第27話
雨宮の謎発言(?)により少々考えこむ先輩ヒロインの
ほどなくして口を開いた。
「ではこうしよう部活の事はとりあえず諦めるとして。代わりに…と言うよりも、純粋にタダのお願いなのだが、今度の土曜日にウチの道場のほうに1日だけ稽古に来てはくれないだろうか?」
「道場にですか…?」
「うん。今度の土曜日は部活は休みでね。ウチの道場のほうで個人的に稽古しようと思っているんだが、君が来てくれると良い刺激になると思ってね。…いや稽古せずに見学だけでも良いから来てはくれないだろうか?」
西園寺センパイは、いつにもなく粘り強く雨宮を誘っているようだ。
それほどに雨宮の実力を買っているのか、けっこうなご執心のようだ。
「そうだ…。お礼にいつもウチで食べている美味しい和菓子を出そう。なんなら、どこかから有名なプリンでも取り寄せようか…!」
あ、これいけるな。
雨宮にプリン攻撃は効果はバツグンなのは既に実証ずみだ。
「……う、…」
雨宮が苦しそうに、考えている。
プリンの登場によりかなり頭を抱えて悩んでいるようだ。
「え、行けばいいんじゃね?見てるだけでお菓子食えたらお得じゃね?」
「……」
空気を読めない大物主人公タイヨウさん(仮の主人公)(オレの希望)が、またしても野々村が言ったほうが似合いそうなアホっぽい発言で話に入っていった。
いやどんだけ野々村をアホで食い気ばっかりの子だと思っとんねんオレ…。
しかし、当の野々村さん(いい子)本人は空気を読んでか先ほどから話には一切口を挟まずに、食後のおやつ用にとコンビニででも買ったのであろう袋入りのマシュマロをパクパク食べていた。
…う~ん。
ナゼか、そこはかと無くアホっぽい…。
しかし野々村は基本的には、空気は意外と読める子で、こういう時にむしろ空気を読めずにガンガンいったりすることがあるのはタイヨウのほうだ。
のほほんと言ったタイヨウのことを冷ややかに、そして鋭く雨宮の眼光が捉える。
…んー。
まぁ、タイヨウ君の言ってることも、普通の状況でならわかるんだけどね。
こんだけの不思議な主人公パワーを持ちながら自分に主人公の自覚が無いぐらいだし、タイヨウは野々村という大ボケの影に隠れていてあまり目立たないが、けっこうぬけているところがある。
しばらくタイヨウに鋭い眼光を向け続けた雨宮は、何かひとりで納得したのか、あごクイをくいっと上げて、西園寺センパイのほうを見る。
どうやら西園寺センパイの提案にのることにしたらしい。
「わかりました。土曜日、プリンを頂きに、見学だけで良いのなら道場に行かせてもらいます」
「そうか!ありがとう嬉しいよ!」
パアッっと西園寺センパイは笑顔になる。
やはり美少女だけあって笑うと、思わずときめいてしまう可愛さだ。
普段の品行方正で厳格な姿勢からの、この屈託のない笑顔がギャップで皆やられてしまうのだろう。
あなおそろしや…。
「ですが、見学だけでプリンを頂くのも申し訳ないので稽古は受けさてもらいます。…この男が」
そういってクール系ドS転校生ヒロインの
……あ、やべ。
寝耳に水とはこのこと、当の本人、タイヨウは「へ?」と状況が飲み込めていない。
どうやらタイヨウの、のほほんとした発言が雨宮の逆鱗に触れたのだろうか、自分のかわりとして剣道の稽古受けることを勝手に決められたようだ。
「なるほど…その手があったか!夏目。キミも道場に来たまえ。ちょうど良い機会だ。以前からキミには見込みがあると睨んでいたんだ」
なぜか雨宮の意見に納得して、むしろナイスみたいな感じの西園寺センパイ。
その手があったか…って、どの手なんだ、それは…??
しかし、この場において、一番の被害者。
一番寝耳に水なのは主人公のタイヨウ――では無い。
そう何を隠そう、それは親友ポジションのオレこと
まったくやっちまった…!
オレは、ノーガードから、パンチを貰ってしまったような衝撃に打ちのめされていた。
…いや、剣道の話だから、面食らったと言ったほうがウマイこと言った感がでるので、そっちにしよう。
しかしそんな小手先のテクニックにこだわっていても、どうにも(胴にも)ならない状況なのだ。
オレともあろう者が無警戒だった。
オレぬきでハーレムラブコメのイベントが展開しちまった!!!
このままではオレが不参加の、オレの預かり知らぬところで、ハーレムラブコメが進んでいってしまう。
それは親友ポジのオレとしては、一番恐れているところである。
どんなに親友ポジションらしい役割しか与えられないとしても、ストーリーに参加さえできていれば主人公になるべく色々と策を労することもできるのだが。
オレに関係の無いところでストーリーが展開されてしまうとこれはもうどうしようもないのである。
冷静に考えれば、クール系ドSヒロインの雨宮の発言は無茶苦茶な提案であり、のほほんとした空気読めない発言があったとは言え、タイヨウは『え…普通にオレが代わりにやる意味がわかんないし、全然やりませんけど……何言ってんの引くわ…』と、むしろドン引きフェイスで全然断れる案件。
というか断るのが普通、一般的な感性である。
ところがどっこい。
一般的な感性などハーレムラブコメの主人公の星のもとに生まれた男には働かないことが多々あるもので、中でもハーレムラブコメ関連のイベントがおきそうな時には、あーだこーだと愚痴りながらも、結局はハーレムラブコメなストーリーが展開する方向へと、全てを飲み込んでしまう。
いや、彼ばかりでなく、それはヒロインたちにも言えることであり。
『いいじゃん、それアリ!』みたいな雰囲気が雨宮だけでなく、西園寺センパイからもありありと感じられる。
雨宮の発言を聞いて『お、なんかおもろい事になってんのか?』てな感じのことを思ったのか、マシュマロを食べる手を止めて、なにやら好奇心まんまんの好意的な表情でタイヨウたちを見ている野々村も同様なのだろう。
「いやいや、なんで俺が…!!」
案の定、雨宮の提案に否定から入る
それはそうだ。
いきなりここで『よし、じゃあ俺がやるか』となるやつはいない。
そんなの『オレはどこにでもいる普通の男子高校生(笑)』の風上にもおけないアグレッシブさである。
ハーレムラブコメの主人公とは、大概めんどくさがりで、優柔不断で、自分から女の子に満足にアプローチすることもままならない、自主性皆無ヤローが1つのテンプレートだ。
しかし、彼が仮にどんなに行きたくなかろうとハーレムラブコメが、彼の運命が、それを許しはしないのだ。
タイヨウよ…。
無駄なあがきだ……諦めろ。
つまりのところ、どこをとっても、雨宮が自分の代わりにタイヨウが剣道の稽古を受けると口に出してしまった時点でもう、お稽古イベントは誰にも取り止めにすることなど不可能。
あらがうことの出来ない運命。
確定事項なのだ…。
こうなれば後の問題は、このイベントには誰が参加するのか、しないのか、という点しか無いのである。
つまりオレがやるべきことは、このイベントへの参加権を獲得すること。
それが、オレが主人公へ近づくために今残されているただ1つの道…!!
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