第509話 人質の救出 女装作戦

「警備兵が動けば盗賊達は人質を利用するだろう。その場合は手が付けられなくなる」

「な、ならどうすればいいんだよ!?冒険者にでも助けを求めるのか?」

「それも悪くはないが……要は人質さえいなければ問題はない」

「という事は……拙者達が人質を救出しに向かうのでござるな?」

「えっ!?」



クノの言葉を聞いてシノビは頷き、幸いにもこの場には人質の救出のために利用できそうな存在が居た。特にガルソンにシノビは顔を向けると、盗賊団の中でもそれなりの立場の彼を利用すれば人質の救出も捗る。



「お前に協力してもらうぞ、人質を解放してもらう」

「何だと……俺がお前等に力を貸すと思っているのか?」

「いや、お前の力を借りる必要はない。必要なのはお前のその服と顔だけだ」

「はっ?」



シノビはガルソンの顔を覗き込み、そして彼が身に着けている衣服を掴む。それを見たナイはシノビの思惑に気付き、彼はガルソンに変装して宿屋に忍び込むつもりなのだ。



「そうか……この人に演じてエルさんと他の人たちを救い出すんですね?」

「その通りだ。だが、人質を連れ出すとなると俺達でも簡単にはいかない。お前達にも協力してもらうぞ」

「きょ、協力?協力って、どうするんだ?」

「ここは鍛冶屋だったな……ならば色々と道具があるはずだ。それを利用させてもらうぞ」

「えっ?」



ニエルはシノビの言葉に呆気に取られ、店の中にある道具を利用して彼が何を作り出すつもりなのかと戸惑う――





――それから人質を救出する作戦の段取りを取り決め、事前にナイは宿屋に置いてきたビャクを連れ出す。そしてニエルの方は知り合いから借りた馬車を運び出すと、準備を行う。



「どうですか?間に合いそうですか?」

「ああ、まあこれぐらいの改造ならすぐに終わるが……けど、本当にこんな作戦が上手くいくのか?」

「案ずるな、俺達を信じろ……改造が終わり次第、指定された場所へ向かえ」

「ウォンッ……」



シノビは馬車を改造するニエルとビャクに声を掛け、この二人は人質を救出した後に合流する予定だった。その一方で警備兵の屯所へ向かったはずのクノが戻り、彼女は報告する。



「兄者の言う通り、警備兵に警告しておいたでござる。宿屋周辺に見回りの人数を増やす様でござる」

「よし、これで作戦は整ったな……そっちの方はどうだ?」

「一応、着てみたけど……かなりぶかぶか何ですけど」



最後にシノビはナイの方に振り返ると、そこには普段の姿をしたナイではなく、何故か女性物の服に着替え、化粧もして鬘を被ったナイの姿が存在した。ナイの顔立ちは元々から整っていた事もあり、一見するだけでは美少女にしか見えない。


どうしてナイが女装しているのかというと、盗賊から聞き出した情報によるとガルソンは女好きでしかも若い子を好みとしている。そこでナイはガルソンに変装したシノビに連れ込まれた少女のふりをする事になった。



「ふっ……中々似合っているぞ」

「拙者より可愛いでござる……」

「そんな事を言われても……」

「ウォンッ?」



ビャクはナイがいつもと違う格好をしている事に不思議そうに首を傾げ、一方でナイは着なれない服に戸惑いながらも武器を確認する。今回は殆どの装備は持ち歩けず、せいぜい所持できるのは刺剣だけで服の下に隠しておく。



「よし、そそろそ日が暮れる……これ以上に時間を空けると怪しまれるかもしれない。行くぞ、しっかりと付いてこい」

「分かったでござる」

「は、はい……(裏声)」

「……無理に声音まで変える必要はないぞ」



改めてクノも服を着替えて一般人の少女のような格好に着替えると、ガルソンに変装したシノビと共に盗賊達が拠点にしている宿屋へと向かう。その様子を馬車を改造するニエルと彼の隣に立つビャクは不安そうな表情を浮かべるが、ここは彼等に任せるしかない。


事前に警備兵に連絡しているので宿屋で騒ぎが起きればすぐに彼等は駆けつけてくれる。しかし、彼等に伝えたのはあくまでも街に見回りを強化する様に促しただけであり、宿屋に盗賊団が潜伏している事はまだ知らせていない。



「兄者、本当に警備兵に盗賊団の居場所を教えないでいいのでござるか?」

「ああ、警戒を強化する程度に留めておけ。警備兵の内部にも盗賊団と繋がっている輩もいるかもしれん、もしも警備兵に宿屋の事を知らせれば奴等は逃げ出す可能性が高い」

「なるほど……シノビさんは頭いいんですね」

「主殿もここから先は気を付けるでござる。戦闘に陥った時は無理をしない方がいいでござるよ」

「あ、はい」



クノに主殿と言われてナイは自分が二人を雇っている事を思い出し、依頼人の事をクノは主と呼ぶらしい。シノビはあまり態度に変わりはないが、雇われた以上はナイの身の安全を守るつもりらしく、ナイの前を歩きながら警戒を怠らない。。

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