第432話 フライングシャーク号

「これが鮫か……そういえば前に爺ちゃんがフカヒレというのを食べた事があると言ってたけど、この鮫から取れるんだっけ?」

「そうそう、高級食材だから王都の高級店でも滅多に食べられないわよ。もしも無事に帰ってきたら一緒に食べてみる?」

「あ、ずるいよヒナちゃん!!ナイ君、私と食べよう?」

「なら、帰って来たのに……」



二人に帰ってきたら一緒に高級店に立ち寄る事を約束すると、ナイは馬車から下りる。船には既に積み荷を運ぶ兵士の姿が存在し、指揮を取っているのは討伐部隊の指揮役を任せられているアッシュだった。



「間もなく出発する!!急いで荷物を運び込め、但し魔石の類は慎重に取り扱えっ!!」

「アッシュ様、こちらが最後の荷物となります!!」

「よし、では全員甲板に集まれ!!」



最後の荷物を運び込むと、アッシュは到達部隊の人員を甲板に呼び集める。この際にナイも甲板へ向かうために見送りに来てくれたヒナとモモに振り返る。



「じゃあ、二人とも……行ってくるね」

「うん……気を付けてね」

「ううっ……ナイ君、頑張ってね!!」



ハンカチを手にしてモモは涙を抑え、ヒナの方も心配そうな表情を浮かべる。そんな二人に対してナイは頷き、船へ乗り込もうとした。


この際に最後の荷物が運び出されそうになった時、モモは道端に置かれている空の木箱を発見する。どうやら中身だけが船の中に運び込まれたらしく、モモはヒナに話しかける。



「ヒナちゃん、あれって……だよね」

「えっ?モモ、あんた本気で言って……」

「……?」



後ろから聞こえてきた声にナイは不思議に思うが、甲板に人が集まってきたので急いで向かう。すると、既にそこには前回のゴーレムキング討伐のために集められた人員がほぼ勢揃いしていた。



「よう、坊主……怪我を治してくれた事は感謝してるぜ」

「おお、坊主!!やはり、お前さんも来ていたか!!」

「ナイ君、久しぶり……ていうほどでもないかな?」

「ハマーンさん!!それにリーナとガオウさんも……」



甲板には黄金級冒険者の3人の姿が存在し、他にもドリスやリン、ヒイロやミイナの姿も存在した。全員が既に集まっており、王国騎士や兵士も含めると合計で100人近くの人間が船に乗り込んでいた。



「皆、集まったな!!ではこれより我々はイチノへ向けて出発を行う。到着の予定は三日後、それまでの間は各自しっかりと準備を整えておけ!!途中、何度か陸地に居りて補給と整備を行う事になるが、常に警戒を怠るな!!」

『はっ!!』

「では、最後の荷物を積み込み次第に船を発進させるぞ!!全員、船内へ移動しろ!!移動中は甲板に移動する事は禁じる!!」



アッシュの言葉を聞いてナイ達は船にの運び込まれていく最後の荷物に視線を向け、この時にナイは先ほど見かけた時と違って荷物が増えている事に気付く。




「あれ?あの荷物……」

「ナイさん、何をしてるんですか?船が出発しますよ、船内へ移動しないと……」

「移動中に甲板に立つのは危険みたいだから、早く移動しないと怒られる」

「え?あ、うん……」



ヒイロとミイナに言われてナイは船内の方へ移動を行う。この際にレナは通路の窓にて外の様子を眺め、本当にこんな巨大な船が浮き上がるのかと不思議に思う。


全員が船内に移動したのを確認すると、アッシュは船の発信を命じる。この際に船を動かすのは整備を行ったハマーンと彼の弟子たちであり、ハマーンは外側が鮫の顔が描かれている場所へ移動し、鍛冶を取る。



「それでは動かすぞ……アッシュ公爵、よろしいですな?」

「ああ、任せる」



鮫の顔の瞳の部分は実は巨大な水晶であり、船の中からでも外の様子は伺えた。ハマーンは舵輪を握りしめると、舵輪の中心に嵌め込まれている水晶玉に手を伸ばし、船を起動させる。



「では……フライングシャーク号、発進!!」

「うわっ!?」

「じ、地震!?」

「いや……船が動き始めたんだ!!」



水晶玉に触れた途端に飛行船は激しく振動し、船内から見える窓の風景が一変する。飛行船に積み込まれた風属性の魔石が反応し、遂に飛行船は浮上した。


通常の飛行船とは異なり、この「フライングシャーク号」は魔石を動力にしている。飛行船を動かすのは風属性の魔石であり、飛行船の各地に設置された噴射口から風属性の魔力を放出して浮上する。


フライングシャーク号が王都の上空へ浮き上がると、船の後方へ設置されている巨大な噴射口から火属性の魔石を利用した加速装置が作動する。この飛行船に使用されているのは風属性の魔石だけではなく、火属性の魔力を放出してロケットエンジンのように加速を行う。



「出発!!」



ハマーンが水晶玉を回転させると、噴射口から火属性の魔力が放射され、フライングシャーク号は一気に加速し、イチノへ向けて出発を開始した――

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