第318話 銀狼騎士団副団長の実力
「申し訳ありません、アルト王子……どうやら私は彼の実力を見誤っていたようです」
「いや、気にする事はないよ。僕も最初からナイ君の実力をちゃんと伝えるべきだった」
「ですが、この様子では彼の訓練にはなりません。そこで私が相手をするのはどうですか?」
「えっ!?リン副団長が!?」
「それは流石に……」
リンがナイの練習相手を申し込んできた事に他の者達はざわつき、ヒイロとミイナも顔色を変えた。リンの実力はナイを除いてこの場に存在する全員が把握しており、アルトも冷や汗を流す。
「リン副団長、それはいくらなんでも大人げないだろう。団員が敗れたとはいえ、まさか一般人であるナイ君に君程の実力者が相手をするなんて……」
「いいえ、申し訳ありませんが私以外に彼の相手を出来る団員はこの場にはいません。それに言い訳をさせてもらうと銀狼騎士団の精鋭は現在はリノ団長の任務に同行中です。ここにいる団員は全員が最近入隊したばかりの新参者です」
銀狼騎士団の団長であるリノは現在はゴブリンキングの調査のために王都から離れており、この際に実力がある団員は彼女と同行している。そのため、王都に残っている騎士団の殆どの団員は実力不足でリノに同行出来なかった者達ばかりである。
あくまでもナイに敗れた団員は新参者でリノが連れ立った精鋭部隊とは格が落ちる事を説明し、残された銀狼騎士団の団員では彼の相手は務まらないとなると副団長である自分が責任を取って戦う事を告げた。
「私が相手をしましょう。大丈夫です、この魔剣の能力は封じます」
「そ、そうか……そこまで君が言うのなら僕も止めはしないよ」
「ナイさん、頑張ってください!!」
「気を付けて……骨は拾ってあげる」
「う、うん……」
闘技台にリンが上がり込むとアルトは自分では止められないと判断し、試合の許可を出す。ヒイロとミイナはナイを心配するように声を掛けると、ナイの方もリンの迫力を感じて気圧されてしまう。
先ほどの団員二人と比べてもリンの迫力は桁違いであり、ナイはまるでガーゴイル亜種やミノタウロスと相対した時の様な威圧感を感じた。向かい合うだけでナイはリンが只者ではないと感じ取り、自分も全力で挑む事にした。
(あの背中の武器……多分、爺ちゃんが昔言っていた刀とかいう武器だろうな)
この世界では刀を扱う剣士は滅多におらず、しかも大太刀のような武器などナイも見るのは初めてである。異様に長い刀身を見てナイはあんなものが鞘から抜けるのかと思ったが、リンは背中に差し込んだ大太刀を握りしめた状態で動かない。
(刃を抜かない?どうして?まさか本当に抜けないとか……いや、そんなわけがない)
鞘から大太刀を抜こうとしないリンを見てナイは戸惑うが、黙って見ているだけでは何も変わらず、ここは危険を承知で近付こうとした。
ナイは岩石剣を両手で握りしめ、一気に近付いて攻撃を仕掛けようとした。だが、ある程度の距離まで近づいた瞬間、異様な気配を感じてナイは目を見開く。
(まずい!?)
本能で危険を察したナイは咄嗟に跳躍の技能を発動させ、後方へ跳ぶ。その直後、ナイが先ほどまで立っていた場所の地面に金属音が鳴り響き、頑丈な石畳に刃物で切り付けられたような跡が走った。
「なっ!?」
「ほうっ……今のを避けるか」
ナイは驚愕の声を上げながらもリンに視線を向けると、いつの間にか彼女は鞘から刃を抜いた状態だった。何時の間にか鞘から大太刀を抜いていた事にナイは戸惑い、もしも下手に近付いていたら今頃はナイが切りつけられていただろう。
目にも止まらぬ速度で鞘から大太刀を抜いたリンにナイは戦慄し、その一方でリンの方はゆっくりとした動作で鞘を引き抜き、腰へと移動させる。剣術の「居合」を想像させる構えを取ったリンに対してナイは全身から冷や汗を流す。
(今の攻撃……もしも近付いていたらやられていた)
咄嗟に危険を感じ取って回避行動にとれたので助かったが、もしもナイが踏み込んでいればリンの大太刀はナイの手首を切り裂いていたかもしれない。訓練だと忘れているのかリンは本気で切りかかってきた。
(あの構え、さっきよりも攻撃範囲が広そうだ……もしも刃の届く距離に近付いたら今度こそ斬られるかもしれない)
先ほどの攻防ではリンは背中に背負った状態の大太刀を引き抜いたが、今度は腰に鞘に異動させた事で更に刃が抜けやすくなっている。不用意に近づけばナイは敗北は免れず、方法を考えなければならない。
しかし、悠長に悩んでいる暇などリンは与えず、彼女はナイに向けて駆け出す。腰に差した大太刀を握りしめた状態でリンはナイの元へ向かう。
「今度はこちらから仕掛けさせてもらうぞ」
「うわっ!?」
「ナイ君、逃げるんだ!!彼女の射程範囲に入ったら斬られるぞ!!」
接近してきたリンに対してナイは慌てて距離を取ろうとするが、リンの足は異様なまでに早く、距離を一気に詰める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます