第329話 質疑応答

「お主の事はアルトとバッシュから話は聞いておる。アッシュやリンやドリスとも面識があるそうだな」

「えっ?あ、はい……一応は」

「アッシュから聞いた話によるとお主はこの者に腕相撲で勝ったそうだな。若い頃は儂の騎士団にも所属していた王国騎士だったのだが……」

「はっはっはっ!!見事に負けましたぞ!!」

「何で負けた癖にそんなに誇らしげに語れるんだい……」



国王の言葉を聞いてアッシュは素直に敗北を認め、その隣に立つテンは呆れた表情を浮かべる。だが、ナイとしてはアッシュが国王の直属の騎士団に彼が所属していた事を知って驚く。


アッシュは家督を継ぐ前は国王の管理する「猛虎騎士団」に属する王国騎士だったらしく、それもあって国王からの信頼は厚い人物だった。現在は家督を継ぐ際に王国騎士の座を退いたが、彼の実力を知っているだけに国王はナイに負けたという話を聞いて驚いた。



「引退した身とは言え、アッシュは我が騎士団の中でも三本指に入る実力者だった。そのアッシュを腕相撲とはいえ、まさか腕力で勝つとは……いったいどのような鍛錬を積んできたのだ?」

「えっと……色々ですね」

「ふむ、色々か……具体的にどんな鍛錬を積んできたのか教えてくれぬか?」



ナイは国王の質問に対して適当に誤魔化そうとしたが、国王は更に踏み込んでくると、流石に答えないわけにはいかずに素直に話す事にした。



「そうですね……特別な鍛錬をしてきたつもりはないですけど、子供の頃は養父に鍛えられました。薪割りとか、走り込みとか、山の中を自由に動き回れるように体力を伸ばす訓練を重点的に行っていました」

「ほう、そういえば父君は狩人と言っていたな。なるほど、山で身体を鍛えていたという事か」

「はい、魔物と戦えるようになってからは……筋力を身に付けるために毎日岩を剣で壊す訓練をしてきました」

「岩を……壊す?」



体力づくりの訓練までは納得したが、岩を剣で破壊するという鍛錬法を聞いて他の者達は呆気に取られる。だが、ナイは昔の事を思い出しながら説明を行う。



「ある理由で僕は毎日岩石を叩き割る訓練を行っていました。1年ぐらい岩に剣を叩き続けていたので腕力は付いたと思います」

「そ、そうか……しかし、そんな無茶な訓練を続けて身体は壊さなかったのか?」

「はい、爺ちゃん……いや、養父から薬の調合も教わっていたので、怪我をした時や筋肉痛の時もどうにかなりました」

「なるほど……それにしてもどうしてそのような無茶な訓練をしたのだ?」

「……養父を殺した仇を討つためです。養父を殺したのは赤毛熊でした、だから赤毛熊を倒すためにどうしても力が必要だったんです」

「何と……!?」



赤毛熊という単語に動揺が走り、ナイが今よりも若い時に赤毛熊を倒していた事を知って驚く。赤毛熊は危険度はガーゴイル亜種やミノタウロスには劣るが、それでも人間の子供が敵う相手ではない。


鋼鉄の如きに頑丈な肉体を持つ赤毛熊を倒すためにはナイは腕力を鍛える必要があり、毎日狂ったように旋斧で岩を叩き続けた。そのお陰でナイはレベル1の身でありながら赤毛熊を切り裂く程の筋力を身に付ける事に成功した。



「赤毛熊を倒した後……色々とあって故郷を離れました。その時にマホ魔導士と出会って魔操術を教えてもらいました」

「ほう、ではお主はマホの弟子という事か?」

「いえ、弟子にはなりませんでしたが魔操術の基礎を教わりました。その後は自分なりに魔操術を磨いてきました」

「そういう事であったか……」



ナイが魔操術を覚えている事を知って国王は納得した表情を浮かべ、確かに魔操術を身に着けているのならばガーゴイル亜種やミノタウロスを倒したという話も納得できる。


魔装術を鍛えれば傷の再生だけではなく、身体能力を強化する事も出来る。しかも元から身体能力が高い人間程に魔操術の効果は大きく発揮し、まだ年齢は若くても素の身体能力で赤毛熊を倒せる程の実力を持っているナイならばガーゴイル亜種やミノタウロスを倒す事は出来てもおかしくはない。



(あのマホが自分の弟子以外に魔操術を教えるとは……この少年の才能を見抜き、教えずにはいられなかったか、あるいは弟子に勧誘するつもりだったか)



国王はナイの話を聞いて彼が嘘を吐いているとは思えず、第一に嘘を吐くならもっとまともな話を行う。幼少期に赤毛熊を倒すために剣で岩を叩き斬る訓練を行っていたと言われたら普通の人間ならば信じるはずがない。しかし、国王はナイと実際に相対して彼がくだらない嘘を言うような人間には見えなかった。



「ナイと言ったな。不躾だが……お主のレベルを教えてくれぬか?それほどの力を身に着けているのなら40、いや50はあると見たが」

「えっ……」

「どうした?答えたくないのか?」



レベルの話を持ち掛けられたナイは非常に返答に困り果て、その様子を見た国王は不思議そうな表情を浮かべる。ナイとしては国王に尋ねられた以上は下手な嘘で誤魔化す事は出来ず、意を決したように答えた。






※続きが気になる所ですが、ここまでにしておきます。

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