第180話 女装
「屋敷の中にいる連中なら大丈夫だ、殆どが俺と同じ下っ端だからな。顔見知りも多いし、いきなり殺される事はないだろ……それに俺を殺そうとした連中もまさか屋敷に俺が戻ってくるなんて思いもしないだろうしな」
「それはそうね……でも、あんたどさくさに紛れて裏切るつもりじゃないでしょうね」
「す、するかよ!!俺の事を殺そうとした連中だぞ!?もうあんな組織は懲り懲りだ!!どうせ殺されるぐらいならお前等に協力した後に捕まってやる!!」
「なんだか怪しいわね……」
モウタツの言葉にヒナは訝し気な表情を浮かべるが、現状では彼の力を借りなければバーリの屋敷には入れない。しかし、その侵入方法も若い女の子をバーリに差し出すしかなく、ここでモモが手を上げる。
「はい!!それなら私がバーリさんの所に行くよ!!」
「モモ!?あんた、自分が何を言っているのか分かってるの!?」
「でも、それ以外にミイナちゃんを助ける方法はないんでしょ?なら、私が囮になって他の皆はミイナちゃんを助けて!!」
「駄目よ、そういう事なら私が囮になるわ!!問題ないわよね!?」
「あ、ああ……確かにあんた等なら顔も割れてないし、問題はないと思うが……」
「でも、危険過ぎる……他に方法はないのか?」
「そうです!!一般人の御二人を危険な目に遭わせるわけにはいきません!!」
ヒナとモモは自分達が囮になる事を告げるが、それはナイとヒイロも賛成はできなかった。この作戦は失敗すれば二人の身が危なく、そんな簡単に承諾できるはずがない。だが、この二人以外に頼れる相手がいないのも事実だった。
「どっちにしろ、動くなら今晩のうちがいい。あまりに時間を掛けすぎると俺の命も危ないからな……早く決めてくれ」
「くっ……どうして私では駄目なんですか!!私ならバーリを取り押さえる事など簡単なのに……」
「くそっ、若い女の子しか駄目だなんて……」
「ん?ちょっと待って……若い女の子じゃなくて、バーリが求めているのは若くて可愛い子じゃないの?」
「ああ、そうだ。若い女の子なら誰でもいいというわけじゃない。あの男に気に入られるには外見も重要だからな」
「それなら……」
ナイの言い方にヒナは何か気になったのかモウタツに確認すると、彼の言葉を聞いてヒナは腕を組み、そしてナイに視線を向けた。その視線の意図にナイは分からず、どうして自分を見つめるのだろうと思っていると、ヒナは口元に笑みを浮かべる。
彼女は急に席を外すと、自分の部屋へと向かう。ヒナの行動に全員が不思議に思うと、彼女が戻って来た時はその手には化粧箱が抱えられていた。
「ふふっ……良い事を思いついたわ」
「ヒナちゃん?急にどうしたの?」
「それは化粧箱ですか?どうしてそんな物を……」
「えっと……何だか嫌な予感がするんですけど」
化粧箱を持ち込んだヒナは目つきを怪しく光らせ、その視線を向けられたナイは後退ろうとするが、ヒナは彼の腕を掴むと笑顔で答える。
「ナイ君……いえ、ここはナイちゃんと呼ばせてもらうわ」
「ナイちゃん……?」
「貴方、よく見ると顔は整っているわね。うん、素材としては最高だわ」
「モモちゃん、何をする気なの?」
「決まっているでしょう……私の手でこの子を女の子にしてあげるわ」
『えっ?』
ヒナの言葉にナイ達は唖然とするが、彼女は本気で行っているらしく、化粧箱から道具を取り出す――
――しばらく時間が経過すると、ヒナの化粧が施されたナイを見て女の子たちは目を輝かせ、モウタツに至っては信じられない表情を浮かべる。現在のナイはヒナのメイクによって見事に女の子にしか見えない顔をしていた。
「さあ、出来たわ!!これで貴方を見ても誰も男の子だとは思わないわ!!」
「わあ~……ナイ君、可愛いよ~」
「し、信じられません……ま、負けた」
「これが……僕?」
「これはまた……とんでもないな」
ナイは手鏡を見て自分の変化に戸惑い、ヒナのメイクによって今現在のナイは女の子にしか見えない。但し、服装に関しては男物のままなのでこれでは違和感がある。
「さあ、次はその服ね。仕方ないから私の服を貸してあげるわ、体格の方も怪しまれないようにしないといけないから、露出を控えた服が良いわね」
「え、着替えもするんですか?」
「当たり前じゃない、その格好でいったら怪しまれるでしょう。それと念のためにウィッグも被せましょう」
「私も服を選ぶよ~どんなのが良いかな~」
「そ、それなら私も……」
「おいおい、マジかよ……」
女の子達の手ほどきによってナイは瞬く間に服を着替えさせられ、外見だけは美少女にしか見えない姿にされてしまう。その様子を見ていたモウタツは頭を抑える事しか出来なかった――
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