貧弱でも英雄になれますか？

第112話 中に入れてください

「あの……すいません、ここが冒険者ギルドなんですよね」

「ああっ！？いったい何だ……って、ガキ？」

しかし、戻ろうとした巨人族の男に対してたった一人だけ呼び止める人間が居た。巨人族はの男は苛立ちを抱きながらも振り返ると、そこには変わった格好をした少年が立っていた。

無論、呼び止めた少年の正体はナイであり、彼は巨人族の男が戻る前に呼び止めたのは彼が冒険者であるのならばどうしても伝えたいことがあるからだ。

「南側の方でまだ避難していない人たちがいるんです！！その人たちを救いたいので力を貸してください！！」

「……おいおい、坊主。さっきも言ったよな？こっちは会議中だ、話なら後にしろってな」

「一刻を争うんです！！こうしている間にも魔物に襲われているかもしれないんです！！」

「ちっ……今は殆どの冒険者が出払っている。避難に遅れた奴等の救出のために動いている部隊もいるから、そいつらが救出するのを祈ってろ」

「そんな……」

「言っておくがこっちも人手が足りないんだよ！！ここを守るだけでも精いっぱいなんだ、いちいち俺達の世話を焼かせるじゃねえっ！！」

ナイに対して巨人族の男は怒鳴りつけると、建物の中へと戻る。その横暴な態度にナイは不満を抱くが、彼の言う通りに冒険者達も余裕がないのは事実なのだろうと思う。

この街の冒険者と警備兵は避難してきた住民を守るために動いており、街の各所に現れた魔物の対応を行っている。安全圏を確保するために防衛線を張り、更には避難に遅れた住民の救出のためにも動いている。それを考えると現在の状況で一番負担が大きいのは冒険者である事は間違いない。

(冒険者に頼めばドルトンさん達を救ってくれると思ったけど……この様子だと助けに行くのは難しそうだ)

一刻も早くドルトン達を救いたいと思うナイだが、冒険者や警備兵も現在は手一杯の状況らしく、今すぐにはドルトン達の救出に向かえそうにない。

冒険者に頼れないとなるとナイは自分一人でも戻るべきかと思ったが、先ほどの巨人族の男の言葉を思い出す。現在も街中には避難を終えていない住民の救助のために冒険者と警備兵が動いており、実際にナイも助けられている。その彼等と合流し、ドルトン達の救出を頼めばいいのではないかと考えた。

(そうだ、さっきの人たちを探してドルトンさん達を助けてくれるように頼めばいいんだ！！なら、すぐに引き返さないと……)

ナイはその場を走り去り、急いで先ほど別れた冒険者と警備兵の部隊と合流しようとした。だが、ナイが戻ろうとした時には既に大通りも小路も封鎖されており、兵士が見張りを行っていた。

「ちょっとそこの君、ここへ来たら駄目だよ！！何時、魔物が襲ってくるかも分からないからね！！」

「あの、でも外に行きたいんですけど……」

「何を馬鹿な事を言ってるんだ！！こんな状況で外に出せるはずがないだろう！！どんな理由があろうと、ここを通る事が出来るのは冒険者と兵士だけだよ！！」

「そんな……」

兵士達はナイを通すつもりはなく、いくらナイが説得しても碌に話を聞いてくれなかった。その気になればナイの力ならば強行突破もできるだろうが、そんな事をすれば兵士だけではなく、この街の住民にも迷惑をかけてしまう。

(駄目だ、ここからは抜けれそうにない……何処かに抜け道があるといいけど)

跳躍の技能を利用して屋根を飛び越えていこうかと考えたが、ゴブリン達も屋根の上を移動して襲ってくる事を想定し、建物の屋根にも弓兵が配置されている。それを考えると屋根の上からの移動も難しい。

(どうにかして外に出ないと……そうだ、こういう時はあれが役立つかも)

ナイは久々に「隠密」と「無音歩行」を発動させ、脱出を試みようとした。だが、迎撃の時と同じく長らく使用していなかったせいか、技能が上手く発動しない。

(駄目だ、隠密と無音歩行は今は使えそうにない。けど、他に方法なんて……待てよ、そういえばさっきの話……魔物はそもそもどうやって街の中に潜り込んだんだ？)

ここでナイは先ほどの一般人と兵士の会話を思い出し、魔物がどのような手段を用いて城壁を突破せずに街中に侵入を果たしたのかを考える。兵士の話が事実ならば魔物達は急に街中に現れたらしいが、その侵入経路は判明していない。

城壁を突破せずに街の中に入る方法があるとすればそれこそ空を飛んで城壁を乗り越えるか、あるいは地面を掘って地中を移動して街中に入り込むぐらいしか考えられない。だが、上空から侵入方法は目立つし現実的ではない。地中を掘り進んで侵入するにしてもかなり時間と手間がかかるだろうが、ここでナイはある事を思い出す。

(待てよ、そういえば前に爺ちゃんが街には下水道という場所があるって言っていたけど……まさか！？)

ナイはかつてアルから街などの大勢の人間が暮らす場所には衛生管理のため、下水道が整備されているという話を聞いた事がある。下水道ならば街のあちこちに繋がっているはずであり、もしかしたら魔物達は下水道を移動して入り込んだのではないかと気づく。