第24話 ゴブリンとの戦闘

「あいつら……何をしてるんだろう?」

「恐らくは……偵察だな、あの小さい奴に村を調べさせようとしてるんだ」

「ど、どうして?」

「力の弱い奴を調べに行かせて、もしも見つかって帰ってこなくても犠牲は一人で済む……胸糞悪いが頭は切れるようだな」



アルは背丈が大きいゴブリンを見て鼻息を鳴らし、わざわざ小さくて弱そうなゴブリンに危険な仕事を任せて自分達は安全な場所で待機するやり方に怒りを抱く。


一方でナイは脅されて村の偵察に行かされそうになっている小さなゴブリンを見て同情するが、相手は魔物である事を思い出す。



(駄目だ、いくら可哀想でもあいつらは魔物なんだ……きっと、見つかったら僕達を殺しに来る)



最初に一角兎と遭遇した際、ナイはその可愛らしい外見から油断してしまったが、人間を見た途端に一角兎は狂暴な性格を露にして襲い掛かってきた。


下手に魔物に対して同情や憐れみなどの感情を抱いてもいい事はなく、村の偵察を行おうとしているのならば尚更放置は出来なかった。アルも覚悟を決めた様に両手に手斧を構え、ナイに命じる。



「いいか、ナイ……お前はここでじっと隠れていろ。ゴブリンと戦うのはまだ早い」

「えっ、でも……」

「いいから言う事を聞け、あいつらの相手は俺がする……お前は気づかれない様にここで隠れているんだぞ」



アルはナイにゴブリンと戦わせるのは時期尚早だと判断し、大人しく木陰に隠れているように指示を出す。ナイは何か言いたげだったが、有無を言わさずにアルは命じると彼は手斧を片手にゴブリンの集団に接近する。


流石に普段から狩猟を行っているだけはあり、気配を殺しながらアルは慎重に接近し、やがて十分な距離にまで近づくと彼は左手に構えていた手斧を投げ込む。



「ふんっ!!」

「ギィアッ――!?」

『ギギィッ!?』



ゴブリンの後頭部に目掛けて放り込まれた手斧は見事に背丈が大きいゴブリンの後頭部に直撃し、恐らくは群れの頭と思われるゴブリンは倒れ込む。


他のゴブリン達は突如として現れたアルに戸惑い、しかも群れの頭が殺された事で動揺する。普段ならば人間を発見すれば獣の如く襲い掛かるのだが、今回はアルの方が逆に仕掛けてゴブリン達を圧倒した。



「うおらぁっ!!」

「ギィアッ!?」

「ギギィッ!?」



老人とは思えないほどの腕力でアルは右手に握りしめた手斧を振りかざすと、瞬く間に2匹のゴブリンの首が飛び、それを見ていた残りの2匹のゴブリンは悲鳴を上げる。



「しまった!?ナイ、気を付けろ!!そっちに行ったぞ!!」

「えっ!?」

「ギィアッ!?」

「ギギィッ!?」



背丈の小さいゴブリンは真っ先に逃げ出し、この際にナイが隠れていた木陰を通り過ぎる。ゴブリンが通り過ぎた際にナイは危うく声を出しそうになったが、相手は気づく事もなく駆け抜けた。


だが、遅れて逃げ出した群れの中では二番目に背丈が大きいゴブリンはナイの存在に気付くと、驚いた表情を浮かべながらも手にしていた棍棒を振り下ろす。



「ギィイイイッ!!」

「ナイ、避けろ……!?」



アルはゴブリンがナイに対して棍棒を振り下ろそうとする光景を見て、咄嗟に右手に持つ手斧を投げ込もうとした。だが、彼が行動を起こす前にナイは腰に差していた短剣を引き抜くと、ゴブリンが棍棒を振り下ろした直後に刃を放つ。



「やああっ!!」

「アガァッ……!?」

「なっ!?ま、まさか!?」



棍棒が地面に落ちる音とゴブリンの首筋に血飛沫が舞い上がり、逆手で短剣を構えたナイがゴブリンの背後に立っている光景を目にしたアルは目を見開く。


彼の眼にはゴブリンが棍棒を振り下ろした瞬間、ナイは棍棒を避けるのと同時に短剣を引き抜き、正確にゴブリンの首筋を切り裂いた。その結果、首元から大量の血を流しながらゴブリンは白目を剥き、地面に倒れ込む。



「はあっ……た、助かった」

「ナイ、お前……いつの間にここまで腕を……!?」



ゴブリンが仕掛けた際、反射的にナイは「迎撃」の技能を発動させた事で危機を乗り越え、全身から冷や汗を流しながらへたり込む。そのナイの姿にアルは戸惑い、今のナイの行動は普通は10才にも満たない子供が出来る芸当ではない。



(一角兎の群れを一人で倒したと言っていた時から薄々感じてはいたが、まさかゴブリンをこんなにも簡単に倒せるなんて……はっ!!何が忌み子だ、あいつらめ適当な事を言いやがって!!)



普通の人間ならば子供の変貌ぶりに戸惑う所だが、ナイがゴブリンを倒すという快挙を成し遂げた事にアルは心の中で喜び打ち震え、やはり自分の子供は「忌み子」等ではないと確信を抱く。


一方でナイも初めてゴブリンを倒した事を自覚し、改めて倒れたゴブリンと血に染まった短剣に視線を向けた。まだ他の生物を殺す事にはなれないが、それでも着実にナイは「迎撃」の技能を使いこなしている事に気付き、無意識に拳を握りしめる。

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