第229話 君はその盾に相応しい実力を持っているのか?

「あ、あの……?」

「……この盾がどういう経緯で作られたのか、知っているか?」

「え?」



ナイは反魔の盾を手放そうとしないバッシュに戸惑うが、そんな彼にバッシュは唐突に語り出す。いったい何の話かとナイは思ったが、黙って聞く事にした。



「この盾が製作された理由、それは騎士ゴルドともう一人の騎士が関係している。100年以上前、多大な功績を残した二人の騎士を当時の国王は褒め称え、彼等のために褒美を与える事にした。だが、二人の騎士が望んだのは領地や爵位ではなく、自分達に見合う武器と防具を欲しいと頼み込んだ事が切っ掛けだ」

「武器と……防具?」

「そうだ。その内の片方の騎士はゴルド、もう片方の騎士は後に国王の跡を継ぐ事が決定していた当時の王子だ」



バッシュの言葉にナイは驚き、今から100年前にゴルドがどのような経緯で反魔の盾を手に入れたのかを王子は語り出す――






――今の時代から100年以上前、王国では有名な騎士が二人存在した。その内の一人は「盾騎士」の異名を持つゴルドであり、もう一人は王子という立場でありながら前線で戦い続ける勇猛果敢な人物として語り継がれる「ゴウソウ」と呼ばれる男だった。


ゴウソウは王子として生まれながら生まれた時から人並外れた腕力を持ち合わせ、彼は自分の騎士団を率いて戦い続けた。ゴルドが守備に特化した戦法を得意とするのに対し、ゴウソウは攻めに特化した戦法を得意とする。


この二人は戦い方はまるで正反対ではあるが、お互いに気が合い、非常に仲が良かった。ゴウソウが敵を攻めるときはゴルドが国内の守備に徹し、逆に敵が責めてきた時はゴルドが守りに専念し、その間にゴウソウは敵の背後を突く。この二人こそが当時の王国の「守護神」と「戦神」として民から祭り上げられたほどである。


国王は二人を褒め称え、ある時に彼等から何か欲しい物があればどんな物でも用意すると伝えた。ゴルドが望むならば公爵の爵位を与え、ゴウソウは今すぐに王位を渡しても構わないと宣言したほどである。しかし、二人が欲した者は爵位でも王位でもなく、最強の武器と最高の防具を欲する。



『私が望む物はどんな攻撃をも跳ね返す最強の盾を!!』

『では私は竜をも討ち取れる槍を所望します!!』



この二人の要望に国王は困り果て、結局は国中の鍛冶師を呼び集めて彼等の望む代物を作り上げた。それこそが「反魔の盾」と「撃竜槍」と呼ばれる槍を用意させる。


ゴルドとゴウソウはこの二つを手にしてから功績を上げ続け、遂には王国の国土を倍近くまで増やしたという。しかし、ゴルドはある時に辺境の地に暮らす娘に惚れて騎士の位を返納し、ゴウソウの方も国王が死んだ事で王位を継いだ時点で騎士団を指揮するのを止め、それ以上に二人が戦う事はなかった――






――話を伝え終えたバッシュはナイと共に反魔の盾を持ち続け、この盾が作り上げた理由を知っても尚、彼が反魔の盾を求めるのかを聞く。



「この盾は最強の騎士、ゴルドに相応しい武器として作り上げた代物……即ち、それを装備する者は彼の血を継ぐ者か、あるいは彼に匹敵する力を持つ者でなければならない。この盾は力ある者だけが使う事を前提に作られた代物だからだ」

「……どういう、意味ですか?」

「この盾を君が使いたいというのであれば、その力を見極めさせてもらう。もしも君がこの盾に相応しくないようであれば……この盾は君の言う通りにゴルドの子孫の墓に埋めよう」

「王子!?」



バッシュの言い分はこれからもナイが盾を使い続けたいのであれば、この盾に相応しい力を持っているのか見極めたいという。そして盾に相応しくはないと判断すれば彼は盾をゴルドの子孫の墓に埋める事を宣言する。


彼の発言を聞いていた者達は呆気に取られ、どちらにしてもバッシュは反魔の盾を回収するつもりはない事を暗に告げていた。仮にナイが盾に相応しい力量を持っていなくても、盾をゴルドの子孫の墓に返すという事は王国側は盾を回収する意思はない事を意味する。



「この盾は王国が作り上げた代物である事は分かっている。しかし、その作り上げた理由は騎士ゴルドに対する敬意だ。ならばゴルドが亡くなろうと彼の子孫が死んでいようと、この盾の所有権は王国にはない」

「で、ですが王子様……こんな得体のしれない者に盾を渡すなど!!」

「身分など関係ない、私はこの者が盾に相応しい人物かどうか見極めるだけだ。もしもこの盾を持つのに相応しくない人物だと判断した場合、その時は死んでもらうぞ」

「えっ!?」

「そ、そんな……!?」

「王子様、流石にそれは……」



ナイが反魔の盾を求める場合、バッシュは彼が盾に相応しい人間かどうかを直に見極める。そして盾に相応しくないと判断すれば堂々と殺す事を告げた。その彼の瞳を見てナイは彼が本気で言っている事に気付き、冷や汗を流す。

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