第2章

第8話

転校生ヒロイン、クール系ツンデレ美少女、雨宮鈴花あめみやすずかとのドタバタした1日もどうにか無事終わり。



帰路についたオレ、千尋司ちひろつかさは今自宅でバスタイム中である。


ザパァーン。


「ういぃぃ~」


温かい湯船に浸かり、至福の声を漏らしながら、今日1日の疲れを癒しているところだ。



……いやぁしかし今日はホントに疲れたわ。


まさか転校生ヒロインまで登場してくるとは思わなかった。

しかもこいつがまたバカみたいに美少女だからなぁ。


今朝、雨宮が初めて教室に入ってきた時のことを思い出す。


小さな顔に大きな瞳、長いまつ毛、腰のあたりまである綺麗きれいな黒髪ストレート、そして凛とした雰囲気。


そんな雨宮鈴花の、あまりの美少女っぷりにクラスメートたちは逆に引いてたもんな。


しかしそれもわからなくもない。

雨宮のその圧倒的なルックスとそこからかもし出されるオーラは、自分たちには近づくことも許されない存在なのではないか、とさえ思わしてしまう、マジもんの美少女だ…。



しかしオレにはそんなことは関係ない。

なぜならハーレムラブコメの主人公とは、学校ではだれもが知る美少女たちと必ず知り合ってしまう運命なのだ。


そう、つまりオレはハーレムラブコメの主人公………の親友ポジションだから、そんな美少女とも知り合いになってしまうのだ。


いや主人公ちゃうんかい。コラ!


イカンイカン…まだ不良の口ぐせがぬけきっていないようだ。


シャンプーと一緒にしっかりと流し落とさねば。バスタイムなだけに。


と、上手いこといいながら、また雨宮のことを考える。思い出したのは公園でのことだ。



『………ありがとう。2人とも』



いやぁ~!

まいったな、もぉ~~!!


デレられちったよヒロインに、オレも。

主人公たいようだけじゃなくて、オレも。



これはオレが主人公になる日も近いのでは?

いやむしろもう主人公って言っちゃってもいいのかなこれは?



そんな風に有頂天になりながら今日の出来事を回想していると、とある疑惑が沸き上がった。

風呂だけに沸き上がったワケではない。(さっきからあんまり上手くねーな)



……アレ?


……もしかして?



そして、また改めて今日の出来事を復習するとその疑惑は確信へと変わった。


しまった!!

やはりそうだ!


そうとわかれば、風呂などに長々と浸かっている場合ではなかった。急いで寝なければ!




――そして、カラスカァで夜が明けて、朝である。


早朝。

まだクラスメートはだれ1人登校していない2年A組の教室にオレは居た。

それもそのはず朝の始業の鐘が鳴るまでまだ1時間も早い時間だ。


もちろんオレも、いつもこんな時間に登校しているわけではない。これにはある理由がある。


……昨日の夜に気づいてしまったのだ。



そう、オレは、転校生ヒロイン―雨宮鈴花と正式にはまだ1度も会話を交わしていないことに…!!!



前の席で行われている、タイヨウと雨宮の口喧嘩に割って入ってみたり。

タイヨウと雨宮と3人で一緒に不良たちから逃げてみたり。

「ありがとう。2人とも。」とお礼を言われたりしているものの、

雨宮とオレの個人的な会話というのはまだ1度も行われていなかったのだ。


これは非常にまずいですよぉ!?

主人公に一歩ちかづいたなどと、うかれている場合ではなかったのだ。


つまりオレは、なぜいつもより早起きし1時間もはやく学校なんかに来ているのかというと、雨宮に会話をしかけるため、そのためだけに来たのである!



なぜならばThis is 主人公のタイヨウはだいたい遅刻ギリギリに登校してくる。


つまり、雨宮とツーショットになれる可能性が最も高いのは、この朝の時間に間違いないのだ!!



……完璧な作戦だぁ。


1時間もはやく教室に来れば、確実に雨宮よりもはやく教室に着いている。

万が一に雨宮よりも遅くに登校してしまうと2日目とはいえ雨宮は転校生だ。誰かがオレよりも先に雨宮に話しかけてしまうかもしれない。


ミーハーな女子どもに『雨宮さんてホント綺麗きれいだよねー。やっぱり美容とか気をつかってるの~?』などと下らん質問ぜめにされる可能性も充分にある。

そんな話よりも、オレが主人公になるために雨宮はオレと盛り上がりに欠ける会話をすべきなのだ。


……盛り上がんねーのかよ!

……いや盛り上がんねぇだろうな。


しかしまぁ今のところ作戦通りにことは運んでいる。

教室にはオレ1人だ。後は1人で登校してきた雨宮に話かければいいだけだ。


なんて話しかける?

雨宮の趣味も、好きなものも、なにも知らないじゃないか?


否、そんなものは簡単だ。

なにも共通の話題など要りはしない。今は朝なのだ。朝には朝しか使えない、話しかけるためには最強の決まり文句があるのだ。


ジャパニーズ『OHAYOOおはよう』だ。



さすがのクール系ツンデレヒロインの雨宮も朝の挨拶をシカトするほどのことはしまい。

ましてや昨日『ありがとう』とまで言われた仲だ。最初の一言目さえスムーズに話しかけれればそこからの会話はなんとでもなるだろう。

……たぶん。



ともあれ、このために夜ふかしをガマンし、睡眠時間も削り、いつもよりも早くに目覚ましをセットしてこんな朝早く学校に来たのだ。

この作戦は必ず成功させなくてはならないのだ。

でなければオレの苦労は水の泡となる。



そしてオレは眠い目をこすりつつ、雨宮鈴花の登場を、今か今かと待っていた。


しかし雨宮、なかなか現れない。

クラスメートたちは続々と登校してきて、友達たちで仲良くお喋りに花咲かせている。

……オレも早くに花咲かせたいのだが。


そろそろ鐘も鳴る時間だぞ?

雨宮って結構ギリギリに来るタイプなのか?


しかし幸いなことにタイヨウもまだ登校してきていない。いくらなんでもタイヨウよりも遅くに登校してくるということは無いだろう。


仕方ない。ここはロングトークは諦めて『おはよう』『あら、おはよう』の挨拶だけでもいいから会話をする、という目標をとにかく達成しよう。


と作戦を下方修正して、気合いを入れ直していると、ついに雨宮の姿か教室の外に見えた。


しかしその雨宮のとなりには雨宮とギャースカと口喧嘩しながら一緒に教室に入ってくるタイヨウの姿があった。



あ、そのパターンすか……。

今日も偶然会っちゃってるパターンね……。



登校中の道でなのか、下駄箱の前でなのか、どこで会ったかは知らないが、さすがハーレムラブコメの主人公の夏目太陽なつめたいよう

オレの考えたせせこましい作戦など、あっさり超越ちょうえつして、不思議な主人公パワーでヒロインと朝からあっさりと会話が始まってしまっているようで。



こうして、昨日のバスタイムに考えたオレの作戦は失敗に終わり、今朝の苦労は水の泡と消えた。

風呂だけに……。

いやぜんぜんおもしろくない。



……認めん。


……認めんぞ。




こんなハーレムラブコメ絶対オレは認めない!!
















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