Act.50 闇対闇、そして疾風対雷霆
幾重に撒かれる火花は、同質の片刃刀剣から放たれるモノ。剣閃は同等の速度と鋭さ持ちて、闇夜を幾度も煌めく
「……こいつぁ、やべぇな! 素で俺の速度に着いて来るタマが、世界に存在してやがるとは!」
故に狂犬からすれば、純粋な剣術戦闘に於ける互角の戦闘を熟す相手は始めてとなる。
その点を明確に表すのは、両者が得意とする戦闘スタイルである。両者が速度に特化した前線白兵戦職であるため、余計に際立つ結果となっていた。
狂犬に至っては、その速さに技を組み込む帝国特殊部隊最強の〈レンジャー戦闘術〉を有し、速さに於ける禁断の領域である〈忍び〉の域へ達した者だ。
正に
両者が生む速度たるや、純粋な戦闘職から離れる
「……っ!? これは……これがあの、帝国が誇る最強職! かのアカツキロウが誇る、忍者の流れ汲むキルトレイサーの実力! 俺の速度とタメを張るとはっ!」
多くを語らずを貫くはずの、重雷霆の剣士が思わず零す。眼前の忍びと恐れ称された、帝国の誇る諜報部の刺客が見せる善戦に対して。同時に、彼らが守る存在が如何に崇高であるかを思い知ってしまう。
国家が自国防衛要である
雷光と剣閃舞う闇夜で、重雷霆の剣士は心が大きく動かされていた。自分たちが、如何に矮小で浅はかであるかを。この眼前の
愛しき姉を守らんとする彼の思考の天秤が、大きく静かに揺らぎ始めていた。
だが――
「……お前が、お前達が実力者であるのは理解した! けれど俺はまだ動けない! ならば選別だ……少し本気を出してやるからその脳裏へと刻んで行け!」
ギリリと
虚空を薙ぐ片刃の長剣へ電撃を迸らせたと思えば、周囲へ光を吸い込む虚数次元を複数生み出した。
「へっ……ようやっと本領発揮かよ、奴隷商人さんよ!」
それを視界に入れた狂犬は、直感でそこへ違和感を覚えるも警戒を最大に引き上げ、手に余ると悟るや視線を居合わせる家族へと向けた。即ち、彼の持つ戦闘スタイルとは相性の悪い攻撃であるとの合図でもある。
「カカッ! 暫しイイものを見せて貰ったが、流石にアレは手に余ると見た! 手を貸すぞ、テンパロットよ!」
「テトお兄ちゃんが手に余るって、よほどの手練れなの! ボクも助太刀するの!」
狂犬の対応をいち早く悟る家族達。英雄妖精とフワフワ神官が得物を抜き後方に陣取った。布陣から顕となるは、相手が魔導術の何かしらを用いた複合剣術を繰り出すとの行動。
今までお目見えした事のないほど、戦術予測に長けた手練れを前に――
重雷霆の剣士は口角を上げつつ、姉の如き愉悦さえ混じらせ接敵した。
∫∫∫∫∫∫
時は
「うん、普通に襲撃して来たね……あちらの主力な弟さんが。しかも一人ノコノコかと思いきや、テンパロットの純武器戦闘とタメ張るなんて。」
「ホントだね……。ジェシカも常々「あの帝国忍びたるテンパロットは、白兵戦に於いてはアーレス正規騎士団をも上回る手練れ」とか言って、絶賛しまくりだったよ。」
「ジェシカ様に、そこまで言わせるツンツンさんのガチ戦闘に張り合う手練れは、きっとあのブラッド・シェイドのルヴィアスぐらいのものだね。全く……厄介なのに絡まれたものだよ、ウチの残念姉は。」
かち合う刃の高周波から察するに、かなりの速度で打ち合っているのは言わずもがな。詰まる所、速度に秀でたテンパロットのそれへ対応出来るのが、奴隷商人運び屋たるオズ・クルエルトの真価であると言えたのです。
そんな状況下、警戒の中お部屋待機する私へ、ちょっと以外な人物からの心配が漏れ聞こえたのです。
「ミーシャ、このままテンパロットだけを戦わせてて構わないの? 確かにあいつはあなたの護衛だけど、かなり苦戦する相手でしょう?」
「……何があったんだい? モノ黒にしてブレ黒さんは。て言うか君は、呼び名が多すぎて安定しないね。」
「誰も呼んでとは言ってないし!? それはいいから、この状況……あいつ最近無茶してる感じで。」
「気が付いてたのか……君は。まあ男性陣が援護に回ってる分、そこは案ずる事も無いだろうけどね。」
そしてまさかの、テンパロットがチラつかせる心身状況をピンポイントで突いて来る始末。ホントに何があったんだろうねこの子は。
オリアナが口にした点には、実の所私も気付いていたのです。しかしその出処が確かでもある故、敢えてそこに触れない様に心掛けてはいたのですが。
発端はサイザー皇子殿下からの内密な情報から。テンパロットが急にここまでの無理を押す理由は、間違いなく私自身であるとの宣言でした。それもそのはず……私が一気に、アグネスとアーレスにとっての重要処へと飛び級した様な現状です。そこで彼に伸し掛かる負担が、増大したのは言うまでもありません。
自分で言うのも何ですが、今までのテンパロットは見習い賢者のお守り程度。しかし今は、アーレス帝国が見据える未来の部隊主軸にして、アグネス王国伝統の宮廷術師会代表の要人警護。
いつものバカ騒ぎの中でも、端々に見える警戒の度合いが今までを遥かに凌いでいたのは、この身でヒシヒシと感じていたのは事実です。
ただ――
それに気付くのが同僚たるヒュレイカならまだしも、この冒険でようやく家族らしくなってきたオリアナだった点には、流石の私も盛大に疑問が湧いた訳で。
て事で、おもしろそうだからカマをかけてみるとしよう。
「テンパロットに対してそんなに目聡くなった君は、もしかしてあのツンツンさんに、好意でも芽生えたんじゃないだろうね?」
「……っ!!? あ、いや……と、その――」
あれ? この反応は何だい? ちょっと待てよ?
いつもなら怒髪天からのツッコミも辞さないモノで、ブレで、デレなオリアナが……図星を突かれた様な反応に?
「あれ? オリアナさん……その反応は何な感じ?」
「ほほう……これは何やら、怪しい気配がプンプンおすなぁ〜〜。」
「……変わり者さね、アンタは。」
「な、何がどーなってるサリ!? オリアナさんが、サーリャみたいに真っ赤サリっ!」
事ここに至って、我が家族達の畳み掛ける様な問答攻めで、モノ黒さん改め――恋黒さんが確立しそうになったと言う事は……閃いたねっ!
「まさかオリアナは、ついにあのテンパロットへ恋慕の感情が――」
降って湧いた歓喜渦巻く弄りネタで、あろう事か絶賛敵対勢力の襲撃最中である事実が明後日の方へ吹っ飛んだん私達を、想定外の事態が襲う事となったのです。
「って、ミーシャ!? 避けてっ!」
一人その危機を感じ取る、最強の直感娘ことヒュレイカが横っ飛びで、私が状況把握のためとたまたま立っていた窓際を強襲。すると直後――
轟音と共に舞い飛んだ帯電する謎の黒い球体による一撃で、まさかまさかのお宿の窓際もろともが吹き飛んだのです。
「……しゃ……借金がーーーーっ!!?」
それを目にし、絶叫する顔面蒼白の私がそこにいたのでした――
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