第314話 その子に会いたい

「リーナ様はナイ様に興味があるのですか?」

「それは……あるよ。そんなに強い子なら僕も戦ってみたい」

「戦いたい、ですか?」

「うん、だって腕相撲とはいえ、お父さんに勝ったんでしょ?ならどれくらい強いのか気にならない?」



リーナも武人としてナイがどれほどの強さなのか気にかかり、自分と手合わせしてほしいと考え込む。その様子を見たロウは少し考え込み、彼女に助言を行う。



「そういう事であればアルト王子様にお伺いを立てるのはどうでしょうか?リーナ様はアルト王子様とは幼馴染、ならば貴女の願いならば聞き入れてくれるかもしれません」

「えっ……そっか、アルト王子に頼めばいいのか。ロウ爺ちゃん、ありがとう!!なら、すぐに手紙を書くね!!」

「いえ、お気になさらずに……」



ロウの助言を受けてリーナはアルトに相談するため、手紙の準備を行う。いくら公爵家の令嬢とはいえ、相手が王子となると簡単に会える相手ではなく、早速だがリーナは手紙を書いてアルトに送る事にした――






――それから翌日、アルトの元にリーナの手紙が届く。彼はその内容を見て反応に困ってしまい、とりあえずはナイに相談する事にした。



「ナイ君、実は君に会いたいという子がいるんだが……」

「会いたい?誰が?」

「リーナという名前の女の子だ。アッシュ公爵の娘で僕とは子供の頃からの付き合いなんだが、彼女が君に会いたがってるみたいだ」

「え?アッシュ公爵の娘?」

「リーナ様が急にどうして……」

「ナイ、何かしたの?」



アッシュ公爵の娘であるリーナが自分に会いたがっていると伝えられ、ナイは戸惑う。アッシュ公爵に娘がいたという話は聞いていたが、その娘が急に自分に会いたいと申し出てきて反応に困る。



「どうして娘さんが急に……?」

「手紙によると……内容としては君と戦ってみたいそうだ。彼女も父親と同様に優秀な武人だからね、父親を破った君に興味を抱いたんじゃないか?」

「破ったって……腕相撲をしただけだよ。別に戦ったわけじゃないのに」

「止めて置いた方が良いですよ、アッシュ公爵の娘さんは本当に強いですから」

「私達も前に戦った時は手も足も出なかった」



アルト専属の王国騎士(見習い)であるヒイロとミイナはリーナの事を知っているらしく、二人はリーナと戦った事もあった。冒険者との戦闘訓練という名目で二人はリーナと戦ったが、その時は手も足も出なかったらしい。


リーナの実力は仮にも王国騎士(見習い)の二人を上回るらしく、しかも彼女は冒険者の中では最高階級の黄金級冒険者に昇格している。年齢は16才で彼女は史上最年少で黄金級冒険者に昇格した人物として王都でも有名らしい。



「リーナは強いよ、僕の知る限りでは黒狼騎士団や銀狼騎士団の副団長達にも負けない強さだ」

「えっ!?」

「まあ、リーナの場合はあの二人と違って魔法の類は扱えないが、それでも彼女は槍の腕だけで黄金級冒険者に昇格したんだ。それに粘り強い性格だからね、きっと君が勝負を引き受けてくれるまで何度でも申し込んでくるだろうね」

「ええっ……」

「諦めた方が良い、リーナは一度決めた事は何をしてでも絶対に果たす」

「私達もそれで苦労させられましたね……」



ヒイロとミイナも過去にリーナと何かあったらしく、彼女達は疲れた表情を浮かべる。しかし、急に勝負を申し込まれてもナイの方が困り、仮にも王国騎士団の副団長達と同程度の実力を持つ人間に勝負しろと言われても困り果ててしまう。



「どうにか断れないのかな……?」

「難しいとは思うよ。でも、どうしてもその気がないのなら僕の方から彼女を説得しようか?」

「う~ん……」



アルトがナイの代わりにリーナを説得しようかと提案するが、それはそれでアルトに迷惑が掛かると思い、ナイは考え込む。実際の所は迷惑をかけると言ってもナイが特に悪いわけではないのだが、話に聞く限りでは勝負を受けない限りはリーナは諦めそうにない。



「勝負といってもまさか本気で戦うわけじゃないよね?試合方式で戦うとか?」

「リーナが君の実力を知れるぐらいに戦えば十分だとは思うよ」

「なら、訓練用の武器で戦うぐらいで十分ではないですか?」

「でもそれだとナイが不利になる。ナイの場合は旋斧みたいに重量がある武器じゃないと本気で戦えないかもしれない」



あくまでもリーナに実力を示すだけならば訓練用の武器でも十分だと思われるが、問題があるとすればナイが旋斧のような特殊で重量のある武器でしか本気を出せない事だった。


子供の頃から重量の武器を使い続けたナイからすれば普通の剣では重さが物足りず、本気で扱う事が出来ない。テンが使用していた退魔刀のような武器ならばまだ使えなくもないが、訓練用の武器の中でナイが満足する重量の武器があるかどうか問題だった。

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