第10話 生き残るためには……

(よし、これなら逃げ切れる!!)



一角兎が怯んでいる内にナイは急いで駆け抜け、森の中を移動する。木々を潜り抜けながら先ほどアルが倒れた場所へ向かう。一角兎も慌てて後を追いかけようとするが、度重なる突撃のせいで体力を使い、しかも木々が邪魔をして飛び込む事も出来ない。


必ずしも森の中がナイにとっては不利な環境ではなく、木々に身を隠す事で一角兎の突撃を防ぐ事も出来る。それを無意識にナイは理解しており、木々の間を潜り抜けながら常に注意を払う。



(よし、大丈夫……追いついていない!!)



坂道を移動しながらナイは一角兎の様子を伺うと、どうやら足場が不安定な場所では一角兎も飛びつく事は出来ないらしく、必死にナイの後を追う。最初は恐怖で恐ろしい生き物に見えていたナイだが、今では一角兎の姿を見ても怯えない。



(あと少しで爺ちゃんのいる場所へ辿り着ける!!)



一角兎に追いつかれる前にアルと合流し、二人で逃げようと考えたナイは駆け抜けると、やがて先ほど自分達がはぐれた場所へ辿り着く。だが、どういう事なのかアルの姿が見当たらず、その代わりに樹木に刺さった鉈だけが存在した。



「あ、あれ……爺ちゃん!?何処にいるの!?」



大声でアルを呼び掛けても返事はなく、地面に突き刺さった鉈も最初に一角兎がアルに突撃を仕掛けた時、偶然にも弾かれた鉈が樹木に刺さったらしい。


アルがいない事にナイは一気に不安を抱くが、今は追跡している一角兎から逃げる必要があり、その場を離れようとした。だが、ここまで逃げるだけで体力も限界を迎え、足元がもつれてしまう。



「うわっ……!?」



転びそうになったナイは咄嗟に腕を伸ばすと、そこには樹木に突き刺さった鉈が存在した。それを偶然にも掴んだナイは転ぶの免れるが、樹木に刺さった鉈が外れかける。



「ギュイイッ!!」

「なっ!?もう追いついたの……!?」



樹木に刺さった鉈を掴んだナイは後ろから聞こえてきた声に振り返り、そこにはナイに身体を向け、跳躍の準備を行う一角兎の姿が存在した。その姿を見てナイは咄嗟に逃げようとしたが、自分が掴んでいる鉈に視線を向けた。


一角兎の行動基準は先ほど嫌というほどに確認しており、どの瞬間に一角兎が飛び込むのかはナイも予測できた。そして一角兎の位置を把握し、自分が手にした鉈を見てナイは一か八かの賭けに出る。



(この鉈を引き抜ければ……!!)



ナイは必死に樹木に突き刺さった鉈を引き抜こうとすると、その様子を見て一角兎は危機感を抱き、彼が武器を手にする前に仕掛けようと跳躍を行う。


しかし、偶然にも先ほどナイが転びかけた時に鉈は外れかかっており、一角兎が飛び込んだ瞬間にナイは鉈を引き抜き、飛び込んできた一角兎に衝突した。



「だああっ!!」

「ギャウンッ……!?」



偶然にも樹木から鉈を樹木を引き抜く際、勢いよく抜かれた鉈が一角兎の角をすり抜けて角の下に隠されている眉間の部分に的中すると、空中にて一角兎は白目を剥いて倒れ込む。



「うわっ!?」

「ギュイイッ……!?」



ナイと一角兎は同時に倒れ込むと、しばらくの間はどちらも動かなかなった。だが、やがて腰を抑えながらもナイの方は起き上がると、痛む身体を抑えながらも倒れている一角兎を覗き込む。



「えっ……た、倒した?僕が、一角兎を?」

「ギュイイッ……」



一角兎は完全に気絶しており、偶然とはいえ魔物である一角兎をナイはアルの力を借りずに倒す事に成功した。どうやら眉間が一角兎の弱点であったらしく、自分が飛び込んだ際にナイが鉈を樹木から引き抜く際に奇跡的に眉間に鉈が衝突した事で気絶したらしい。


完全に伸びている一角兎を確認してナイは信じられない表情を浮かべるが、すぐに彼は落ちている鉈に気付く。どうやら倒れた際に落としてしまったらしく、拾い上げようとするが思っていた以上に重くて上手く持ち上げられない。



「お、重い……爺ちゃん、こんなのを持ってたのか」



鉈の重さにナイは驚き、仮にもしも鉈が樹木に突き刺さっていなければナイは鉈を持ち上げる事も出来ず、一角兎に殺されていただろう。色々な幸運が重なった事でナイは奇跡的に生き延びる事が出来た事を知る。


アルの事は心配ではあるが、ナイは倒れている一角兎に視線を向け、自分の養父であるアルを傷つけ、更に執拗に自分を狙った事を思い出して腹が立つ。



「こいつ!!」

「キュイイッ……」

「うっ……」



ナイは我慢できずに倒れている一角兎に止めを刺そうとしたが、ここで一角兎は弱々しい鳴き声を上げ、その声と姿を見てナイは躊躇してしまう。


今のうちに一角兎を殺さなければ目を覚ました時にまた襲い掛かってくる事は理解している。しかし、一角兎の外見と気絶している内に止めを刺す事にナイはどうしようも出来ずに諦めようとしたが、本当にそれでいいのかと悩む。



(そうだ……爺ちゃんが言っていた、魔物と戦う時は躊躇するなって……こいつだって魔物なんだ)



どんなに小さくて可愛らしく外見をしていようと、一角兎はナイを殺そうとした事実は変わらず、ナイが反撃しなければ今頃は殺されていた。養父の思い出したナイは両手で鉈を持ち上げると、全力で持ち上げて振り下ろす。



「うああああああっ!!」



森の中に肉が切り裂く音と血が噴き出す音が鳴り響き、直後にナイの身体は一角兎の血に染まる。ナイは震える腕で鉈を離し、彼の前には頭部と胴体が切り裂かれた一角兎の死骸が転がった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る