第523話 赤毛のゴブリン

「何だ、こいつ……!?」

「グルルルッ……!!」



ナイは自分の攻撃を受けても立ち上がったゴブリンに驚き、間違いなく先ほどの一撃はゴブリンどころかホブゴブリンでも仕留められる程の威力はあった。


しかし、赤色の毛皮で覆われたゴブリンは鼻血や血反吐を吐きながらも起き上がり、血走った目で睨みつけた。その様子を見てビャクは牙を剥き出しにすると、ゴブリンは両手の爪を振りかざす。



「グギャギャッ!!」

「ビャク!!」

「ウォンッ!!」



馬鹿正直に正面から突っ込んできたゴブリンに対してビャクは前脚を伸ばすと、そのまま顔面を叩きつけて吹き飛ばす。ゴブリンはナイに続いてビャクにも吹き飛ばされて地面に倒れ込む。



「ギャアアッ!?」

「こいつ、まだ生きてるのか……いったい何なんだ?」

「ウォオオオンッ!!」



ゴブリンはビャクに吹き飛ばされても絶命はせず、苦痛の表情を浮かべながらも起き上がる。この際にナイはゴブリンを不気味に思い、しかも赤毛熊と似たような特徴を持っている事から嫌な予感を浮かべる。


このまま放置するのはまずいと判断したナイは旋斧を抜こうとした時、この時にビャクは何かに気付いた様に鼻を鳴らす。そして彼はナイに警告するように鳴き声を上げた。



「ウォンッ!!ウォンッ!!」

「ビャク?どうした……なっ!?」

「グゥウウッ……!!」

「グガァッ!!」



周囲から今度は灰色の毛皮で覆われたゴブリンが出現し、その姿を見てナイは驚きを隠せない。灰色の毛皮で覆われたゴブリン達は牙が異様に鋭利であり、その牙の特徴からナイはすぐにある魔物を思い浮かべる。



(こいつら……まさか、コボルト!?)



ナイは新手のゴブリン達を見て真っ先に思いついたのが「コボルト」であり、赤毛熊の特徴を持つゴブリンだけではなく、今度はコボルトの特徴を併せ持つゴブリンが登場した事に戸惑う。


何が起きているのかは不明だが、現在のこの村には得体の知れないゴブリンが住み着いており、即座にナイは旋斧を構えた。そして全身に毛皮を生やしたゴブリン達が襲い掛かる。



「グギャギャッ!!」

「「グガァッ!!」」

「ビャク、赤いのは任せるぞ!!」

「ウォンッ!!」



ナイはビャクに声を掛けるとビャクは即座に従い、お互いに背中を向け合う。まずは赤毛のゴブリンに対してビャクは今度は確実に仕留めるため、牙を放つ。



「ガアアッ!!」

「グギャッ……!?」



赤毛のゴブリンの頭にビャクは噛みつき、そのまま引きちぎる勢いで振り回す。必死にゴブリンは抵抗しようとしたが、いくら赤毛熊の特徴を受け継いでいようと、その力は赤毛熊には及ばない。


その一方でナイの方は接近してきた灰色の毛皮のゴブリンに対して旋斧を振りかざし、この時にナイは無意識に岩砕剣を手にする。今の状態の自分ならば二つの大剣も扱えると判断し、同時に刃を放つ。



(ここだっ!!)



旋斧と岩砕剣を同時に使用した事は初めてではなく、先日の盗賊との戦闘でもナイは意識せずに二つの大剣で戦っていた。ゴブリンキングとの死闘を乗り越え、更にナイは力を身に着けていた。



「はああっ!!」

「「ギャインッ!?」」



二つの大剣の刃がゴブリン達の胴体を切り裂き、身体が上半身と下半身に切り裂かれた。ほぼ同時にビャクは赤毛のゴブリンの頭を噛み砕く音が鳴り響き、地面にゴブリンは倒れ込む。


3体の得体の知れないゴブリンを倒したナイとビャクは安堵するが、ナイはすぐに倒れたゴブリンの様子を伺う。この時に騒ぎを聞きつけた他の討伐隊の面子が集まってきた。



「何事だ!?」

「ナイ君、大丈夫!?」

「今、凄い音がしましたわよ!?」

「……これは!?」



アッシュたちが辿り着いた時には既に戦闘は終わっており、彼等は倒れている得体の知れないゴブリン達を見て動揺する。この時にナイはゴブリンの死骸に接近し、様子を伺う。



「……こんなゴブリン、見た事がない。けど……初めて戦ったような気がしない」

「ウォンッ……」



ナイの言葉にビャクは頷き、このゴブリン達は赤毛熊やコボルトのような毛皮や牙や爪を生やしているだけではなく、その戦い方もよく似ていた。それだけにナイも初めて戦ったような気はせず、逆にそれが不気味に感じた。


他の者もゴブリンの死骸を観察し、その異様な姿に戸惑いを隠せない。そして冒険者であるリーナとガオウはゴブリンを確認した時、彼等はお互いに顔を合わせる。



「おい、リーナ……こいつ、見た事あるか?」

「う、ううん……こんなゴブリン、初めて見ました」

「冒険者のお前達でも分からないのか?」



この場に存在する人間の中では最も頻繁に魔物を狩る機会が多い冒険者のリーナとガオウでも、このゴブリンを見た事はなく、心当たりもなかった。

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