第186話 器用

「二人とも動かないで……今、切りますからね」

「や、優しくしてね……」

「何を優しくするのよ……」



ナイが刺剣を手にして近づくと、モモは少し怖そうに手足を縛りつける縄を差し出す。それをナイが刺剣で切り裂くと、今度はヒナも同じように切ってもらう。これで二人は解放できたが、問題はミイナの方だった。


残念ながらミイナを拘束する枷は金属製であり、とてもナイの刺剣ではが立たない。駄目元でナイは剛力を発動させて怖そうと試みるが、流石に魔法金属のミスリルが含まれている合金を壊すのは無理があった。



「くっ……駄目だ、壊れない」

「私もいくら力を込めても壊すのは無理だった……私の事はいいから、3人だけで逃げて」

「そういうわけにはいかないわよ。あんたを救うためにここまで来たのよ?ここで退き返したら意味ないでしょ」

「そうだよ、一緒に逃げようよ!!」

「こんな状態だと立つ事もままならない……私を連れて行っても足手まといになるだけ」



ヒナとモモはミイナを救い出す事を諦めないが、当の本人はこんな状態では付いていけないと告げる。しかし、ナイは手枷と足かせの鍵穴に視線を向け、刺剣を見つめる。この刺剣は普通の短剣よりも刃先が鋭く、それを利用してナイは解除を試す。



「ミイナさん、動かないで……」

「何をするつもり……?」

「いいから静かに……よし、これなら何とかなりそうだ」



ナイは鍵穴に刺剣を差し込むと、しばらくの間は刃先を動かしていると、鍵が開く音が鳴る。その調子でナイはミイナを拘束していた枷を全て解放すると、ミイナは驚いたように自由となった手足に視線を向ける。



「嘘っ……こんなに簡単に?」

「鍵の構造は単純だったみたいで……実は器用の技能を覚えてから、刃先が鋭い物さえあれば簡単な鍵なら開く事が出来ます」

「貴方、そんな特技まで……盗賊の才能があるわね」

「ナイ君、凄い!!私、鍵をよく失くすから羨ましいな~」

「あははっ……じゃあ、後はここから脱出しましょうか」



地下牢だというのに見張りの類はいないのか、牢獄内にはナイ達以外に人の気配は無い。どうやら相手が女子供だと油断しているらしく、ナイは地下牢の鍵も刺剣で解除を行う。


4人は牢から抜け出すと、念のために他の牢の様子を伺い、人がいない事を確認する。この時にミイナは足枷に繋がっていた鉄球に視線を向け、武器がないので彼女は変わりにこちらを持っていく事にした。



「これ、武器になりそう」

「鉄球……まあ、あんたなら使えるでしょうけどね」

「あ、見て!!あっちに扉があるよ?」

「モモさん、声を抑えて……」



モモが指差した方向には確かに扉が存在し、ナイは扉に鍵が掛けられていない事を確認し、ゆっくりと開く。



(気配感知に反応はないな……)



事前に気配感知の技能を発動させ、慎重にナイは扉を開くと上に繋がる階段を発見した。どうやらここを登れば地上に出られるらしく、他の3人に頷いてナイは移動を行う。


刺剣を手にしたナイはもしも敵が現れた時、この刺剣だけで対応しなければならない。自分だけならばともかく、今回は3人もいるので今度こそ失敗は許されない。



「……階段、長いわね」

「まだ上に着かないの……ちょっと疲れてきたよ?」

「我慢して、それと声が響くから静かにして」



ナイは後ろから聞こえてくる3人の声を耳にしながらも先へ進み、この時にナイは気配感知を常時発動させておく。何か気配を感じたらすぐに行動できるように心掛けて置く。これは敵への警戒もあるが、ダンとの戦闘の前準備でもある。



(僕の読みが当たっていればダンはきっと……)



ダンを倒すにはこの気配感知が鍵になると判断し、彼と相対する前にナイは気配感知を常に発動させて先へ進む。通路は薄暗いが、壁の方に光り輝く石が嵌め込まれており、それを見たヒナは呆れた声を上げた。



「流石は金持ちの家ね……これ、光石じゃない」

「こうせき?」

「聖属性の魔石の一種で、暗闇では常に光り続ける魔石の事よ。ほら、こんなに眩しいのに目がいたくないでしょう?でも、普通は松明の代わりに付けるような代物じゃないのよ」

「不思議……こんなに眩しいのに優しい光」



通路内を照らすのは松明の類ではなく、光石と呼ばれる魔石らしく、地下牢と比べて通路は明るかった。この時にナイは光石に視線を向け、これさえあれば自分も覚えている「光球ライト」の魔法は使わずに済む事に安心する。


しばらく階段を登ると、やっと出入口の扉を発見するが、ここでナイの気配感知に反応があった。出入口の扉の外の方から気配を感じ取り、恐らくは兵士が待ち構えている事を皆に伝えた。



「多分、外の方に兵士が待ち構えています。位置的には扉の左右に分かれているようです」

「そんな事まで分かるの?」

「流石ね……なら、ここはモモの出番ね」

「うん、そうだね~」

「え?」



ヒナの言葉にナイは呆気に取られるが、ここでモモは元気そうに腕を振り回すと、彼女は何を考えているのか唐突にスカートに手を伸ばすと、足元を動きやすくするためか少しだけ引き裂く。この際に彼女の太ももが晒されてナイは目のやり場が困る。

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