第496話 煌魔石

「あっ……」

『あっ……』



地面に散らばった魔石の破片の残骸を3人は見下ろし、そのまま気まずい雰囲気になるが、すぐにヒナは破片を掃除してモモに告げる。



「……つ、次からは気を付けなさい」

「う、うん……ごめんね」

「……じゃあ、まずは魔力を送り込む前に力加減から覚えましょうか」



仕方なく、イリアは魔力を使い切っていた聖属性の魔石を渡す。今度は壊さない様にモモは両手で受け取ると、その前にイリアは思い出したように呟く。



「あ、そういえば煌魔石を作り出すのなら鍛冶師の方に魔術痕を刻んで貰わないと駄目ですよ」

「魔術痕?」

「魔石に特殊な紋様を刻む事で効果を強化や変化させる技術です。煌魔石の場合は魔力が込めやすい魔術痕を刻まないと作れませんから」

「そ、そうなんだ」

「魔術痕……となると、あの人の協力が必要ね」



腕利きの鍛冶師となると二人が心当たりがある人物はたった一人であり、都合よく彼も討伐隊には参加せず、街に残って弟子たちと復興作業を行う予定の「ハマーン」の元へ向かう――






――ハマーンはまだ飛行船に残っており、飛行船の帆の修理を丁度終えた所だった。二人はハマーンに事情を話して煌魔石を作りたいことを告げると、それを聞いたハマーンは快く承諾してくれた。



「よし、これでいいぞ」

「え、もう終わったの!?」

「凄い……流石は王都一の鍛冶師」

「はっはっはっ!!もっと褒めても良いぞ!!」



渡された魔石を瞬く間にハマーンは紋様を刻み込み、モモに手渡す。魔石は効力を完全に失うと脆くなって簡単に壊れやすいのだが、ハマーンは表面の部分だけを削り取り、まるで「渦巻」のような紋様を刻む。


この渦巻型の紋様は煌魔石などを製作する時によく利用され、この状態ならば魔石に魔力を込めやすいらしく、モモは試しに魔操術を利用して魔力を送り込む。



「えっと……他の人に魔力を送り込むような感じでいいのかな?」

「そうね、魔力を分け与える点は同じだから試してみたらどう?」

「うん……あ、光ったよ!?」

「ほう、こいつは驚いた……本当に魔力を扱う技術を身に着けているんじゃな」



モモが魔石に魔力を送り込んだ瞬間、僅かではあるが魔石の中心が光り輝く。その様子を見ていたハマーンは感心した声を上げ、本当にモモが魔操術を扱える事を知る。


魔操術は普通は一般人が扱う技術ではなく、雑用として働いていたヒナとモモが扱えると聞いた時はハマーンは半信半疑だったが、彼女が魔石を手にした途端に反応した事に素直に驚く。



(一流の魔術師でも魔石に光を灯すにはかなりの魔力と集中力を必要とするはずだが……この者、もしかしたら化けるかもしれん)



モモの魔法の才能をハマーンは見抜き、彼女が何時の日か優秀な治癒魔導士になれるのではないかと考える。その一方でヒナはナイ達がいつ要塞に向かうのかをそれとなく尋ねる。



「あの……ナイ君達の姿が見えないんですけど、何処に行ったか分かります?」

「ん?ああ、あいつらならば街へ戻ったぞ。に遠出する事になったからな、そのために準備をしておるぞ」

「準備、ですか……なるほど」



ハマーンの話からヒナは明後日に討伐隊が山へ向かう事を知り、モモに頷く。彼女は明日までに煌魔石を作り出し、明後日までにナイへ渡さなければならない。



「よ〜し……ありがとう、お爺ちゃん!!」

「おじ……ちょっと、失礼でしょう!?」

「はっはっはっ、構わんよ。爺なのは確かじゃしな」



モモが黄金級冒険者であるハマーンをお爺ちゃん呼ばわりした事にヒナは焦るが、当のハマーン本人は気にしておらず、笑顔で二人を見送る。その一方で彼の弟子たちはハマーンに質問した。



「親方、どうしてあの二人の仕事を受けたんですか?」

「いくら可愛いといっても、仕事の時はしっかりと金を貰うのが親方なのに……」

「何……どうやらあの娘達は坊主と親しい間柄のようだからな。今のうちに貸しを作っておいて損は無いだろう」

「なるほど、そういう事ですか……流石は親方、腹黒い!!」

「誉め言葉になっておらんぞ!!」



ハマーンがモモの仕事を引き受けたのは彼女に貸しを作るためであり、もしもモモがナイに煌魔石を渡せばその時にハマーンも彼女を手伝ってくれた事から恩を感じる可能性も十分にあるからだった。


普段のハマーンならば相手が可愛い娘でも仕事となればしっかりと報酬を受け取るが、今回限りは無償で引き受けた理由はモモを通じてナイに貸しを与えるためである。


ナイの実力はハマーンも認めており、今後とも彼と仲良くしたいと思っていたハマーンにとっては今回のモモの依頼は都合が良かった。だからこそ敢えてヒナにナイ達が出発する時間もそれとなく教えておいた。最もヒナもハマーンが内密に自分達に協力している事に気付いている素振りがあり、ハマーンは顎髭を撫でながら考え込む。



(あのヒナという娘も只者ではないな……さて、仕事に戻るか)



ハマーンは弟子たちを引き連れ、ひとまずは飛行船を離れてイチノへ向かう事にした。彼等の仕事はイチノの守護だけではなく、破壊された城壁や街の復興という大仕事が待っていた――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る