第22話『運が良かったらしい』
「うわビックリしたぁっ」
ギルドに響く絶叫に対しびっくらこく俺。
いきなりそんな大声を上げられたら驚くじゃんか。
しかし、そんな事など気にした様子もないギルド職員さんが俺に詰め寄ってきた。
「いやいやアンタ何してくれてるんですかっ。ドラゴンってあのドラゴン!? あの天災級の魔物に手を出したんですか!?」
「ええと。まぁ、はい」
ルールルがスキップしながら突っ込んでいってました。
『嬉々として狩ってたわね』
ドラゴン戦では何十回も死んだからよく覚えている。
「どうするんですか!? ここに素材があるって事は手を出しちゃったんでしょう?」
「そりゃまぁ手を出しましたね」
「ドラゴンを怒らせたら報復とでも言わんばかりに近隣の村に被害を出すくらい暴れまわるんですよ!? あぁぁぁぁぁぁぁ。本当に……なんてことを……」
頭を抱えるギルド職員さん。
周りの冒険者たちもなにやら騒いでいる。
しかしそうか……ドラゴンって手を出したらいけなかったんだなぁ。それならそうと先に言って欲しかった。
いや、そういえば冒険者学校でそんな事を習ってたような? まぁ、どっちにしろルールルは突っ込んでいってただろうからどうしようもないか。
ドラゴンにはキッチリ
おそらくドラゴンは仲間意識が強く、仲間が倒されたら他のドラゴンたちが一斉蜂起してしまう――みたいな設定なんだろうな。
それでみんな、こんなに慌てているって訳か。
そんな中、テラークさんが声をあげた。
「おいおい、さっきから何を言ってるんだアンタ? ドラゴンの報復? あるわけねえだろそんなもん。兄貴の事だからドラゴンも狩ってきたんだろう? ねぇ兄貴?」
そんなテラークさんに返事する前に、先ほどのギルド職員さんが割り込んでくる。
「何を言ってるんですかテラークさん。いかにラースさんがAクラス冒険者に近い実力を持っていたとしてもそれは不可能ですよ。なにせ、ドラゴンは攻撃力はもちろんの事、知能も高く、防御力も高くおまけに逃げ足が早いんです。そんなドラゴンを単独で討伐できるわけが――」
話を聞いていると何やら誤解がありそうだったので俺は横から口を挟むことにした。
「あの、すいません。普通に息の根、止めちゃいました」
「謝ってもどうにもなりませんよ。今後の対策を………………今なんて?」
目を大きく見開くギルド職員さん。
俺はそんな職員さんにハッキリともう一度告げる。
「いや、ですから……ドラゴンはきちんと息の根を止めましたよ? えっと……やっぱり倒すのまずかったですかね? 倒しちゃったら他のドラゴンが報復に来ちゃう……みたいな?」
「いえ、この周辺に現れるドラゴンは基本的に群れないのでそういう心配はありませんが……」
ああ、なんだ。仲間意識が強くて報復する種だから慌てているってパターンかと思ったのだがどうやら違ったらしい。
俺がドラゴンの鱗を一枚剥がしてそのまま逃げ帰ってきた――みたいに思われてたって所か。
『まぁ、仕方ないのではない? 聞いた感じだとこの世界のドラゴンってかなりの強敵みたいだし。それこそルールルが虐殺した暗殺者なんかよりも強いみたいね』
そうみたいだな。
いやぁ、しかし暗殺者達の時も思ったがやはりルールルを引いたのはラッキーだったなぁ。
引くラスボスによってはそんな強い相手、逃げられるか、逆に倒されるかされて大変な事になっていたかもしれない。
ルールルはその空間に
『それよりラース。職員さんが完全に思考停止しちゃってるわよ?』
マジですか?
ルゼルスさんに言われて前を向いてみれば――なるほど。確かに職員さんがポケーっとした顔で「あぁ、これ夢ですね」なんて呟いている。いやいや、夢じゃありませんよ?
「もしもーし。職員さーん。大丈夫ですかー?」
目の前でフリフリと手を振って見せる。
すると職員さんはカッと目を見開き――
「くっさっ!?」
と、俺の身から漂う魔物の悪臭によって正気に戻ってくれた。
「………………」
『まぁ、傷つくことないわよ、ラース。こうなったのも全部ルールルのせいなんだから』
そうなんだけど……こうして面と向かって臭いと言われるとさすがに傷つくんだよなぁ。
「こ、こほん。さすがに私の手には余ります。ちょっとギルド長を呼んでくるんでラースさんはそこで待っててください。それと、ラースさんにはどうやら常識が全く足りていないみたいなので後で講習を受けてもらいます」
なんて事を職員さんが言い出したので俺は慌てて抗議する。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ! 俺は腐った魔物の返り血で今すぐに風呂に入りたいんですよ。というかまさかこんな状態で講習を受けろと!?」
さすがにそれだけは嫌だったので猛烈な講義を入れる。
すると、職員さんは冷ややかな目で俺を見つめながら、
「ご自分の責任では?」
と、凄まじい正論を放ってきた。
「うぐっ」
正直、憑依召喚について話しても信じてもらえるか分からないし、なにより全部をルールルのせいにしたくない。彼女は俺のためにやってくれたわけだし。
ゆえに――ぐうの音も出ない。
そうして俺が葛藤していると職員さんは「はぁ」と溜息をついて
「仕方ないですね。それでは公衆浴場でサッパリしたらすぐに来てください」
と、救いの手を差し伸べてくれた。
「ありがとうございます!!」
と、俺がギルドから出ていこうとすると――
「ちょい待ってくれ兄貴!!」
と、テラークさんに止められた。
「どうしたんだテラークさん? こっちは急いでいるんだが……」
俺は早くお風呂に入ってサッパリしたいんだ。だって、男の子だもん。
「いや、ちょっと兄貴に聞きたいんだけどよ。さっきのドラゴンやら他の魔物の素材だけど……残りはどうしたんだ?」
「え? ああ、持ちきれない分はそのまま置いてきましたけど……まずかったですか?」
「ああ、まずいな。魔物の死体はそのまま放置するとアンデッド化する可能性もあるんだよ。それで兄貴、兄貴が狩りをしてた場所ってどこですかい?」
「北西の森だけど……」
そんな話をテラークさんにしていると。
「お先ぃっ!!」
横から話を聞いていた冒険者さんが我先にとギルドから飛び出した。
「てめっ、抜け駆けすんなゴラァッ」
続いてテラークさんが別れの言葉もなくギルドから飛び出していく。
「俺も」「おい、行くぞ!」「待ってよ~」
更にさらに、続いて出ていく冒険者たち。
ふむ、なるほど。
「どうやらみんな、俺が森に残した魔物の素材を漁りに行ったみたいだな」
『いいの?』
「ああ。正直、俺は生きていけるだけの金があればいいからな。どっちにしろMPを貯めるために魔物は狩り続けないといけないし」
と、いうわけでだ。
「さぁて、公衆浴場行きますかぁ。それでスッキリしようっと」
『先に服を買いに行きなさいよ?』
「分かってますって」
そうして俺は蛮族スタイルから脱却するため――――――荷物を置いてある宿、服屋、公衆浴場に向かうのだった。
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