第249話 魔剣には意志がある

「魔剣かどうかは分かりませんけど……100年以上も前に作り出された武器だと聞いています」

「ほう、それは年代物だな!!どれどれ、ちょっと持ってみてもいいか?」

「え?あ、でも……重いですよ?」

「それは楽しみだ」



ナイの許可を得るとアッシュは兵士が3人がかりで持ち上げる旋斧に手を伸ばし、彼は片手で柄を掴むとその重量を感じ取り、笑みを浮かべる。そしてあろう事か、右腕のみで旋斧を持ち上げた。



「ふんっ!!」

「おおっ!?」

「さ、流石は公爵……」

「あんなに重い剣を軽々と……!?」

「す、凄い……」



アッシュは片腕のみで旋斧を持ち上げるとナイも兵士達も驚き、これまでに旋斧をナイ以外の人間の中で片手で持ち上げた物は誰一人としていない。だが、アッシュはしばらくの間は旋斧を持ち続けたが、流石に限界が来たのか眉をしかめてナイに手渡す。



「ぐうっ……流石に重いな、それにこの剣はどうやら俺の事が気に入らないらしい」

「えっ?」



ナイはアッシュの言葉に不思議に思うが、渡された旋斧を手にして刃を覗き込む。彼の言葉がどういう意味なのか分からなかったが、アッシュはナイが旋斧を持った途端、刃の輝きが増したように見えた。



「ふむ、どうやらその剣は君の事を主人と認めているようだ」

「え、主人……?」

「魔剣の類は誰もが扱えるわけじゃない。魔剣には人のような意志があり、自分で使い手を選ぶと伝えられている。その剣も君の事を気に入っているらしい、俺では到底扱う事は出来ないだろう」

「そうなんですか?」



旋斧に自分が気に入られているという言葉にナイは不思議に思い、そもそもこの旋斧の本来の所有者はアルである。旋斧は代々アルの家系に伝わる家宝のはずだが、どうして自分を気に入ったのかとナイは疑問を抱く。


だが、言われてみれば昔と比べれば旋斧に対してナイは愛着を抱き、今ではこれ以外の武器では到底満足に戦えない。先日のガーゴイル亜種との戦闘でも退魔刀なる武器を使用したが、結局は旋斧と比べるとどうにも扱いが悪かった。



(そういえばビャクが旋斧を持ってくるとき、変な事を言ってたな……)



ガーゴイル亜種との戦闘の際、宿で待機していたはずのビャクは何故か旋斧を咥えてナイの元へ届けてくれた。あの時はビャクの援護のお陰で命拾いしたが、よくよく考えるとどうして急にビャクが自分の武器を持って駆けつけてくれたのかと不思議に思ったナイは彼に問い質す。



『ビャク、どうして旋斧を持ってきてくれたの?お陰で助かったけど、ここまで運ぶのに大変だったでしょ?』

『クゥ〜ンッ……』

『えっ?全然重くなかった……?』



ビャクは言葉は話せないが人語を理解できるのである程度の意志の疎通は出来る。そのため、ナイはビャクが旋斧を持って来た理由を尋ねると、ビャク自身もよく分からないという。


どうしてビャクは宿屋まで戻り、ナイの旋斧をバーリの屋敷にまで運び出したのかは自分でも分からず、何となくだが誰かに武器を運ぶように命令を受けた様な気がしたらしい。しかも旋斧を運ぶ際中にビャクは相当な重量があるはずの旋斧を全く重さが感じず、楽々と運び込む事が出来た。


この時のナイはビャクから事情を聞いても訳が分からず、結局はビャクが野生の本能でナイの危機を感じ取り、武器を運んでくれたと思った。しかし、アッシュの魔剣には人のような意志があるという言葉にナイは旋斧に視線を向ける。



(もしかして……今まで助けてくれたのはお前だったのか?)



ナイが窮地に陥った時、旋斧は必ず彼の元にあった。もしかしたら今まで危機を迎えた時も旋斧が自分の意志でナイの元に戻ってきたのではないかと考えるが、ナイは首を振る。



(まさかね……)



武器に意志が宿ると言われてもナイは簡単には信じられず、ただの偶然かと思った。しかし、アッシュの方はナイの旋斧に視線を向け、何かを感じ取ったように頷く。



「その魔剣……いや、旋斧といったな。それは大切にした方が良い、きっと君が成長するようにその剣も強くなるだろう」

「えっ……剣が強く?」

「何だ、そんな事も知らなかったのか?普通の武器と違って魔剣の類は主人の力量に合わせて能力が上昇する。その旋斧が魔剣だとすれば君が強くなるほどにその旋斧もより強い剣になるだろう」

「強い剣に……」



ナイはアッシュの言葉を聞いて旋斧に視線を向け、心なしか昔と比べると刃の輝きが違うような気がした。言葉では上手く表せないが、確かにナイも旋斧の変化を感じとる。


旋斧が魔剣の類である可能性は極めて高く、普通の武器ではないのは確かだった。しかし、肝心の旋斧の能力は謎に満ちたままであり、その点だけはナイも気になっていた。

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