第32話

おっす、オラ、千尋司ちひろつかさ


主人公タイヨウと同じようにヒロインたちと過ごしてっはずなのに、全く周りから嫉妬の対象にもなんねぇぞ。



…おかしい。

あらためて自身の羨ましがられなさを主人公風に紹介してみてもやっぱりおかしい。


学校ではタイヨウと同じ時間ヒロインと時を過ごしいるはずなのに、なぜタイヨウとオレとでは皆、反応が違うのだ?


というかオレに誰も反応していないまである。


ぜんぜんワクワクしねぇぞ…。



とまぁ、んなこたぁ置いといて今はタイヨウ宅でタイヨウとその妹、夏目彩夜なつめあやと3人でゲームをしながら雑談中である。


いや、雑談でなく、相談だっただろうか。


なんでも、彩夜に告白して無惨にも撃沈したはずの同級生が諦めてくれないという話だっけか。


「なんだ付きまとわれてんのか?そいつに」


タイヨウは妹を溺愛する兄としてか、少し怒気を強めて質問した。


「いや…というか、断りかたをミスっちゃって…」


ポリポリと頭をかきながら彩夜あやが答えた。


「ミスった?」


確信をつかない彩夜の物言いにタイヨウが続きをうながすようにまた質問をする。


「なんか、そもそもめんどくさそうな雰囲気だったから『彼氏いるしムリ』って言っちゃったんだよね」


ほう。

オレは、2人の会話に入ることなく聞き専に徹していたが、なんだか話が見えてきたような気がする。


どんどん話がラブコメらしくなってきやがったみたいですわ。


言わずもがな諸君もおわかりだろうが、彩夜あやに実際に彼氏はいないはずだ。



「ほいで、1回会わせてくれって話になってさ…」


「えっ!?それで、会わすって言っちゃったのか?」


「や、なんか、こっちもウソついてる手前、後ろめたさでなんとなく押しきられちゃって~」


はいはい、出ましたね。

そうですラブコメです。


ラブコメあるある『彼氏のフリして!』ですわ。


それはあまりにも使いふるされた王道のシチュエーション。


今日も今日とてタイヨウの身に起こるラブコメ展開。



…っが、だ。


そのご都合主義もはなはだしいラブコメ展開に対して毎度毎度、怒り、哀しむ、オレ。


人間の感情である喜怒哀楽の、怒と哀ばっかりを使っているオレだが、今回は全く、怒の感情もなければ哀の感情もわいていない。


むしろ喜。

それどころか歓喜。


それもそのはず。


この『彼氏のフリして!』というのは、数多あるラブコメイベントの中でも2人の距離が急接近という、なかなかのつよイベント。


その強イベントを、妹キャラで消化してしまうということなのだ!


つまりこの『彼氏のフリして!』イベントは雨宮や西園寺先輩、その他のヒロインでは起こらないということを意味する!!!


同じイベントをヒロインを替えて2度も行うなんて面白味にかけることはラブコメの神様が許さないはずなのだ。



……日南に関しては、そんな神様などガン無視して、わざと『彼氏のフリして!』イベントを自作自演して放り込んできそうでちょっと怖いけど…。


いやいや!

とは言え、とりあえず1つ結構重要なイベントをオレにダメージの無いかたちで終えられるというのは、とにかく喜ばしいことである。


これを喜怒哀楽の喜と言わずしてなんと言うか!


それでいて兄妹で消化するイベントなのでオレが、いつものように、あれこれと思案する必要もない。


喜でありながら楽でもある。



つい数10分前に夏目彩夜なつめあやを評して『ラブコメ展開のないタイプの妹キャラ』と言ったが、それは少々訂正するべきなのだろう。


正式にヒロインレースに参加はしていないとはいえ、やはり妹キャラは妹キャラ。


主要キャラであり、大事なポジションのキャラであることには違いない。


妹キャラとはハーレムラブコメ主人公が結局、誰とも付き合いませんでしたというようなオチになったときの最後の心の拠り所。


家族という絆で結ばれている2人は『赤い糸』などというような不確かで、いつ切れてしまうやもわからないものなどよりもよっぽど強い、戸籍上の絆で繋がっている。


つまりのところ、夏目彩夜なつめあやも、おまけシナリオとか、OVAとか、アナザーストーリーとかで、妹ルートもできる程度にはヒロイン力を持っているということなのだろう。


うん。そうに違いない!


ていうか、それメインストーリーでやっちゃおうよ!!


youやっちゃいなよ!


そしたらハーレムラブコメの主人公、ぜんぜんオレが引き継ぐし。


引き継がれる意思…とか、めっちゃ主人公っぽいやん!!



よしタイヨウ君、キミは第1部の主人公としてとりあえず彩夜の彼氏のフリをしなさい。

他のヒロインのことは、その後始まる第2部の主人公であるオレにまかせておきなさい!


間違いなく大丈夫だ!


四の五の言わずに、とにかくオレにまかせなさい!


まかせろったら、まかせろ!!



「てゆうわけで、悪いんだけど彼氏のフリしてその人に1回、わたしと一緒に会ってくれないかな?ツカサ」


「まかせな…はい!?」


オ、オ、オレェ~!!??

どいうことだ!?


思わず驚いて、握っていたコントローラーすら落としてしまうオレ。


あり得ない展開に困惑し、方向感覚を失うオレと、オレの操作するモンキーゴリラ。


「なんでオレやねん!?……ここは、その役目はタイヨウだろ!?」


至極当然の疑問を、夏目兄妹2人にぶつける。



2人とも少しの沈黙が続く。

なんやねんその沈黙は?



「いやぁ…それは…」


彩夜あやがしぶしぶといった感じで口を開いた時に、その言葉に続けるようにタイヨウが言葉をかぶせる。


「実はもう、その彼氏のフリ。オレ、前にもう1回やってんだよね…」


「…は?」


今だにクエスチョンフェイスのオレに、今度はまた彩夜が続ける。


「前にも、別の人なんだけどちょっくらしつこい人が居たのよ。それでさぁ、そん時はとりあえずは上手くいって、彼氏ってことで断れたんだけど、後々、実はお兄たんだって事がバレちゃってさぁ。同級生の子とかにもその話がなんか知れちゃって~。今回の人もアニキの顔は知ってるってワケ」


「つーわけで、オレが彼氏のフリすることは、もうできなくなってしまったってワケよ」


なんだか、交代交代で喋って、1通りの説明は終えたとばかりにウンウンと、うなづいている夏目兄妹。


彩夜のタイヨウに対する呼び名が毎度毎度、定まらないのは、ここではとりあえずは置いておくとして。


さっき、そんなことは無いはずと言った『同じイベントが人を替えて行われる』ということがさっそく行われそうになっているということに恐怖を感じるオレ…。


「だからあれほどもうその手は使うなと言ったのに…」


「ごめんごめん。でも、その男ホントにしつこいのよ~」


まだなんか言ってるし…。



気がつけば、テレビの中で繰り広げられていたゲームは既にタイムアップで終わっており。


4キャラで行われたその乱闘の順位は、1位は彩夜、2位タイヨウ、3位はコンピューター。


オレのモンキーゴリラは当然のごとく最下位だった…。





………ムキー!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る