第553話 シノビ一族

――表彰式を終えた後、国王は別室に移動すると改めてナイとシノビを呼び出し、彼は話を聞く事にした。ちなみに部屋の中には宰相のシンと護衛役としてドリスとリン、更にはアッシュも待機していた。


シノビが仕えるリノも同席し、彼女の隣にはバッシュも立っていた。ナイとシノビは事前に武器を預けた状態で国王の前に膝を着き、改めて国王は話を伺う。



「人払いは済んだ、ここならば他の人間に話を聞かれる事はない。さあ、お主の話を聞かせてくれ」

「はっ……分かりました」



国王の言葉にシノビは頷き、彼はまずは自分の正体を話す事にした――






――シノビとクノの先祖は元々は和国に暮らす人間だったが、和国がダイダラボッチに滅ぼされた後、国内に暮らしていた人間は和国の領地を離れて別の国に暮らし始めた。その中にはシノビの先祖も含まれており、彼等は王国へと移り住む。


和国を滅ぼしたダイダラボッチが姿を消した後、和国と同盟国であった王国が管理する事になり、現在では和国の領地は王国の領地として認識されている。


当時の和国の被害状況は酷く、とても国の復興など出来る状態ではなかった。和国の人間も散り散りになり、もう国としては成り立たず、結局は和国は滅びてしまった。しかし、和国に暮らしていた人間達の中で一部の者達は和国を取り戻すという希望を捨てなかった。


シノビの先祖は代々優秀な忍者を産出し、そのために和国の間では「シノビ一族」とも呼ばれていた。このシノビとは忍者を現すだけではなく、一族の中で当主となる人間は「シノビ」を名乗る事を義務付けられている。


つまり、シノビの名前は本名ではなく、彼はシノビ一族の長を務める立場であった。但し、そのシノビ一族も現在は妹のクノ以外は存在せず、両親も祖父母も既に他界していた。





「シノビ一族として生まれた私は幼き頃から家族からこのように教えられました。我が一族は和国を再興させ、我が先祖の国を取り戻す事こそが宿命だと……」

「なるほど……そう言う事であったか」

「事情は分かった。しかし、あくまでも今回の報酬はお主の話を聞くというだけ……その願いは聞き入れられぬぞ」



話を聞き終えた国王は納得した表情を浮かべるが、シノビの話を聞いてもシンは表情を変えず、彼の願いを聞き遂げられない事をはっきりと伝える。事前に忠告していた通り、今回はあくまでも国王が彼の話を聞くという約束であり、それを聞き入れるかどうかは別の話である。


シノビも今回の件で自分の願いを聞き入れてくれるとは思っていなかったので文句はないが、それでも彼は自分の宿命を諦めるわけにはいかず、国王に自分の意志だけでも伝えたかった。



「宰相の言う通りでございます。しかし、我が一族は数百年も和国を取り戻すために生き続けてきました。もしもこの願いを聞き入れてくれるのであれば我が一族は王国のために全力を尽くします」

「一族と言っても妹しかおらんのだろう?他の家族はどうしたのじゃ?」

「……我々は和国の領地に存在する隠れ里に暮らしておりました。そこには元々は我ら以外の人間も住んでいましたが、私と妹だけが外界に出て冒険者として活動していました。しかし……魔物の増殖が活発化し、里は既に滅ぼされました」

「なんと……」



シノビの一族は和国が崩壊後も実は和国の領地内で里を作り上げ、そこに暮らしていた。しかし、シノビとクノが外界の情報を集めるために冒険者として活動していた時、里は魔物に滅ぼされた。


二人の家族もこの時に魔物に殺されたと考えられ、生き残ったのはシノビとクノだけである。一応は他の人間も逃げ延びている可能性もあるが、里が滅びたのは1年以上も前の話であり、他の家族の足取りは二人も掴めていない事から生き残りが居る可能性は低い。



「ふむ、お主等も苦労した事は良く分かった。先祖の悲願を果たすために生き続けてきた事も理解した。しかし、それでも和国の領地を返還する事は出来ぬ」

「当然の話ですな。そもそも和国の領地は現在は王国の領地として他国にも認識されております。今更、数百年前に滅びた国の領地だと認めて返還するなど……」

「やっぱり、どうしようもないんですか?」



駄目元でナイは和国の領地はシノビの一族に渡す事は出来ないのかと考えたが、やはりそんな単純な話ではない。シノビが要求しているのは元々は和国の領地だった王国の領地を分割し、それを譲渡しろと言っている事に等しい。


いくら和国の領地が現在は人が暮らしておらず、里を滅ぼす様な魔物が多数生息する危険な場所だとしても、王国の領地である事は間違いない。何の見返りもなく領地を分け与えるなど簡単に認められるはずがないが、ここでシノビは秘策として用意した代物を差し出す。

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