第175話 ヨク・バーリの屋敷
「この建物が人攫いの組織の本拠地……そんな馬鹿な」
「ウォンッ……」
ナイとビャクは建物から離れた場所から様子を伺い、とてもではないが悪の組織の本拠地としてはあまりにも目立ち過ぎていた。だが、地図に指示されているのはこの建物である事は間違いなく、ナイは思い悩む。
地図の場所に辿り着けば何か手がかりが掴めるかもしれないと思ったナイだが、もしかしたらこの地図を記しているのは敵の本拠地ではなく、人攫いの組織が狙う次の標的の場所ではないかと思う。
(もしかしてこの地図を持っていた奴、次はこの屋敷を狙っていたのか?どっちにしても、ここに忍び込むのはまずそうだな……)
敵の本拠地にせよ、そうでないにしろ、屋敷に忍び込むのは簡単ではなさそうだった。屋敷は周囲を鉄柵に取り囲まれ、更に兵士の姿も多く見られる。敷地内にも兵士が巡回しており、かなり警備は厳重だった。
仮にナイが忍び込めたとしても、この場所が悪党の本拠地でなければナイは只の侵入者になってしまう。しかし、他に手がかりがない以上はこの場所に忍び込むしかない。
(どうやって入り込めばいいんだろう……ん?あれは……!?)
山で育ったナイは視力が優れており、遠目からでも屋敷の様子を確認する事が出来た。そして彼は屋敷の中に馬車が存在する事に気付き、その馬車には見覚えがあった。
(あの時、声をかけてきた男の馬車だ!!)
ナイが王都へ訪れたばかりの頃、悪党と繋がっていたと思われる商人の馬車が屋敷内に存在した。それによくよく確認すると馬車の傍にはナイに話しかけてきた男が存在し、兵士と何やら話して込んでいる様子だった。
(やっぱり、ここが敵の本拠地なのか……)
自分を罠に嵌めようとした男がここにいる事からナイはこの屋敷が敵の本拠地だと判断し、もしかしたらミイナもここに捕まっているのかもしれないと考える。すぐにナイは男の様子を観察していると、男は馬車に乗り込む。
どうやら馬車は屋敷の正門から出て行こうとしており、それに気づいたナイは絶好の好機だと判断して馬車の後を追う――
――馬車が屋敷から十分に離れた後、ナイは馬車を襲撃するために後を追う。そして人気の無い場所に馬車が通りがった時、ナイは馬車に乗り込む。
「うわっ!?何だお前……ぐはっ!?」
「や、止めっ……ぎゃああっ!?」
「ひいっ!?ま、待て……げふぅっ!?」
「……これで全員か」
馬車の中には護衛と思われる者達も紛れていたが、全員がナイの敵ではなく、呆気なく気絶させる。ナイは馬車を止めると、捕まえた3人を縛り付けて路地裏の方へと移動させて尋問を行う。
「おい、起きろ」
「うっ……はっ!?こ、ここは何処だ!?おい、俺達を誰だと思って……ひいっ!?」
「グルルルッ……!!」
ナイは自分を騙して悪党が待ち構えている空き地に送り込んだ商人の男を起こすと、彼はナイの傍に立つビャクの顔を見て怯える。そしてすぐにナイに気付いて顔面蒼白となった。
どうやら男もナイの事はしっかりと覚えていたらしく、彼は自分が捕まった事を知り、絶望した。そんな彼に対してナイは情報を聞き出すためにビャクを利用して彼を脅す。
「大声を上げたり、抵抗しようとすればどうなるか分かってるな?うちのビャクは肉が大好きだからな……今日はたらふく食えそうだ」
「ひいいっ!?」
「だから、大声を上げるなって……食われたいのか?」
「ウォンッ……」
ビャクはナイの言葉を聞いて複雑そうな表情を浮かべ、彼は人肉など食べたりはしない。だが、脅しとしては十分な効果があったらしく、男は必死に首を縦に振る。
「な、何だ……俺達をどうするつもりだ?」
「とりあえず聞きたいのは……最初に会った時、僕を襲うように指示したのはあんただな?」
「あ、ああ……頼む、許してくれ」
「余計な事は言わなくていい。そんな事より、僕を襲った奴等とお前は仲間でいいんだな?」
「そ、そういう事になるな……」
予想通りというべきか商人の男も悪党とグルだったらしく、こうなると商人の格好をしているが本当に商人なのかも怪しかった。しかし、今は聞き出さなければならないのは敵の親玉だった。
「さっき、あんたが出てきた屋敷は貴族の屋敷か?」
「貴族?いや、違う……あの屋敷はバーリ様の屋敷だ」
「バーリ?」
「知らないのか?この王都でも有名なヨク商会の会長だぞ!?」
「ヨク商会……という事は商人の屋敷なのか?」
男によると彼が先ほどまで立ち寄っていた屋敷は貴族の屋敷ではなく、王都の商人の屋敷だという。確かに商人の中には屋敷を所有する者もいるが、バーリの屋敷はドルトンの屋敷の倍近くの広さがあり、建物のも豪勢であった。
ヨク商会の会長を務めるバーリはこの王都では有名な大商人であり、名前は「ヨク・バーリ」という。そのバーリという男が人攫いの組織とどのような関係なのかナイは気になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます