第3話 儀式

「あんたが司教さんか……この街で医者をやっているイーシャンから推薦状だ。悪いんだが、うちの子を見てほしい」

「なるほど、イーシャンさんからの……分かりました、ではすぐに儀式の準備をしましょう」

「えっ……儀式?」



ナイはヨウの言葉を聞いて不安そうな表情を浮かべるが、そんな彼に対してヨウは微笑むと、彼を落ち着かせるように儀式の内容を説明する。



「大丈夫ですよ、儀式といっても怖がる必要はありません。貴方は立っているだけでいいんです」

「ナイ、この人の言う通りだ。お前はこの人の言う通りにすればいいんだ」

「う、うん……」



アルはナイを安心させるように頭を撫でると、ヨウに彼を託す。ヨウはナイを連れて建物の別室へと連れていく――






――ナイが連れて来られた場所は床に魔法陣のような紋様が刻まれた広場であり、魔法陣の周囲には七色に光り輝く水晶玉が設置されていた。ナイはヨウに促されて魔法陣の上に立つと、彼女は魔法陣の前に存在する台座へと立つ。


魔法陣に移動する際にナイは身に付けている衣服を脱がされ、裸同然の格好で魔法陣の上に立たされる。祖父以外の人間に裸を見られるのは初めてのため、恥ずかしそうに彼はヨウを見るが、ヨウは気にした風もなく台座に刻まれている魔法陣に手を伸ばす。



「大丈夫ですよ、これは神聖な儀式です。恥ずかしがる必要はありません」

「は、はい……」

「本来ならば成人した人間に施す儀式ですが……赤子の時に儀式を行う例もあります。だから危険な事はありませんよ」

「……頼むぞ」



部屋の中には心配した面持ちのアルも立っており、彼はナイの姿を見て不安そうな表情を浮かべる。今から行う儀式は本来ならばナイが成人する年齢を迎えた時に行う儀式だった。



「ではステータスの儀式を行います……陽光神フレア様のご加護があらん事を」

「すていたす……?」

「目を閉じて、しっかりと立っていなさい。儀式の途中で外に出ては駄目ですよ」



ヨウの言葉にナイは慌てて目を閉じると、やがてヨウは呪文のような言葉を唱え始める。ナイもアルも聞いた事がない言葉であり、やがて魔法陣が光り輝く。


魔法陣の上に立っていたナイは身体の中に熱い何かが送り込まれるような感覚に陥り、左手の甲に熱が集まっていく。驚いたナイは目を開くと、いつの間にか左手の甲の部分に魔法陣のような物が浮かんでいる事に気付く。



「あつっ……!?」

「……成功しました。無事に契約は果たされましたよ」

「ナイ、大丈夫か!?」



儀式が成功するとナイの元にアルは慌てて駆けつけ、ナイは左手に浮かんだ魔法陣を見て呆然としていた。その様子を確認したアルは安心した表情を浮かべ、説明する。



「大丈夫だ、その痣は悪い物じゃない。すぐに消えるからな」

「爺ちゃん……僕、身体の中が急に熱くなって、その後に声みたいなのが聞こえたよ」

「声か……それはどんな声だ?」

「えっと……多分、女の人の声だと思う。それで確かこう言ってたよ……」



アルは儀式の際中に聞こえた女性の言葉を思い出し、その言葉を口に出した瞬間、異変が生じた。



『ステータス』



ナイがその言葉を口にした途端、唐突に彼の左手に刻まれた紋様が光り輝き、その光を見てナイは驚く。すると傍に立っていたアルとヨウは頷き、すぐにヨウは部屋から出る様に促す。



「着替えを終えたら礼拝堂へ戻って下さい。水晶板を用意しますのでそこで彼のステータスを確認しましょう」

「ああ、分かった……ナイ、すぐに服を着るんだ」

「え?う、うん……分かったよ」



アルの言葉にナイは頷くと、急いで服を身に付け始める。その様子をヨウは意味深な表情で見つめ、彼女はすぐに儀式の間と呼ばれる広間から出た――





――礼拝堂へと戻るとヨウともう一人修道女が待ち構えており、その修道女の手元には板状の水晶が握りしめられていた。形は長方形でそれなりに大きく、硝子のようにも見える。



「お待ちしていました。では、早速ですがステータスの開示をお願いします」

「おう……ナイ、こいつに掌を翳すんだ」

「えっ……どうすればいいの?」



アルはナイの身体を抱えると、修道女の女性が手にした水晶板なる道具に掌を翳させる。ナイは不安な表情を浮かべながらもアルに振り返ると、彼は先ほどの言葉をもう一度告げる様に伝えた。



「さっきの言葉をもう一度言ってみるんだ」

「……ステータス?」



ナイは言われた通りに先ほど儀式を受けた際に聞こえてきた女性の言葉を繰り返すと、次の瞬間にナイの左手に刻まれていた魔法陣が光り輝き、水晶板に魔法陣が浮かぶ。


その結果、魔法陣が浮かんだ水晶板は全体が光り輝くと、やがて光が文字の形へと変化し、水晶板に光の文字で構成された文章が出来上がる。それを見たナイは驚くが、一方でアル達は興味深そうに水晶板に表示された文字を確認した。

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