第409話 旋斧の可能性

「ああ、今のこいつには膨大な火属性の魔力が宿っておる。多分、火竜を倒した時に奪ったんだろう」

「それはアルトも同じことを言ってたんですけど……」

「そうか……だが、こんな事は言っていたか?旋斧の魔力が尽きた時、また旋斧は元の状態に戻る事を」

「え?元に戻るんですか?」

「え〜……折角大きくなったのに?」



ハマーンの言葉を聞いてナイは旋斧が元の状態に戻るのかと思ったが、彼は首を振って説明の補足を行う。



「いや、大きさや形までは変化せんだろう。儂が言いたいのはこいつが宿した火竜の火属性の魔力を全て消耗した時、また旋斧は触れるだけで魔力を奪う状態に戻るという意味じゃ」

「どういう事だい?魔力を勝手に吸収する機能は消えたんじゃなかったのかい?」

「今のこいつは人間で例えるなら満腹の状態じゃ。魔力を餌にして喰らい続けた結果、食べ過ぎたせいで今はもう他の魔力を吸収する余裕もない」

「え、でも魔法剣の発動は出来ましたけど……」

「無理やりに魔力を流し込めば刀身に魔力を宿す程度の事は出来るのかもしれん。火属性の魔法剣なんかはむしろ刀身に宿した火属性の魔力と合わさって効果も大きくなっているんじゃないのか?」

「あ、はい!!その通りでした!!」



ナイはハマーンの鋭い指摘に頷き、確かに火属性の魔法剣を発動させたときは想像以上の効果を発揮していた。それを思い出したナイはハマーンに告げると、彼は自分の推測が当たっていた事に自慢げに胸を張る。



「とにかく、今のこいつは火属性の魔力に満ち溢れておる。だから他の魔力を吸収する余裕がないんだろう。だが、火属性の魔力が尽きた時は元の状態に戻るじゃろう」

「という事は……今は一時期的に魔力を吸収する能力が制限されているだけで、いずれは元に戻るんだね」

「そういう事になるな。まあ、火竜ほどの魔力を吸い上げたんじゃ。そう簡単には魔力を失う事はないだろうが……ちなみに火属性以外の魔法剣も使えるのか?」

「あ、いや……雷属性以外はまだです」

「そうか、ならここで試しに使って見てくれんか?」



火属性以外の魔法剣はナイはまだ試していないが、正確に言えば雷属性の魔法剣はゴーレムキングを討伐する時に使用している。あの時はマジクが最後に力を振り絞った雷属性の魔法を吸収して倒す事が出来た。


火属性と雷属性が発動する事は確定しており、他の属性を試すためにナイは魔法腕輪を装着する。まずは安全性の高い聖属性の魔力から試す。



「せぇのっ……わっ!?」

「こいつは……白炎かい?」

「いや……こりゃ本物の炎じゃな。白い炎だ」

「わあっ……綺麗だね〜」

「でも熱そうね……」



ナイが聖属性の魔力を旋斧に送り込んだ瞬間、刀身に白色の炎が纏い込み、最初にそれを見たテンは「白炎」かと思った。聖属性の魔力は限界まで高めると身体に炎のように纏う事から白炎と呼ばれる。


しかし、刀身に出現した白い炎は本物の白炎とは異なり、熱を発していた。通常の白炎は炎のように見えても攻撃能力はないため、触れても問題はない。だが、この刀身に纏った白い炎はどうやら聖属性と火属性の魔力を掛け合わせているらしく、高熱を帯びていた。



「ふむ、どうやら聖属性の場合だと火属性と魔力が組み合わされるようじゃな……なら、相反する水属性の魔力ならどうだ?」

「やってみます」

「水と火なら……お湯とかが出るのかな?」

「ぶはっ!!剣からお湯が出るのかい?そいつは傑作だね!!」

「熱湯を生み出す剣なら十分に危険だと思うけど……」



今度は火属性とは相反する水属性の魔力を刀身に送り込むと、ここでナイは疑問を抱く。魔力を送り込んでいるはずだが旋斧に変化は見られず、やげて蒸気のような物が発生した。



「あちちっ!?ちょ、何だい!?」

「け、煙!?」

「いや、違う!!すぐに魔力を送り込むのを辞めろ!!火属性と水属性の魔力が反発しておる!!」

「は、はい!!」



ハマーンの言葉にナイはすぐに魔力を送り込むのを辞めると、刀身は元に戻って全員安堵する。これで4つの属性を調べる事が出来たが、残されたのは地属性、闇属性、風属性の3つである。


このうちの風属性は火属性とは相性が良く、火属性は風属性の魔力を吸収する性質がある。下手に使用すれば火属性の時のように暴走する可能性もあるため、先に他の属性から試す事にした。



「じゃあ、地属性から行きますね」

「うむ、気を付けろ」

「は、はい……」



ナイはハマーンの言葉を聞いて緊張しながらも地属性の魔力を送り込む。すると、刀身に紅色の魔力が包み込み、この際に刀身に紅色の炎が宿った。それを見たナイは直感で危険だと判断し、咄嗟に剣を振る。

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