第352話 習得「命中」「俊足」「硬化」「熱耐性」

――その日の晩、ナイは屋敷に戻ると岩砕剣を握りしめ、素振りを行う。重量だけならば旋斧よりも重く、しかも魔法剣を使用すれば更に重量が増す。


これまでは旋斧に頼り過ぎていただけに他の武器で戦う事には慣れておらず、明日の試合ではアルトからの指示でナイは岩砕剣を使用して戦う事を勧められていた。だからこそ岩砕剣の扱いに慣れて置くため、ひたすら素振りを行う。



「ふうっ……大分、この重さにも慣れてきたな」



岩砕剣を地面に突き刺してナイは額の汗を拭い、やっと岩砕剣の重量も慣れてきた。岩砕剣の重さは退魔刀よりも重く、並の剣士ならば重量が重すぎてまともに剣を振る事も出来ないだろう。


剛力を扱えるナイやテンのような剛腕の剣士でもなければ岩砕剣を真に扱う事は出来ず、この王都でも二人を除いて岩砕剣を扱える人間はいないと思われた。しかも岩砕剣の最大の特徴は重量を増加するだけではなく、重力を解放する力を持つ。



「よし、今日はもう休むか……流石に疲れた」



明日の試合までに岩砕剣に慣れておくためにナイは部屋に戻ろうとしたが、ここで岩砕剣を見てある人物を思い出す。それは岩砕剣を始めて手にした時に戦ったリンだった。



(リンさん、強かったな……正面から戦って手も足も出なかった)



リンとの戦闘を思い返したナイは少し悔しく思い、まだ岩砕剣に慣れていない状態での戦闘とはいえ、完全にナイは敗北していた。


ナイは最後の最後で迎撃の技能を無意識に発動させてリンに反撃を食らわせていたが、その事は本人は覚えていない。だからこそ自分はリンに手も足も出ずに敗北したと思い込んでいた。



(動きが早い剣士には重量がある武器だと追いつけない……もっと、早く動けるようにならないと)



リンとの戦闘でナイは彼女のように身軽で足が速い剣士の強さを思い知らされ、もしも岩砕剣を使用する時に動作が素早い相手と戦う時を想定して自分も対策を練る。


この時にナイは首にかけているペンダントの事を思い出し、意を決したように彼は月の光でペンダントを照らす。すると、光の文章が地面に映し出され、ナイは覚悟を決めてまだ覚えていない技能を習得する事にした。



(技能を増やせばその分に経験値が分散してレベルが上がりにくくなる……けど、構うもんか)



先日の玉座の間での出来事を思い出し、改めてナイは技能が優れた能力である一方、レベルの上昇率が下がる話を知ってこれ以上に技能を覚えるのは控えていた。


しかし、もう既にナイは30近くの技能を習得し、今更新しい技能を大して変わらないと思った。それにリンが身に着けていた「俊足」という技能も現在のナイは身に付けられる。




――習得可能技能一覧――



・命中――弓矢、投擲系の武具で攻撃する場合、命中率が上昇する(SP消費量:10)


・俊足――移動速度が上昇する(SP消費量:10)


・硬化――筋肉を凝縮させる事で防御力が上昇する(SP消費量:10)


・狂化――興奮状態へと陥るが、攻撃力が大幅に強化される(SP消費量:10)


・熱耐性――高熱に対しての耐性を得られる(SP消費量:10)



――――――――――――




「やっぱりあった」



未収得の技能の項目にはリンも使用していた「俊足」という技能も表示され、この技能を覚えると移動速度が上昇するらしく、早速だがナイは習得を行う。SPはこれまでの戦闘で大分余っており、仮に全ての技能を覚えても半分も使わない程に有り余っていた。


SPを消費してナイは「俊足」を身に付けた後、ついでに「狂化」以外の技能も覚える事にした。その結果、ナイは合計で4つの技能を覚え、試しに一つずつ技能を確かめることにした。



「まずは……命中だな」



刺剣を取り出したナイは周囲を見渡し、適当な的を探す。この時にナイから10メートルほど離れた位置に存在する樹木が風に揺れ、葉を一枚落とす。


落ちてきた葉を見てナイは無意識に刺剣を振りかざし、投擲を行う。投げ放たれた刺剣は葉に的中すると、そのまま樹木へ突き刺さった。その光景を見たナイは驚いた表情を浮かべる。



「あんな小さい葉は……凄いな、この技能」



葉を貫いた状態の刺剣が樹木に突き刺さり、その様子を確認したナイは冷や汗を流しながらもこの技能は「投擲」と組み合わせる事で真価を発揮すると確信を抱く。


既にナイは投擲物の威力を上昇させる投擲の技能を覚えており、これに命中を組み合わせる事で遠距離攻撃も行えるようになった。この調子でナイは俊足の技能を確かめるため、岩砕剣を置いて駆け抜ける。



(うわっ!?足も速くなってる!?)



名前の通りに俊足を身に付けた途端にナイは身体が軽くなったような気分になり、いつも以上の速度で駆け抜ける事が出来た。こんな技能をリンは身に着けていたのかと思う反面、あまりの足の速さに感覚が追いつかず、ナイは小石に足を引っかけて転んでしまう。

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