第33話 ボアを倒すために

(爺ちゃんがボアを倒す準備にはもうしばらくかかるらしいし……その間、僕も強くなろう)



ボアの狩猟の際はナイは自分が連れて行かれない事を考慮し、仮にアルがボアの狩猟に出向くとしたら冬を完全に迎える前に仕掛けると思われた。


ナイが暮らしている村は冬の時期を迎えると雪に覆われ、移動するのも困難な程に足場が悪くなる。しかもボアが冬の間も草原にいるとは限らず、仕掛けるとしたら必ず秋が終わる前に出向くはずだった。



(あと10日もすれば冬を迎えるだろうと爺ちゃんは言ってた……という事は、仕掛けるとしたら10日以内かな)



猶予があるとすれば10日であると判断したナイはこの間に自分がアルのために何が出来るのかを考える。狩猟の際は連れて行ってくれないので一緒に戦う事は出来ないが、それ以外の方法でアルに役立つ術はないのかを考える。


悩みに悩んだ末、ナイが思いついたのはアルが怪我をした時を想定し、傷を治す薬を作る事だった。今までは薬草を粉末状になるまで磨り潰し、それを傷口に擦り込んで治すぐらいしか方法はなかったが、今のナイならば薬草を利用してより回復効果の高い薬を作り出せるかもしれない。



(そうだ、確か前に薬草を使えば「回復薬ポーション」という薬が作れるとか聞いた事がある!!)



回復薬とは薬草を利用した薬品であり、ナイたちが使用している薬草の粉薬よりも回復効果が高いらしい。場合によっては破損した肉体を再生させる程の強い回復力を誇るらしく、かなり高価に扱われているという。


薬草に関してはナイが観察眼と採取の技能のお陰で今日は大量に確保しており、更に彼は調合の技能も習得している。回復薬の作り方さえ分かればもしかしたら作り出せるかもしれず、早速ナイは回復薬の作り方を知ってそうな人物を探す事にした――






――回復薬などの類を作れる人間の心当たりはナイは一人しか存在せず、前にアルと共に連れて行ってもらった「医者」の事を思い出す。彼ならば回復薬の事を知っている可能性も高く、アルに相談して街へ向かう事を告げた。



「何!?あの街に行きたいだと!?」

「うん、僕も一緒に連れて行ってよ。爺ちゃんはよく行くんでしょ?」

「いや、それはそうだが……急にどうしたんだ?」



アルは定期的に村の外に出向き、山や森で手に入れた素材を売却するために街に赴いている事はナイも知っていた。特に薬草に関しては村よりも街のに人間の方が高く買い取ってくれる事も把握している。


ナイは昨日の内に入手した薬草を売却するという名目で自分が街に赴き、それらを売ってくる事を伝える。基本的には陽光教会での一件からアルはナイをあの街に近付けさせたくなかったが、今回ばかりはナイも引き下がらない。



「僕も爺ちゃんの役に立ちたいんだ!!爺ちゃんはこれから色々と忙しくなるんでしょ?なら、僕にも手伝わせてよ」

「……まあ、そうだな。薬草を売るぐらいなら俺の知り合いに頼めば問題ないだろうが、本当に一人で行くつもりか?」

「爺ちゃんはこれから忙しくなるんでしょ?それに僕だって役に立ちたいんだよ」

「そうか……だが、どうやって街に向かうんだ?馬に乗らないとあの街に移動するだけでも時間が掛かるぞ?」



ナイ達が暮らす村から街に移動する場合、馬を利用しても1時間はかかる距離に存在する。人間の足だと移動するだけでもかなり時間を労するが、ナイもその辺の事は考慮していた。



「大丈夫だよ、明後日は街から商人さんが来てくれる日でしょ?その人たちに頼んで一緒に街まで連れて行ってもらうから」

「ああ、そういえばそんな時期だったな……確かにそれなら問題はないか」



この村には定期的に街から商人が訪れ、売買を行う。村の人間は必要な物資を商人から購入しており、この村に暮らすナイも商人とは顔見知りであった。


商人の馬車に乗せてもらえばナイも街に安全に辿り着けるが、その場合だと帰還の際は問題があった。この村に商人が訪れるのは一か月に一度であり、また商人に村まで連れて行ってもらうとしたら一か月はかかってしまう。



「帰りはどうするんだ?まさか、街で過ごすというつもりじゃないだろうな」

「大丈夫、帰りの事もちゃんと考えてるよ。すぐに戻る事は出来ないと思うけど、ちゃんと帰ってくるから」

「そうか……なら、お前に任せるか」



アルはナイの言葉を信用し、ここ最近の間はナイもたくましく育ち、仮に魔物に襲われても撃退する程の力は身に付けた。それに自分のもしもの事が起きた場合、ナイは一人で暮らしていかなければならない。


この際にアルはナイが独り立ちした場合を想定し、街に一人で向かわせて色々と経験させる事にした。自分がいなくなった後にナイが狩人として生活するには街の人間とも交流させる必要があると考えた彼はナイに素材の売却を任せる事にした。



「よし、それならお前に任せるぞ。薬草を売るとしたらそうだな……前に俺のダチの医者と顔を合わせただろ?あいつに相談すれば色々と力を貸してくれるはずだ。困った事があったらあいつを訪ねればいいからな」

「うん、分かったよ」



ナイはアルの言葉を聞いて願ってもない事だと考え、とりあえずは明後日までに自分が出来る事をやるべきだと考え、早々に眠る事にした――

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