第434話 鳥獣型の魔物
「ナイ、窓を見て……魔物の姿が見える」
「えっ!?こんな高い場所から見えるの?」
ミイナに声を掛けられたナイは驚き、既に地上から大分離れている。しかし、ミイナの言いたい魔物とは地上の魔物の事ではなく、空を飛ぶ魔物の事だった。
「あっちを見て……あれが鳥獣型の魔物」
「あれは……ヒッポグリフのようですね」
「ヒッポグリフ……」
ナイは窓の外を眺めると、そこには前半身が鷲、後半身が馬のような生物が群れを成して空を移動していた。ナイも初めて見る魔物であり、ヒッポグリフと呼ばれた魔物達はフライングシャーク号を確認すると、驚いた様に離れていく。
『クエエエエッ!!』
鳴き声を上げながらヒッポグリフは空を移動する飛行船を確認した途端に方向転換を行い、距離を置く。どうやらフライングシャーク号の外見を見て超巨大な魔物だと勘違いしたらしく、逃げていく。
他にも空を飛ぶ魔物はなんどか見かけたが、やはりフライングシャーク号の外見を見ただけで逃げ出してしまい、その様子をみてナイはフライングシャーク号の偽装のお陰で余計な魔物との戦闘を避けられると知る。
「へえ、本当に魔物が驚いて逃げていくんだ……凄いね」
「最初に見た時は誰が何を考えて作り出したのかと思いましたが……」
「これなら空を飛んでいる時に襲われる事はなさそう」
「よく考えて作られているな」
「ええ、最初は誰かが遊び半分でこんな外装にしたのかと思いましたが、ちゃんと効果はあるのですね」
『…………』
ナイ達の会話を聞いてハマーンとアッシュは黙り込み、敢えて何も口にしない。まさか王妃が遊び半分で描かせた鮫の偽装によって、偶然にも飛行の際に魔物に襲われなくなった事を説明できるはずがない。
「さて……とりあえずは全員、到着までの間は楽にしてくれ。それぞれの個室に戻り、身体を休めるのも良し。腹が減っている者は食堂で食事を取っても構わない。1時間後、この飛行船は着陸する。それまでの間は自由にして構わん。但し、甲板に移動する事は許さんぞ!!」
『はっ!!』
飛行中は甲板の方は激しい風圧によって船員が落ちてしまう危険性があり、飛行の間は甲板の出入口は封じられ、移動する事は許されない。その事をしっかりと注意すると、アッシュは全員に休憩時間を与えた――
――王国騎士や黄金級冒険者、それにナイは一人一人に個室が割り当てられており、ナイは自分の部屋に入るとすぐに荷物を下ろす。部屋の中には窓が存在し、外の風景を眺める事が出来た。
(凄い速さだ……景色がどんどん変わっていく。これだけ早いならイチノまですぐに辿り着けそうだな)
窓の外の風景を除きながらナイはイチノの事を思い返し、親しい人たちが無事である事を祈る。しかし、ここでナイは冷静にどうしてイチノにゴブリンキングが現れたのかを考える。
(ゴブリンキングが軍勢を率いて襲い掛かってきたと言っていたけど、まさか僕が倒したホブゴブリンやゴブリン達も関係あるのか……?)
ナイがまだ村で暮らしていた頃、彼の村にホブゴブリンがゴブリンを引き連れて襲い掛かってきた事があった。その時はナイが「迎撃」や強化薬などの薬に頼ってどうにかホブゴブリンは倒したが、今思えばあの時から村の周囲に現れる魔物の様子がおかしかった。
まだナイが小さい頃は山の中でゴブリンを見かける事は殆どなかったが、アルに連れられて山の中によく訪れるようになってからはほぼ毎日ゴブリンの姿を見かける様になった。年を重ねる旅に山や草原でゴブリンの姿を見かける事が多くなり、その事がナイはゴブリンキングと何か関係があるのではないかと思う。
(もしかして村を襲ったホブゴブリン達もゴブリンキングと関係があるのか……だとしたら、皆の仇は……!?)
赤毛熊を討伐した時、ナイの暮らしていた村はホブゴブリンの集団の襲撃を受けた。今思えばあの時のホブゴブリン達も普通ではなく、明らかにナイが不在の間に村に襲い掛かった節がある。
ナイはホブゴブリンの行動がただの偶然だとは思わず、もしもホブゴブリン達がゴブリンキングに何らかの関りがある場合、ナイは村人の仇を完全に討てたわけではない。
(ゴブリンキングが誕生する時、その前の段階でゴブリンやホブゴブリンが大量に発生するとアルトは言っていた……なら、ゴブリンキングが誕生したせいで村の皆は殺されたというのか……くそっ!!)
現時点ではあくまでも予測の範囲に過ぎないが、ナイの予想は決して的外れではなく、現にゴブリンキングが姿を現したのは彼の生まれ故郷からそれほど離れていない場所である。
仮に村人達の仇であるホブゴブリンの群れがゴブリンキングと関りがなかったとしても、イチノをゴブリンキングの軍勢が襲撃している時点でナイからすればゴブリンキングの存在は許せるはずがない。何があろうとナイはゴブリンキングを倒す事を誓い、彼の怒りに反応するかの様に二つの大剣は刃を僅かに振動させた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます