第22話 鍛錬

「あった……よし、これさえあれば」



ナイは水晶の破片を手にすると、一か月前の時のように呪文を唱えて「ステータス」を開く。水晶の破片が光り輝くのを確認すると、ナイは明かりを消して部屋の中を暗くした。


暗い中で壁に破片を向けると現在のナイのステータスが表示され、その文章を確認したナイは一角兎を倒した事により、SPが増えている事に気付く。



――――ナイ――――


種族:人間


状態:普通


年齢:9才


レベル:1


SP《スキルポイント》:3



―――技能一覧―――


・貧弱――日付が変更する事にレベルがリセットされる


・迎撃――敵対する相手が攻撃を仕掛けた際、迅速な攻撃動作で反攻に転じる



――――――――――



画面を確認するとナイはレベルの項目が「1」に戻っている事を確認し、昨夜は眠っていたので気づかなかったが、貧弱の効果が発揮してレベルがリセットされた事を改めて認識する。



(またレベルが1に戻ってる……でも、SPが増えているという事はレベルで上がった分のSPはなくならないのか)



レベルがリセットされようと一度上昇した時に入手できるSPは減る事はなく、どうやら一角兎の群れを倒した時にナイのレベルは「4」に上がっていたらしい。


先日にSPを使用して技能を習得した時にSPは使い切っていたため、SPが3も増えているという事はレベルが4に上がった事を示している。



(あれだけ苦労して倒したのにたった3か……これだと新しい技能を覚えるには先が長そうだな)



命の危険を賭して一角兎に挑んだにも関わらずに獲得したSPが僅かな事にナイはため息を吐くが、それでも迎撃の技能を覚えていたのは正解だった。



(一つの技能を身に付けるだけであんなに戦えるなんて……それなら、新しい技能をこれからもっと覚えれば今よりも強くなれるのかな?)



最初に一角兎に挑んだ時にはナイには頼れる技能はなかった。だが、迎撃を身に付けて武器を手にしただけで一角兎の群れを撃退する程の力を手に入れた。この事を考えてもナイは改めて技能の凄さを思い知る。



(とりあえず、しばらくは爺ちゃんと一緒に魔物を倒してレベルを上げよう。レベルが上がっている間は僕も強くなれるみたいだし、もっとちゃんと武器の扱い方を覚えよう)



ナイは水晶の破片を元に戻すと、ベッドの下に隠しておく。アルに見せるとまた陽光教会の時の様に破壊される恐れがあるため、彼には見つからない様に隠しておく必要があった。


その後はアルとの約束通りにナイは身体をしっかりと休め、翌日から本格的にアルから戦闘の指導を受け、彼の仕事を手伝う日々を送る――






――村の外の魔物を倒してからナイの生活習慣は一変し、まずは朝起きるとアルと共に薪割りを行う。この手の力仕事はずっとアルが一人でやっていたが、ナイもそれに加わる様になり、彼の隣で同じように斧を振りかざす。



「せぇのっ……うわっ!?」

「何だ、そのへっぴり腰は!!」



薪割りの際にナイは斧を振り上げようとしたが、重すぎて振り抜くどころか重量を支えきれずに転んでしまう。それに対してアルは厳しく叱りつける。普段は滅多にナイを怒らない彼だが、アルはナイを一人前の男に育て上げるために過保護を辞めて厳しく指導する。



「いいか、薪割りの時は腕の力だけで振ろうとするな、ちゃんと足元もしっかり踏ん張るんだ!!そうすれば儂みたいな爺でもこうして割る事が出来る……ふんっ!!」

「わっ!?」



アルが斧を振り下ろすと薪は綺麗に割れ、その様子を見ていたナイは驚く。そんな彼を見てアルは自分の真似をするように促す。



「さあ、儂がしたようにお前も頑張れ!!レベルが1でも身体を鍛えれば筋力は身に着く、お前だって練習すれば必ず薪を割れるはずだ!!」

「うんっ……頑張るよ、爺ちゃん」

「よし、その意気だ!!」



ナイはアルの言葉を聞いて頷き、薪割りの練習を行う。普通の子供でもナイの年齢で薪割りを行うのは難しいだろうが、それでもアルは無理を承知で彼に薪割りを手伝わせる。


いくら薪割りを行おうとレベルが上がる事は決してないが、それでも筋力を鍛える事は出来る。レベル1であろうと身体を鍛えれば筋力は身に着き、体力だって身に着く。強くなる方法は決してレベルを上げる事ばかりではなく、地道な鍛錬で身体を鍛え上げる行為は決して無駄にはならない。


アルはナイを今まで過保護に育て過ぎていたと反省し、今後は厳しめに指導する事を決意した。仮にナイに恨まれるとしても彼の将来のためにアルは心を鬼にして指導を行う――





――薪割りの後は井戸の水汲みや家事の手伝いを行い、その後に遂にナイはアルと共に狩猟へと向かう。もうすぐ冬の季節を迎えようとしており、獲物の動物が冬眠を始める前に出来る限りは狩り、冬に備えて肉を確保する必要があった。


アルが村に暮らしているのは彼が狩猟した獲物を村の人間に分けているからであり、自分の分だけではなく、村人の分まで狩猟を行う必要があった。だが、最近は魔物が多く出没するようになったため、普段以上に警戒して彼は行動を行う。

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