第178話 警備厳重
「くそっ!!すぐに行かないと……」
「お、おい!!まさか、乗り込むつもりか!?無茶だ、いくらお前が強くてもあの屋敷にはどれだけの兵士がいると思っている!?それにあそこにいるのは兵士だけじゃないんだぞ!!」
「兵士だけじゃない?」
ミイナの身に危険が迫っているかもしれないのでナイは駆け出そうとしたが、慌ててそれを男は引き留める。男の言い回しが気になったナイは振り返ると、もう隠し事をする必要はなくなったせいか、男は洗いざらい話す。
「いいか、バーリの屋敷には侵入者の対策として奴の私兵だけじゃなく、他にも腕利きの傭兵を雇っているんだ」
「傭兵?」
「ああ、言っておくが傭兵といってもただの傭兵じゃないぞ。バーリは大金を費やして集めた凄腕の傭兵達だ。いくらお前が強くても、一人で屋敷に乗り込んだ所でそいつらの返り討ちにされるだけだぞ」
「でも、ミイナが……!!」
「はあっ……どうしても行くなら止めはしないがよ、あそこはマジでやばいんだ。噂によるとバーリは魔物も飼っているらしい。その魔物を利用してバーリはヘマをした部下を始末しているとかどうとか……」
屋敷に出入りしていた男の話によるとバーリは侵入者対策として私兵だけではなく、傭兵や魔物まで屋敷の中に潜ませているという。そんな場所にナイが乗り込んでも勝ち目はない。
第一にバーリの屋敷に乗り込む事自体が危険であり、下手をしたらナイは犯罪者に仕立て上げられない。捕まっている人間達を助け出せなければバーリの悪事は暴かれず、逆にナイが警備兵に狙われる立場になる。
(くそ、どうすればいいんだ……こっそり忍び込む?いや、あの屋敷の警備の厳重さから考えても無理だ。やっぱり、力ずくで乗り込むしか……)
ナイは必死に考えるが、良案は思いつかない。そんな彼を見て男は黙って見ていたが、ある事を思いついた様に告げる。
「……一応、屋敷の中に入るだけなら出来なくもない」
「えっ!?どうやって?」
「俺はあの屋敷の連中とは顔見知りだからな……屋敷の中に通るだけなら難しくはない」
「あっ……!!」
「クゥ〜ンッ?」
男の言う通りに確かにバーリと繋がっている裏組織の人間ならば怪しまれずに屋敷の中に入れるだろう。しかし、どうしてそんな事を男の方から提案したのかとナイは不思議に思うと、男は深いため息を吐いた後に呟く。
「どうせ、俺は始末される運命なんだ……なら、ここはお前さんに協力してやった方が得だろ?」
「まさか……力を貸す代わりに自分は見逃せというつもり?」
「まさか、どうせ逃げた所で殺されるだけだ。だから俺は自首するよ、殺されるよりは捕まって塀の中で生きていく方がいいからな。だが、もしもあんたがその王国騎士見習いの嬢ちゃんを助ける事が出来たら……時々でいいから、差し入れぐらいは持ってきてくれよ?」
「……まずはここから離れた方が良い。話はその後にしよう」
「おうっ……でも、ちゃんと考えてくれよ」
ナイは男の提案に対して返事は保留し、まずは他の暗殺者に見つかる前にここから立ち去る事にした。ぐずぐずとしていると他の仲間が派遣される可能性もあり、ナイは男を引き連れて一度安全な場所を探す事にした――
――王都に来たばかりのナイが頼れる相手といえば限られており、ナイは商人の男を連れて宿屋へと引き返す。宿屋に戻ると、何故か鍋を頭に被ってお玉を構えるモモと、魔剣を握りしめた状態で座り込むヒイロ、その二人の間で腕を組みながら考え込むヒナの姿があった。
「あの……何をしてるんですか?」
「はっ!?て、敵!?」
「何者ですか!?」
「あんた達、落ち着きなさい……って、誰かと思えばナイじゃない。あんた、何処へ行ってたの!?」
ナイが戻って3人に話しかけると、モモとヒイロは身構えるが慌てて二人をヒナが抑えつける。戻って来たのがナイだと知ったモモは安堵したように落ち着くが、ヒイロの方はナイを見て驚く。
「貴方は昼間の……ナイ、さんでしたか?」
「どうも……あの、テンさんは?」
「それがまだ戻ってきてないの……絶対にミイナちゃんを助けてくるからって一人で飛び出しちゃったんだ」
「女将さんなら大丈夫だと思うけど……心配ね」
「警備兵にはまだ連絡を伝えてないんですか?」
「もう伝えたわ。今も捜索中らしいけど、ここにはいないわ」
警備兵には既に訪れたらしく、ミイナが連れ去られた件は報告済みだという。現在は警備兵も彼女の捜索を行っているらしいが、そのミイナが捕まっている場所はバーリの屋敷だとは思いもしないだろう。
一人で外に出たテンがミイナを探す途中で警備兵にも報告したらしく、彼女は今もミイナを探し回っているという。それならばヒイロも一緒に捜索しないのかと思ったが、彼女はここで待機するように言われたらしい。
「私も探しに行きたいのですが、ここを離れると御二人の身にも危険が及ぶかもしれず、ここに残って連絡を待つようにテンさんに言われました」
「え?ここへ戻って来たんですか?」
「一度だけね。でも、すぐに出て行ったわ……そうそう、貴方にも伝言があるわ。余計な事はせず、後は私達に任せて大人しくしてろ……とね」
「……それは無理です」
ナイはテンからの伝言を聞いても大人しくするつもりはなく、ここで彼は後方を振り返ると、宿の中に男が入り込む。初めて見る顔にヒナとモモは首を傾げるが、ヒイロの方は男の顔を見ると大声を上げる。
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