第240話 第三王子
――その後、ナイはアルトを連れて王都まで護衛を行う。護衛と言っても王都からそれほど離れてはおらず、本当に距離的には大した事はないが、それでもアルトは約束通りに報酬を支払おうとする。
「ここまで助かったよ。君のお陰で命拾いした」
「いや……ボーガンを改造して貰ったし、それに魔石まで貰ったんだから受け取れないよ」
「気にしなくていいよ、あのボーガンは僕の命を救ってくれた恩返しだ。それに最初に約束した事を破るのは僕の主義に反するからね」
「クゥ〜ンッ……」
王都の城壁の前にてアルトは約束通りにナイに金貨を2枚手渡すと、彼の言葉を聞いて受け取るまで引き下がるつもりはないと判断し、ナイは金貨を受け取る。最後にアルトは別れ際にビャクの身体に触れ、お礼を告げた。
「君にも礼を言わないとね、お陰で助かったよ。今度会う時はご馳走してあげるからね」
「ウォンッ!!」
「ははは、くすぐったいよ」
ビャクはアルトの言葉を聞いて嬉しそうに彼の顔を舐め、それに対してアルトはくすぐったそうに離れると、改めてナイに手を伸ばす。
「君とはなんとなくだけどまた会えるような気がする」
「え?」
「じゃあ、僕は先に行くよ。そろそろ帰らないと父親に怒られそうだからね」
最後に握手を行ったアルトは意味深な言葉を継げると、ナイよりも一足先に王都へと入っていく。その様子を見てナイは唖然とするが、何故か彼の言葉が気になった――
――アルトと別れた後、ナイは白猫亭に戻ると改めてボーガンの確認を行う。アルトによって改造されたボーガンは見た目もかなり変わり、風属性の魔石まで取りつけられている。
この魔石がどの程度の価値があるのかはナイには分からないが、少なくとも金貨が1枚や2枚程度では購入できる代物ではないだろう。アルトから渡された金貨を見つめ、ナイはやはり彼がこの国の最後の王子ではないかと考えた。
「アルト、か……何だか不思議な子だったな」
ナイは第一王子のバッシュと第二王子のリノとも会った事があり、リノの場合は遭遇した時は彼は甲冑を身に纏っていたので顔を見たわけではないが、それでも他の二人と比べてアルトは雰囲気が全く違った。
バッシュとリノがこの国の王子らしく普通の人間とは違う気迫というか、威圧感のような物は感じた。しかし、アルトの場合はそのような物は一切感じず、むしろ親しみやすさを覚える雰囲気を纏っていた。
「ふうっ……考えても仕方ないか」
アルトの正体が本当に第三王子なのかは分からないが、後でヒイロやミイナと会った時に彼女達から直接問い質せばいい。あの二人が仕えているのがこの国の第三王子であり、アルトと同一人物なのかは彼女達に聞けばよい。
「それよりもこれからどうしようかな……」
ナイは今後の事を真剣に考え、今の所はお金には余裕はあるが、やはり仕事を探すべきだと考えていた。そもそも王都へ訪れた目的はナイは自分が就きたい仕事を探すためでもある。
これまでにナイは旅の道中で路銀稼ぎも兼ねて色々な仕事をやってきたが、やはり一番金を稼げたのは魔物の素材を回収し、売り捌く事だった。
(やっぱり、一番稼げるのは魔物を倒して素材を売る事なんだよな……となると、冒険者になるのが一番なんだろうけど、年齢制限があるからな……)
冒険者になれるのはこの国では成人年齢に達していなければならず、ナイはまだ14才なので冒険者にはなれない。15才になれば冒険者の試験を受ける資格を得られるが、それまで何もせずに過ごすわけにはいかない。
先日に手に入れた報酬と今日のアルトから受け取った金貨2枚を含めれば数か月は何もせずとも暮らしていける。だから最近は魔物を相手に「迎撃」の技能の特訓をしていたが、今日の訓練で迎撃はもう完全に扱えるようになった。
(そういえばここへ来てから碌に観光もしてなかったな。街の仕事を見て回りたいし、明日はちょっと街を巡ってみようかな。でも、そうなると案内してくれる人も一緒に居て欲しいな……)
ナイは明日からは城下町を観光し、どんな仕事があるのか探し回る事に決めた。そして道に迷わない様に案内役が欲しいと思い、知り合いに道案内を頼もうかと思った時、部屋の扉がノックされる。
『ナイく〜ん、ご飯だよ~』
「あ、は~い……」
外から聞こえてきた声はモモであり、宿に宿泊している人間の食事は従業員が部屋まで持ち込む事になっている。ナイは扉を開いてモモを招き入れると、彼女は笑顔を浮かべながら机に食事を置く。
「えへへ、今日の料理は私も手伝ったんだ~」
「へえ、それは凄いね」
「でも、本当は料理よりもお菓子を作る方が得意なんだけどね。よく、城下町のお菓子屋さんに行って色々なお菓子を食べてから、自分で作ったりもするんだよ~」
「そうなんだ……お菓子屋さんによく行くんだ」
ヒナが城下町の甘味処に尋ねているという話を聞き、この際にナイはモモに明日一緒に街を観光しないのかを尋ねる。
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