第247話 公爵家の屋敷

「アッシュ公爵がお呼びだ、我々に付いて来てもらうぞ」

「……嫌だと言ったら?」

「平民の分際で公爵に逆らう気か!!いいからつべこべ言わずに付いて来い!!」

「あ、ナイ君!?」



他の兵士がナイの言葉を聞いて激高し、無理やりに彼の腕を掴んで立ち上がらせようとした。それを見たモモが止めようとしたが、兵士は引っ張り上げようとした瞬間、違和感を抱く。



「ぐうっ!?こ、こいつ……」

「……力ずくなんて野蛮ですね」

「おい、何をしている!!手荒な真似はするな!!」



兵士がいくら引っ張り上げようとしてもナイはびくともせず、ナイの腕を掴んだ兵士まるで人の形をした岩を引っ張るような感覚に陥る。得体の知れない力を発揮するナイに兵士は焦りを抱くが、すぐにそれを隊長が止める。


ここで抵抗するのは難しくはないが、相手が公爵家の私兵となると色々と問題があり、仕方なくナイは彼等のいう事に従う事にした。心配そうに見つめるモモ達に対してナイは笑みを浮かべた。



「大丈夫、すぐに戻ってくるから……」

「ナイ君……」

「どうしてナイさんを連行するのですか!?彼のお陰でミノタウロスの被害を食い止められたのですよ!!理由を説明して下さい!!」

「……我々はこの者を連れてくるようにとしか指示されていない」

「だからって無理やりに連れて行くのは横暴過ぎる」

「うるさい!!正式な王国騎士でもないくせに……」

「黙れ!!」



先ほど無理やりにナイを連れて行こうとした兵士がヒイロとミイナを怒鳴りつけようとしたが、それを隊長が止める。隊長は改めてナイに顔を向けると、同行を願う。



「大人しく従ってくれるのなら我々も手荒な真似はしない。どうかご同行を願えるか?」

「……分かりました」

「よし、ならばあちらの馬車に乗ってくれ」



ナイは隊長の男と共に馬車の中に乗り込み、その様子を他の3人は心配そうに見つめるが、それに対してナイは皆を安心させるために微笑む。


馬車に隊長とナイが乗り込むと即座に動き出し、この王都の富裕層しか暮らす事が許されない「富豪区」へ向けて馬車は発進した――






――王都の北西は貴族などの上流階級の人間が暮らす屋敷が並べられ、その中には貴族以外にも商人の屋敷も含まれている。ちなみにバーリの屋敷もこの地区の端の方に存在した。


この地区に訪れるのはナイは二度目だが、前回の時は夜でしかもバーリの屋敷に忍び込んだ時である。改めて明るい時間帯に訪れると、一般人が暮らす「一般区」とは異なり、豪勢な建物が並んでいた。



(凄い……ここが富豪区なのか)



名前の通りに富豪しか暮らす事が許されない建物が並んでおり、この地区に暮らす人間の殆どは貴族で占められている。貴族以外では一流の商人もここに屋敷を構えているが、それらの商人は基本的には地区の端の方にしか建物を建てられないという。



(なんか豪勢な建物ばかりで落ち着かないな……それに殆ど人の姿が見えない)



一般区と違って富豪区の街道には人間は出入りしておらず、基本的には貴族は外に出る時は馬車を使い、徒歩で移動する事などない。そのせいで人が見えない事に寂しさを覚え、ナイは落ち着かなかった。



「到着したぞ、ここからは歩いて貰おう」



隊長の言葉を聞いてナイは扉の窓を覗くと、いつの間にか一際豪勢で大きな屋敷の前に馬車が立ち止まっており、バーリの屋敷よりも敷地が広い屋敷の前で馬車は停止していた。


馬車からナイは降りると屋敷の門の前には巨人族と思われる男性の兵士が二人待ち構えており、その彼等に対して隊長は手を上げると扉を開くように指示を出す。



「公爵の命令だ、この者を中に入れろ」

『…………』



巨人族の兵士達は隊長の言葉を聞いてナイを一瞥すると、無言のまま扉を押し開き、中に入るように促す。その態度に隊長は特に咎めもせず、ナイを屋敷に入れる前に身に付けている装備を置いていくように指示する。



「装備は預からせてもらう。馬車の中に置いていけ……何事もなければすぐに返してやる」

「はあっ……分かりました」



ここは言われた通りにナイは馬車の中に武器と防具を置くと、改めて隊長の後に続いて屋敷の中へ入り込む。その途中、敷地の中で大勢の人間の声が聞こえ、何事かと視線を向けると、そこには兵士達が訓練を行う姿があった。



『はっ!!せいっ!!ふんっ!!』

「遅いっ!!もっと早く槍を突き出せ!!」



槍を構えた大勢の兵士が訓練をしており、指導を行っているのは眼帯で片目を隠した男性の姿だった。その顔を見て隊長の男は慌てて彼の元へ向かい、敬礼を行う。



「アッシュ様!!言われた通りにミノタウロスを討伐した少年を連れてまいりました!!」

「ん?おおっ、連れてきたか!!それでその少年は何処に居る!?」

「おい、こっちだ!!早く頭を下げろ!!」

「えっ……!?」



兵士の指導を行っていた男性がアッシュ公爵である事を知ったナイは動揺を隠せなかった。

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