第7話
供物を捧げる儀式が終わり、代表者の人が挨拶をしている。偉い人なんだろうな。普通の信者は皆平和教のマークが刻まれているペンダントをしている。もちろん俺も持ってる。壇上に立つような偉い人はペンダントではなく、装飾された紺色のマフラーみたいなものを首から掛けているから。
挨拶が終わると、代表者の手かざしが始まった。手をかざすとそこから普通の人では見えない光を発して人の病などを治してくれるのだ。紺色マフラーの人は、一人で多人数に手かざしが出来る力を持っているらしい。会場全体に掌を向けて目をつぶり集中している。
「あみちゃん、手から光が出てるとかそういうのないの?」
「出てない出てない。てゆうかさっきから笑いこらえるの大変なんだけど。若い男の子たちが勝手に檀上に上がって、ダンス大会みたいのが始まっちゃってさ、手を挙げてるおじさんに一方的にハイタッチしてるの。」
「なにそれ!?意味わかんない!」
「あ、スーツの人たちに無理やり引っ張られてった。面白かったのに。」
本当に意味が分からない。偉い人の手かざしから光が出てないって、やっぱり平和教は嘘っぱちだったのか。
「さめちゃん、なんかスーツの人たちが回りに集まりだしてるんだけど。私が通訳してるの怪しんでるみたい。」
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一番前に立っている大柄の黒スーツがあみに話しかける。
「コトノハナヒメ、ようこそいらっしゃいました。セイリュウノミコト、よくヒメを連れて参りましたね。やはり教主様が見込まれた方です。」
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「なんかようこそって言ってる。よく連れてきたって。」
この時点で俺はやばいことをしたとすぐに感づいた。冷汗が止まらない、怖い。祭典の前半がもう10分で終わる、終わったらすぐに帰ろう。
「何、なんの用があるのか聞いてみて。」
「んとね、ずっと待ってたんだって、私たちのこと。え…、私は平和教を導く光で、さめちゃんは人を守る力があるって…。」
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あみの耳にどこからか声が聞こえる。
「ひょうちゃん、あみちゃんの手を取って早くここから立ち去りなさい。絶対にあみちゃんの手を放しちゃだめ。」
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「やさしそうなおばあちゃんの声がする。早くここから出ろって何回もずっと言ってる。手を放しちゃだめだって。」
おばあちゃんって誰だ。ずっとしてるって。でもやさしそうな声ってことは悪い人じゃなさそうだし、どうしよう。平和教は変な宗教だったんだ。なんでこんなことに…もういい、逃げなきゃ。こいつらはあみちゃんが持ってるお化けが見える力が目当てなんだ。
あみの手を握り、会場を後にした。まだ祭典が行われているせいか、廊下は誰もおらずがらんとしている。
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「お待ちください、どこへ行かれるのですか?」
大柄の黒スーツが二人を追いかける。
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「やばい、追いかけてきた。」
その言葉を聞くや、二人は走り始めた。とにかく車まで辿り着かなくては。誰もいない廊下駆け抜ける。何も知らない人から見たら、手をつないだ男女が物凄い勢いで走っている姿は滑稽だろう。
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