来なかった。最悪の場合、シノビは正体を隠して王国の人間に仕え、どんな手段を用いてでも地位を掴み、リノを王位に就けるかあるいはバッシュに従ってでも目的を果たそうとしただろう。


和国の返還に関しては現在も王国で話し合われており、今の所は保留という形になっている。それでもシノビは自分の一族の悲願を国王に伝える事に成功し、皮肉にもその成功の裏にはナイの協力がなければ果たせなかった。



(ナイ君……もしも君が本当にシノビ一族だとしたら、なんという皮肉な運命なんだ)



仮にナイがシノビ一族だとした場合、彼は知らず知らずに自分を捨てたシノビ一族の人間のために働いていた事になる。この事実をアルトはナイに伝えるべきではないと考え、黙っておくことにした。



「アルト?どうかしたの?」

「いや、何でもないよ……それより、あまり一か所に留まると他の人間に怪しまれる。巡回を行うふりをしながら歩こう」

「うん、そうだね」



アルトは自分の考えを胸の中にしまい、決してナイにだけは伝えない様に心掛けた。この事実を知った時、彼がどんな反応をするのかは分からないが、知らずにいた方がナイのためだと判断する――






――同時刻、とある建物の中にてイゾウは風魔を見つめ、考え込む。その様子を彼の相棒であるシャドウは見つめ、イゾウに話しかけた。



『イゾウ……お前が立て続けに獲物をしくじるのは初めてだな』

「すまん……だが、次こそは必ず殺す。誰が邪魔をしようと、今度は確実に仕留める」

『そう気負うな、別に怒っているわけじゃない』



シャドウは腕を組みながら建物の影に身を隠し、決して日の光が当たる場所には姿を出さない。そんな彼に対してイゾウは振り返り、尋ねる。



「俺の方はともかく、お前の方こそ大丈夫なのか?こんな場所にいて……」

『お前の事が少し心配でな。だが、様子を見て安心したぞ』

「いらぬ心配をかけたか……安心しろ、もう二度と失敗しない」

『……ああ、期待しているぞ』



イゾウに一言告げるとシャドウは影の中に溶け込むように消え去り、彼の気配が感じられなくなるとイゾウは拳を握りしめる。


二度も標的を殺し損ねるなどとして生きてきたイゾウにとっても初めての経験であり、彼はルナとヒナの事を思い出す。ルナはともかく、ヒナに関してはシノビの邪魔がなければ十分に殺せる相手であった事から彼は憤る。何としても自分の邪魔をしたシノビを仕留めるため、彼は風魔を腰に差して立ち上がった。



「シノビ……覚悟しておけ」



立ち上がるとイゾウは壁に描いたシノビとクノとテンの似顔絵に視線を向け、腰に差していた「針」を放つ。この針は鍛冶師に作り出させた特注の暗器であり、壁に貫通して見事に似顔絵の眉間に的中した。


この針は魔法金属で構成されており、イゾウは「投擲」の技能を覚えていた。シノビ一族の人間は必ずこの投擲の技能を習得し、手裏剣やクナイを利用して攻撃を行う訓練も行う。


しかし、この針に関してはイゾウが里の外に出た後に身に付けた武器であり、彼はこの暗器を「突針」と名付け、必ずや3人を仕留める事を誓って廃墟を抜け出した――

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