閑話 〈聖女騎士団の復活の条件〉

――時は遡り、元聖女騎士団の団員達と共にテンは王城へと乗り込み、アルト王子の協力もあってすぐに国王と面会できた。だが、国王としてはイチノの遠征部隊に参加するはずのテンが飛行船に乗り込まず、ここへ戻ってきた事に不満な表情を浮かべた。



「……テンよ、今まで儂はお主の事を目に掛けてきたつもりじゃ。だが、今回ばかりは流石に我儘が過ぎるぞ」

「国王様のお怒りは最もです。ですが、あたしだってふざけるためにここへ来たわけじゃありません」

「父上、どうかテン指導官……いえ、テン殿の願いを聞き入れてください。王都の戦力を考えれば聖女騎士団の復活は喜ばしい事です」



国王としてはテンは信頼する人物であったが故に彼女ならば素直にイチノにいるリノ王子の救出に向かってくれると思った。しかし、彼女はイチノへ向かうどころか王都へ残り、昔の仲間を集めて今更騎士団を復活させたいと言い出した事に国王としては不満を抱かざるを得ない。


テンが現役だった頃から国王は彼女の実力を認め、亡き王妃の代わりに聖女騎士団を率いる存在になってくれると信じていた。しかし、王妃を失った後に彼女は騎士団を引き継ぐどころか解散させてしまう。結局はテン以外に聖女騎士団を率いる事が出来る人材もいなかったため、仕方なく国王はテンを指導官という立場を与えてどうにか国に留める。


それにも関わらずに王妃が死んでから10年以上も経過した今になって彼女が聖女騎士団を復活させたいと言われても、国王としてはあまりにも遅すぎる判断だと嘆く。



「お前達の言う事は理解している。しかし、テンよ……その台詞はもっと早く聞きたかったな」

「その点は私達も同意見だね」

「全くだ」

「あんたらね……」



国王の意見に関してはレイラもアリシアも同意し、ランファンさえも黙って頷く。もっと早くにテンが聖女騎士団を引き継ぎ、王妃の代わりに団長として活動する事を決意していれば今でも聖女騎士団は王国最強の騎士団として君臨していただろう。



「父上、テン殿の気持ちも汲んでください。王妃様を失った時、悲しんだのは彼女も一緒です」

「アルトよ、いくらお前の頼みであっても新しい騎士団を作り出すには簡単な事ではないぞ」

「しかし、マジク魔導士がいなくなった今、この王都にはマホ魔導士もイリア魔導士さえもいません。イチノから遠征部隊が引き返すまでの間、兄上が最も負担を負います」

「むむむ……」



アルトの言葉に国王は咄嗟に言い返せず、事実として現在の王都を守備力の低下は厳しく、マジクが亡くなった今となっては王都を守る人材は不足していた。


今回の遠征のために残された二人の魔導士も派遣し、更には王国騎士の中でも最高戦力のドリスとリンも離れた王都の守備はグマグ火山に騎士団を派遣した時よりも戦力は低下している。その事を考えると王都には新しい戦力が必要不可欠だった。



「父上、どうかここは寛大な心でテン殿の現役時代の功績を認め、聖女騎士団の復活を宣言して下さい」

「……テンよ、一応は聞くが人数はそれだけではあるまいな」

「はい、ここにいる3人とあたしを含めて現在は4人しかいませんが、片っ端から元団員の奴等に声を掛けています。王都を離れた連中もいるので集まるのに時間は掛かると思いますが、今の所は十数名の団員が戻る事を承諾してくれました」

「そうか……」



テンの発言を聞いて国王は考え込むが、アルトはすぐにテンの発言が嘘だと見抜く。確かにこの場に集まった3人はテンの説得で団員として戻ってきてくれる事を決意したが、この3人の場合は王都に元々滞在していたからすぐに集まってくれたに過ぎない。


王都から離れた場所で暮らす団員とそんな簡単に連絡が取れるはずがなく、テンは国王に対して嘘を吐いた事になる。だが、テン本人は必ず聖女騎士団の団員が戻ってくると確信しており、敢えてアルトもその事を指摘しない。



(彼女がここまで言うのだから時間さえあれば騎士団の団員も戻ってくるだろう。父上はどのように判断されるか……)



正直に言えばアルトは国王が素直に聖女騎士団の再結成を簡単に認めるはずがないと思っていた。しかし、国王も現在の王都の守備力の問題は理解しており、彼は深い溜息を吐きながら告げた。



「良かろう、そこまで言うのであれば聖女騎士団の再結成を認めよう」

「本当ですか!?」

「但し、条件がある……一週間、いや五日以内に団員を呼び集めよ。最低でも10名、期日内に集めなければ騎士団の復活は認めん」

「父上、それは……」



国王の条件を聞いたアルトは流石に厳しいかと思ったが、テンは堂々と答えた。



「五日?いいや、三日で十分ですよ。あいつらなら……必ず戻ってきますからね」



彼女の言葉通り、それから二日もしないうちに聖女騎士団の団員が集まり、その数は10名どころか20名は存在したという。


但し、戻って来た際に殆どの者がテンに対して不満を告げ、団長になる事を決心するのが遅すぎたという理由で彼女を殴りつける者も少なくはなかった。聖女騎士団という割には血の気が多い者が多く、期日を迎えた時にはテンの両頬は真っ赤に腫れていたという――




※今回の話は間違って深夜に投稿しまいました(´;ω;`)加筆修正して再投稿しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る