第25話『提案-2』


「サポート……ですか?」


「ああ。君には我々が日々指定する場所での狩りのみをおこなってもらいたいんだ。そうして貰えば我々はその場所を一時的に『立ち入り禁止区域』として君以外の人間の侵入を防ごうじゃないか。そうすれば君もやりやすいのではないかな?」



「それは――」



 あり……かもしれない。

 そんな場所の制限なんて知った事かと憑依召喚したラスボスが指定した場所から飛び出して行ってしまう可能性もあるが……憑依召喚対象を『ウルウェイ』辺りにしておけば彼は目についた魔物を狩り続けるためにその場所から動かないだろう。

 幸い、ランダムではない憑依召喚が余裕で出来るくらいにはMPも溜まったし。


「この提案を受け入れてくれるのならば、もちろん特別報酬も出す。通常のクエストのように『魔物の誰々だれだれを討伐する』というのは君には難しいだろうからこその特別クエストというやつだね。どうだろうか?」


「うーん」


 そんなギルド長の提案に対し、俺は――



 なぁルゼルス。どうするべきだと思う?



 俺が最も信頼できるルゼルスに語りかける。


『難しいところね。向こうの提案自体はそう悪いものではないわ。ただ、ルールルの時にやっていたような魔物狩りをウルウェイにもさせるのはオススメしないわ。本来の十分の一の力しか出せない彼では最悪、命を落としかねない』


 ああ、それもそうか。


『どのラスボスも自分が不利になったからって退くような奴らじゃないもの。あぁ、ルールルだけを召喚するのならば良いと思うわよ。彼女ならある程度はあなたのいう事を聞いてくれるでしょうし、死ぬ心配もないわ』


 実際は何回も死んでるんだけどな。

 ――っていうか、ルールルを憑依召喚すると俺も何度も死ぬ事になるんだが?


『でも、こころざし半ばで本当に死ぬよりはマシでしょう?』


 まぁ、それもそうなんだが……。

 効率とかを考えるのなら憑依召喚の対象はルールル一択だろう。


 ただ……あんな狩りをずっと続けてたら俺の精神が壊れる。

 それに、正直ルールルにだけ重荷を背負わせるというのは俺が嫌だ。

 それこそ彼女が掲げる【平等】に反している。


『【平等】と言うのならばランダム憑依召喚だけれど……かなりリスキーね』


 だよねー。

 何が出るか分からないランダム憑依召喚。

 Bランク以下の魔物しか出ないという北西の森ならばどのラスボスが出ても問題ないと思ったのだが……まさか夜になると出現する魔物のランクが上がるなんてなぁ。思ってもみなかった。


 そこまで考えた時、俺に一つの案が浮かぶ。


 その案をルゼルスにも聞いてもらう。

 すると彼女は。


『ああ、それなら問題ないと思うわよ』


 とのお墨付きをくれた。

 よし――


「決まったかい?」


 答えをルゼルスとの対話の中で見出した俺にギルド長が語り掛けてくる。


 どうやら、俺がルゼルスと脳内会話している間、待ってくれていたらしい。

 まぁ、限定召喚についての説明は省いたから単純に俺が答えを出すのを待ってくれていただけだと思うが。


「ええ。その話、受けたいと思います」


 俺はギルド長の……いや、ギルドの提案を受け入れる事にした。


「おお、それは良かった」


「ですけど、受けるに当たって一つだけ条件があります」


「条件? 何かな?」 


「夜の間でもBランク以下の魔物しか出ない場所を教えてください。そして、基本的にはその場所での狩りをさせて欲しいんです。もちろん、たまにならAランクの魔物が出る場所での狩りもやるんで」



 そう、これがルゼルスとの対話の中で俺が出した答えだ。

 ラスボスの精神を制御して、どうこうすることは正直、今の俺には難しい。


 だが、彼らの力は憑依召喚の中であってもBランク冒険者以上。


 ならば――――――今度こそ間違いがないように夜だろうがBランク以下の魔物しか出ない場所での狩りをすればいい。

 

