第277話 旋斧の能力が発動する条件
「物体に魔力を宿す魔法は主に付与魔法と言われているんだ。魔法剣などはこれにあたるね、ちなみにヒイロが持っている烈火は火属性の魔力を宿しやすい性質を持っているんだよ」
「はい、私自身は魔法は使えませんけど、この魔剣に火属性の魔力を送り込む事は出来ます」
「なるほど……つまり、付与魔法は物体に魔力を宿す魔法、という感じかな?」
「そういう認識で間違いないね」
アルトによるとヒイロが普段から使用している魔法剣の類は付与魔法の一種らしく、彼女は魔法を使えないが魔剣に火属性の魔力を送り込むは出来る。そして烈火は火属性の魔力を宿しやすい性質を持っているらしく、それも合って武器に炎の魔力を宿せるという。
「恐らくだが、ナイ君の旋斧がガーゴイル亜種の炎の魔力を吸収できたのは、ガーゴイル亜種が炎の魔力を体外に放出しようとしていたからだ。つまり、言ってみれば身体から離れた魔力を旋斧が吸収したといえる」
「えっと……どういう事?」
「ヒイロの魔法剣を吸収できなかったのは性質の違いだろうね。付与魔法は物体に魔力を宿す、言い方を変えれば物体に魔力を留めるんだ。そして旋斧は魔力を吸収できなかったのは物体に固定された魔力を吸い上げる事が出来なかった……だが、ガーゴイル亜種の場合は既に身体の外に集めていた魔力を旋斧に奪われた形になるんだろう」
ヒイロとの戦闘で旋斧が魔剣の魔力を吸収できなかったのは物体に魔力が固定されていた事が原因であり、逆にガーゴイル亜種の場合は口元に集めた魔力は既に体外に放出されている状態のため、旋斧でも奪う事が出来たという。
魔法剣の場合はあくまでも剣に魔力が宿った状態であり、ガーゴイル亜種の吐息の場合は口元に集めた魔力が既に体内から離れていたため、旋斧でも吸収する事が出来たとアルトは推測を立てる。
「恐らくだがナイ君の旋斧は魔術師が扱う砲撃魔法の類の攻撃ならば吸収する事が出来るだろう。まあ、どの程度の魔力を吸収できるのかは分からないが……」
「砲撃魔法?」
「おや、知らないのかい?魔術師は杖などを利用して魔力を集中させ、一気に解き放つ。それらの攻撃は砲撃魔法と呼ばれているんだ」
ナイはアルトの説明を聞いてゴブリンメイジが使用した「ファイアボール」の事を思い出し、あのような魔法の事を砲撃魔法と呼ばれている事を初めて知る。
あくまでもアルトの推測だが、ナイの旋斧は魔法剣の類から魔力を吸収する事は出来ないが、ガーゴイル亜種のような魔法の吐息や、魔術師が扱う砲撃魔法の類ならば吸収できる力を持つ。
旋斧にそのような能力がある事をナイはアルから聞いた事がないため、これは彼も知らなかったのかもしれない。そしてアルトの仮説はまだ続き、近くの空いている机を指差す。
「ナイ君、悪いんだがあっちの机に旋斧を置いてくれるかい?」
「え?いいけど……何をする気なの?」
「ちょっとした実験さ」
アルトの言葉にナイは不思議に思いながら言われた通りに何も乗っていない机の上に旋斧を置く。その様子を見てアルトはゆっくりと指を伸ばし、刃の部分に触れて何かを確かめるように覗き込む。
「ふむ……なるほど、そういう事か」
「王子、何をしているのかあたしたちにも説明してくれませんかね」
「ああ、すまない……だが、説明する前に試したいことがあるんだがいいかい?」
「試したい事?」
旋斧に触れた状態でアルトは周囲の人間の顔を見渡し、ここで彼はヒイロに視線を向けた。ヒイロは自分が見られている事に驚いたが、そんな彼女にアルトは旋斧を指差す。
「ヒイロ、悪いけどこれを持ってくれるかい?」
「えっ!?私がですか?」
「ああ、頼むよ」
声を掛けられたヒイロは戸惑うが、アルトの言う通りに彼女は旋斧を持ち上げようとした。だが、旋斧を手にすると渾身の力を込めるが、両手を使用しても持ち上げるのが精いっぱいだった。
「うぐぐっ……お、重い」
「無理をしない方が良いと思う」
「ふむ、重い……か」
残念ながらヒイロの筋力では旋斧を持ち上げる事が精いっぱいでとても扱いこなせる様子はなく、彼女は疲れた表情を浮かべて机の上に下ろす。
一部始終を見届けたアルトは自分の身に付けている手袋に視線を向け、それを取り外すとヒイロに渡す。そしてもう一度彼女に持ち上げるように指示を出した。
「ヒイロ、もう一度持ち上げてくれ。但し、今度はこの手袋を使うんだ」
「えっ……手袋?この手袋を付けてまた持ち上げるんですか?」
「そうだ。ちなみにその手袋は特別な素材は一切使っていない、ただの手袋だよ」
「ええっ……?」
アルトの言葉にヒイロは戸惑いながらも言われた通りに手袋を装着し、もう一度旋斧を持ち上げようとした。だが、この時に彼女は旋斧の柄を握りしめた瞬間、驚いた表情を浮かべる。
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