閑話 〈王都の噂〉

――王都の住民の間ではとある噂が広がっていた。その内容というのがミノタウロスを倒した少年の話である。噂は既に城下町に広がり、誰もがその内容に興味を抱く。



「なあ、おい……聞いたか?街中で現れたミノタウロスを倒したとかいう子供の話」

「ああ、知ってるよ。でも、あんなのデマに決まってるだろ?」

「いや、それがそうでもないんだよ。実際に俺は噴水広場に行ったんだけどよ、ミノタウロスの死骸を警備兵が回収する姿を見たんだよ」

「本当か、それ?」



酒場にて実際に現場に赴いた街の住民が話し始めると、他の客まで興味を抱き、彼の話に聞き入る。ミノタウロスが現れたという現場に訪れた男性の話によると、実際にミノタウロスの死骸を警備兵が運び込む光景を確認したという。



「ミノタウロスが現れた現場の近くに住んでいる奴等に聞いたんだけどよ、そのミノタウロスは闘技場の移送の際中に暴れ出して馬車を護衛していた冒険者達を蹴散らしたんだとよ。そこに一人の少年が現れてミノタウロスをぶっ倒したとか……」

「冒険者がやられた!?」

「おいおい、本当か?じゃあ、その少年は相当に凄腕の冒険者だったのか?階級は何だったんだ?」



話を聞いて興味を抱いた一人が少年が冒険者なのかと尋ねるが、その言葉に対して男性は首を振った。彼が話を聞いた住民の話によると少年は冒険者ならば必ず着用義務のあるバッジを身に付けていなかったらしい。



「いや、目撃者によると冒険者のバッジは身に付けていなかったらしい」

「え?じゃあ、傭兵だったのか?」

「それは分からねえ、だけど見た感じでは結構大層な武器を身に付けていたらしい。剣というか、斧というか……後、変わった盾も身に付けていたそうだな」

「何だよ、曖昧だな……」

「仕方ねえだろ、そいつだって戦いに巻き込まれない様に建物の窓からこっそりと覗いていただけなんだよ……」



残念ながらミノタウロスと少年の戦闘を間近で見ていた人間はおらず、目撃者の殆どは建物の中から外の様子を伺っていたという。だから少年の詳しい容姿までは把握できなかったが、少なくとも冒険者とも傭兵にも見えなかったという。



「ここで重要なのがこの間、バーリの屋敷で騒ぎが起きた事は覚えているな?」

「ああ、そういえばそんな事も有ったな。あの悪徳商人だろ?」

「そうだ、あの野郎は王国騎士団に捕らえられたと聞いているが、実は俺の知り合いも騎士でな、そいつが酔っ払った時に聞いたんだが、騎士団が駆けつけて来た時に少年を見かけたらしい。その少年は何でも馬鹿でかいガーゴイルを相手に戦っていたとか……」

「おいおい……じゃあ、その子供がミノタウロスと戦っていた子供と一緒だというのか?」

「あくまでも可能性だがな……まあ、こっちの話は正直に言えば信憑性は薄いな。だけど、ミノタウロスを倒したというのは本当だ。嘘だと思うなら警備兵から話を聞いてみろ」



男性の言葉に他の者達は半信半疑という表情を浮かべるが、その話を耳にしていた一人のの少年が席を立ち、男性に尋ねた。



「――おい、今の話は本当か?」

「え?あ、ああ……嘘じゃねえ、俺は実際に聞いたんだ」

「ちっ……」



男性から話を聞いた獣人族の少年はあからさまに不機嫌そうに舌打ちを行うと、その店を後にした――






※まさか、この少年は……!?

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