 そうすればルールルに限らず、『ウルウェイ』などに任せればその地域の魔物を問題なく殲滅せんめつ出来るだろう。


 もっとも、どの地域でも夜になったらAランクの魔物が徘徊するよと言われれば終わりなのだが――


「ああ、なんだ。そんな事か。もちろん構わないよ。というより、夜間にAランクの魔物が闊歩かっぽするあの森が特殊なだけだ。あそこは『禁止区域』と接しているからね。他の場所では基本的にそんな事はないから安心してくれ」


 と、ギルド長は問題なく俺の提案に対して快諾の意を示してくれるのだった。


★ ★ ★


 ――スタンビーク。とある貴族の館


「ほう、そんな少年が……。えぇ、えぇ。分かりました。そういう事であれば問題ありませんよ。さっそく手配しておきましょう。では――」


 魔法による通信を終え、男は忙しなく手を動かす。

 男の名は、ユーグスタッド・アレシア。

 アレシア領を治める公爵こうしゃくだ。


 彼は今しがたギルドからラースという名の少年の話を聞いた。

 そして今は絶賛、ギルドが『立ち入り禁止区域』を設定する事などについての許可を出す書類を作成している最中だ。




「しかし冒険者となってから僅か数日でAランク相当の腕前を見せ、かの『デスロータル』の幹部をも一網打尽にしたかもしれない少年……ですか。にわかには信じがたいですね。あの『デスロータル』の幹部が揃って我が領地に現れるというのも不可解ですし。まぁ、ギルド長の言う事を疑う訳ではないのですが」


 Aランク冒険者はこの国に数十人しか存在しない。

 しかも、その全てが冒険者として国に貢献してくれているわけでもない。国に貢献してくれるAランク冒険者という意味ではそれこそ両手の指で数えるくらいの数しかいない。


 それほど、希少な存在なのだ。

 だからこそ、国は、貴族はAランク冒険者を大切にする。場合によっては冒険者から騎士、そして貴族へと昇進する事もある。

 くだんの剣聖の家も元はそんな成りあがり方だったはずだ。


「剣聖の家といえば……そう言えば王が何か言っていましたね」


 なんでも、剣聖の家を追い出された者がどうやったのか、とんでもない強さになってアスレイク領にある冒険者学校で大暴れしたとか。

 その者は人外としか思えない力を持つ女を従えていたという。


 そしてその者は騒ぎの後、どこかに雲隠れしてしまったらしい。


 王としては是が非でもその少年と協力関係を結びたいらしく、今現在はその少年の行方を探す事に注力しているらしい。

 ただ大っぴらに捜索しても相手の反感を買ってしまうかもしれないという懸念けねんもあるそうで、未だに少年の行方は掴めていないそうだ。


 確かその者の名も『ラース』だったような……。


「いえ、さすがに別件でしょうね」


 今しがたギルドから報告を受けた少年の名前もラース。

 だが、数日前にアスレイク領の冒険者学校で大暴れした者がどうやって我が領地であるスタンビークまで来れるというのか。休みなく馬を走らせたとしても一週間はかかる距離だ。

 それに、ギルドの報告では王の言っていた『人外の力を持つ女』の話は出てこなかった。その事だけを見ても王が言っていた少年とは別人物だと思うのだが……


「とはいえ……さすがに偶然で片づけるのも……まぁ、どちらにせよAランクの実力者が現れたら王に報告する決まりですしね。一応、伝えておきましょうか」


 そう呟き、アレシア公爵は通信魔法を使用できる部下を呼び出し、その間に王に伝えるべき内容を吟味する。

 そうして彼は通信魔法を王の側近へとかけさせるのだった――



 王がラースとの邂逅かいこうを果たすまであとわずか。



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