第259話 公爵家の誕生パーティー
「貴族の宴なんて普通なら面倒だから参加なんてしたくないけどね……仕方ないね、ここはドリスの顔を立てるために参加するか」
「えっ!?でも女将さん、ドレスなんて持ってるの!?」
「あんた、あたしの事を何だと思ってるんだい!!ドレスの一つや二つぐらい持ってるに決まってるだろ!?」
「ねえねえ、私も一緒に行っていいんだよね!?」
「うん、友達も呼んでいいと言ってたから問題ないと思うけど……」
ヒイロはミイナは王国騎士(見習い)、テンの場合は元は王国騎士なので問題はないだろうが、一般人であるナイ、ヒナ、モモの3人は貴族の宴に参加するとなると場違いではないかと思われるかもしれない。
だが、ナイとヒナは直接にドリスから招待状を渡され、更に彼女本人から友達を呼んでもいいと許可を貰っている。そもそも今回の宴にはドリスの一般人の友人や知人も参加しているらしいのでモモが参加しても問題はないはずだった。
「仕方ないから今日は早めに店仕舞いするよ。あんた達、全員ちゃんと着替えるんだよ」
『は~いっ!!』
テンの言葉に全員が行動を開始する。ヒナとモモは仕事を早く終わらせるために急ぎ、ヒイロとミイナは一度自分達の制服を着替えるために引き返す。最後に残されたナイは招待状に視線を向け、まさか貴族の宴に参加する日が来るとは思いもしなかった。
(食べ物を持ち帰れるならビャクのご飯も持って帰ろうかな……)
宴がどのような物なのか想像つかず、ナイは食べ物が余ったら分けて貰えないかという庶民的な考えを抱きながら迎えの馬車が来るまでに服を整える事にした――
――時刻は夕方を迎えると、ドリスの宣言通りに馬車が白猫亭に辿り着いた。流石は公爵家が用意した馬車であり、普通の馬車よりも豪勢でしかもメイドまで同行していた。
「お待たせしました。どうぞ、中へお入りください」
「はあっ……流石にフレア公爵家ともなると馬車も大層なもんだね」
「フレア公爵……?」
「何だ、あんたドリスの家名も知らなかったのかい?」
テンによるとドリスの家名は「フレア」というらしく、彼女は「ドリス・フレア」が本名になる。ナイの貴族の印象は長ったらしい家名だと思っていたが、意外と短くて少し驚く。
全員が正装を済ませており、ヒイロとミイナは新しく着替えた制服、ヒナとモモもドレスに着替えたが、テンの場合は少々サイズがきついドレスを着こんでいた。
「テンさん……本当にその服で行くの?というか、それ何年前に買ったドレスなの?ちょっとセンスが……」
「うるさいね、あたしが騎士だった時に来ていたドレスだよ!!」
「それって本当に何年前なの!?」
現役時代によく着込んでいたドレスをテンは引っ張り出してきたが、残念ながら現役の頃と比べるとテンは体型が違い、今の彼女が着るにはぎりぎりだった。少しでも力を込めればドレスが引き裂けるのではないかと心配するが、生憎と他に替えのドレスはテンは持っていない。
今から服屋に立ち寄る時間もなく、仕方ないのでこのまま格好でテンはいく事になったが、ここで何故かナイは普段通りの動きやすい恰好に何故か旋斧と反魔の盾を身に付け、まるで王都の外に出るような恰好をしていた。
「ちょっと待って……ナイ君、その格好で行くの?いくらなんでもそれは……」
「そうですよ!!ドリスさんの誕生日を祝う宴なんですよ?そんな格好では失礼です!!」
「あんた、今日服を買ってきたんだろ?もっとちゃんとした服はなかったのかい?」
「え~……私はこの格好のナイ君も格好いいと思うのに」
「動きやすそうでいいと思う」
「えっと……」
ナイが普段通りの格好である事にヒイロは注意するが、ナイとしても最初は正装に着替えて出向く予定だった。しかし、招待状を確認した時に何故か気になる文面が記されていたのだ。
「それが、この招待状の最後の方にちょっと気になる事が書いてあって……」
「気になる事?」
「ほら、ここ……ナイ様は普段通りの格好でご参加して下さい。武器と防具も忘れずに……って、なにこれ!?」
何故かナイの渡された招待状には武器と防具を整えて参加する様に促されており、しかも文面を確認する限りだと別人が書いた物だと思われ、恐らくはドリスがナイに招待状を渡す時に書き足したと思われた。
どうしてドリスがこんな文章を書き残したのは不明だが、読み忘れない様に彼女は付け足した文章にわざわざ丸で囲み、ご丁寧に招待状の端の方には「読み忘れに注意!!」とまで書き込んでいた。何が目的でドリスは武装した状態でナイに宴に訪れるように指示したのかは不明だが、言われた通りにナイは普段通りの格好で参加する。
「おいおい、本当にその恰好で行くのかい?ちょっとあんた、こいつはこの格好で行きたいそうだけど大丈夫なのかい?」
「はい、問題ありません。今回の宴は服装の規定はありませんので……」
馬車に同席していたメイドに尋ねるとナイの格好を見ても彼女は動じず、あっさりと認めてくれた。その態度にナイは疑問を抱くが、彼女は馬車の中へ入るように促す。
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