第35話『ご都合主義は続かない』



「では、詳しい話は後日と行きましょうか。私は亜人国の王へと急ぎ連絡を取ります。その後、転生者方で作戦を決められてはと思うのですが宜しいですかな?」


 話はある程度纏まり、ダンジョンの主……もといフェイクコア所持者達とそれが操る大量の魔物達。そしてトゥルースコアを使って好き勝手しているらしい先輩転生者を俺を含めた三国の転生者たちを前面に押し出して排除しようという流れになる。


「は、はい。私はそれで良いと思います」


 それに対し、大人しくなった女王ペルシーは宰相さんの事を信じ切っているのか、あるいは今まで迷惑かけまくったからと自重しているのか一も二もなく頷く。

 しかし――



「宜しくねえよっ!!」「何を悠長な事を!? すぐに打って出るべきですっ!!」



 その女王が召喚した主人公であるヴァレルと植木うえき信吾しんご。二人の主人公がその決定に異を唱えた。


 ヴァレルがテーブルの上に片足を乗せ、高らかに語る。


「俺たちの心はバラバラだった。同じ主人公といえど、力を合わせる気すらねぇならそんなもんは烏合の衆だ。だからこそ、魔人国は今まで防御に回るしかなかったんだ。だがな……今はもう違うだろっ!! 俺たちの心は既に一つ!! 我が国に害為す全てをほふり、人間様の強さを見せてやろうじゃねぇか!! なぁ兄弟?」


「え? そこで俺に振るの?」


 まだ俺は賛成とも反対とも言ってないんだけど……。

 そんなヴァレルに負けじとするかのように信吾も、



「ヴァレルさんの言う通りですっ。ここはもう打って出るべきでしょう。いえ、もしここで待機を命じられても僕とヴァレルさんとラースさんは単騎で打って出ます! 僕は斬人さんと約束したんだ。この世界を救うって。

 ――今この瞬間も……魔物やフェイクコア所持者の人たちによって罪のない人たちが犠牲になっているかもしれない。それなのになにもせず待機なんて出来る訳ないだろ!! こうして話している時間だって惜しいんだっ! そうでしょう? ヴァレルさん、ラースさん?」


「ああ、信吾の言う通りだぜっ! 俺らは止まらねえ。なぁ兄弟?」


「………………」


「くすくす。死んだ魚みたいな目をしてるわよ? ラース」


「現実の無常さに打ちのめされてたんだ。察してくれ。いや、むしろ助けてくれ」


 俺はまだ何の意見も出していないのに……どうしてヴァレルと信吾に意志を同じくする同志みたいに思われているのだろう?

 少なくとも俺はお前らと三人仲良く敵陣に突っ込む気はないのだが……。


「無理ね。だって……あの二人、こうと決めたら他者の言葉など聞かないでしょう? 少なくとも私のような胡散臭うさんくさい魔女の言葉に耳を貸さないわよ」


 そしてルゼルスは俺を助けてくれないし……。

 いや、彼女の言う事も間違ってないんだけどさぁ。



「あのぅ……」



 そんな時、荒れ狂いそうになる話し合いに一滴を投じる声が上がった。

 今まで俺と同じように声を上げなかったセンカだ。

 彼女は端っこの方に座っているセバーヌを指さして言った。



「そこのセバーヌさん……でしたっけ? 彼がラース様が強い以前にズルイと言っていた主人公さんですよね? 確か仮定とか関係なく結果だけを持ってくるという……。センカにはよく分からないんですけど、それだけ強い力を持っているのならセバーヌさんの力を借りれば全部どうにかなるんじゃないですか?」


「え、俺は――「それだぁっ!!!!!!!!!!!!」」



 何かを言いかけていたセバーヌの発言を遮り、俺はセンカが出した素晴らしすぎる案に全力で同意した。

 そう――ここにはあのセバーヌが仲間として存在しているのである。

 どんな未来でも望めば実現させるというウルトラバランスブレイカーのセバーヌ君が居るのである!!

 ゆえに、彼が動けば大量に居るフェイクコア所持者だろうがトゥルースコアを持った先輩転生者だろうが関係ない。問答無用でハッピーエンドまで持っていける。

 なので――


「頼んだセバーヌ。その能力ちからでちゃちゃっとこの世界を――」


 救ってくれ。

 そう言おうとした俺をさえぎるかのように。



「――ああ、すまないな。やはりそうなったか。セバーヌ、君は退場だ。元の世界とやらへ帰るがいい」



 そう言ってボルスタインが開いていた本をパタリと閉じる。

 するとだ。

 さっきまでそこに居たはずのセバーヌ。その姿が……ない?



「な……セバーヌ……さん? そんな……なんで……? ついさっきまでここに居たのに……一体どこへ……?」


 いきなり消えたセバーヌ。

 その現実が認められず、ペルシーは虚空へと手を伸ばす。

 しかし、それがセバーヌへと届く事はあるはずもなく。


 対象を失ったその手はだらりと力なく落ち、ペルシーはぶつぶつと何かを呟き始めた。


「………………まさか……いえ、これは――――――――――ボルスタインッ!! これはあなたの仕業でしょう!? 一体何のつもりですか!? まさかあなた、わたくしのセバーヌを――」


 明らかに怪しいボルスタインを糾弾する主人公召喚士のペルシー。

 彼女は絶対に許すまじといった表情で飄々ひょうひょうとするボルスタインを睨んでいる。

 そんな彼女に対し、ボルスタインは両手を上げ。


「待たれよ女王陛下。確かに、私が彼に干渉したことは認めよう。しかし、殺した訳では決してない。それ以前に私が彼に敵う道理などない。私はただ彼の……セバーヌの望みを叶えただけに過ぎない。彼は生まれ故郷に帰りたいと願っていた。だから私は彼を自身の生まれ故郷へと送り届けたのだ。感謝されこそすれ、批難されるわれはないと思うのだが?」


「だからと言って………………くぅっ――」


 悔し気にボルスタインを睨みつけるペルシー。

 そりゃそうなるだろう。自分が好きな主人公といきなり切り離されたんだ。

 俺がやられた側だったらほぼ間違いなく手が出ているような案件。


 それでも、ボルスタインが言っていることが正論だと思ったのか。ペルシーはただボルスタインを睨みつけるだけ。

 だからこそ、そんな彼女に代わって俺が言ってやる。


「だからと言ってなぁボルスタイン。さっきのタイミングでそうするっていうのは悪意しか感じられないぞ? セバーヌに全部丸投げすればハッピーエンドだったってのに……。一体どういうつもりだ?」


 誰もが笑って終われるハッピーエンド。

 それを苦も無く為すことが出来るセバーヌを事もあろうにボルスタインは排除した。

 それも、そういう話題が出た途端に……だ。何かを企んでると思われても仕方ないだろう。


 そんな俺の問いにボルスタインは口を歪ませ。


「悪意? いやいや、むしろ善意と受け取って頂きたいな。私は崩壊する寸前だったこの世界を救ったのだよ?」


 そんな事を言ってのけた。


「何を――」


 何を言ってるんだ?

 そう口にするよりも早く、ボルスタインは自分に酔ったかのように勝手に語りだした――


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