第486話 ドワーフの狙い
「無形の財産であれば、ネンラールにも感付かれる可能性は低くなる。実際、俺も情報のいくつかで王家や例の『黒き陽』とも交渉が可能だと思うが」
そこまで口にして、グラスを口に運ぶ。
「待ってください、兄さん。確かに、その考えなら『黒き陽』に依頼で来たことは説明できますが、なぜドワーフはそこまで優勝しなければいけないんですか?それに話が本当なら、価値のある情報を持っている者がいれば同じように候補に挙がると思うのですが」
「アルベール、『黒き陽』が価値を認めている情報とはなんだ?」
「え?」
俺は確かめるようにアルベールに問いかける。
「『黒き陽』は他国の暗殺者集団だ。それが貴族の悪事の情報を欲するか?国の方針についての情報を欲するか?もしくは要人の秘密を欲しがるか?」
「答えは否だろうな」
アルベールの問いかけにカーシィムが答える。
「政治に携わる者なら、その価値を十分に活用できるが、暗殺者だとそうはいかない。なにせ交渉するためにわざわざ何らかの手段で接触しなければいけないというリスクがある。それに、伝説となっている暗殺者組織が、そこら辺の諜報組織に負ける技量だとは到底思えない」
「だろうな。そこまでの実力があり、目的が情報なら、自分たちで調べたほうが手っ取り早いだろう」
裏の界隈では伝説となっている組織にそういう活動で勝てる組織が多くあるとは思えない。
「ということで、付け加えると、暗殺者集団がわざわざ依頼をこなしてまで欲する情報という点。これに当てはまるのは、ドワーフぐらいだろう」
「……なるほど」
こちらの説明を聞くと、アルベールはしきりに納得した表情で大人しくなる。
「ただ、ここで問題ないのが」
「儂らが行ったという、
「その通りだ」
こちらには残念ながら直接的な証拠ない。
「さて、ここまでを説明してた。今度はそちらの説明の番だと思うのだが?」
「ふふ、ダメだよ、横着しては」
「…………」
こちらの言葉にカーシィムは笑顔で答える。
「そこまでは私も納得しよう。だが肝心のなぜドワーフがそこまでして優勝しようとしているのか、そしてなぜ私が知っているのか、の二点が
「さぁな」
「はぁ?」
「え?」
俺の言葉にカーシィムの間抜けな言葉とアルベールの疑問の声が飛んでくる。
「まずその二点だが、こちらからしたらどうでもいいということだ」
「……」
「ですが、ここまで説明したのですから」
「説明しろと?できないこともないが、ここから不確定要素だらけで、確証はない」
重要なのはカーシィムが、自ら事態を把握している事を失言し、そしてそれからドワーフが首謀者だと推測が出来たことだけだ。
「……」
「アルベール、ここから先の話はどこまで言っても推測だけで確証はない。何より、確定しているのに、それより前の不安定な部分を聞きたいのか?」
例えるならコイントスの様な物だ。気軽に指ではじいて出た目に対して、なぜそうなったかを問うてるようなものだ。結局どこまで問い詰めても、偶然と言う言葉で片付けられて、出た結果が変わることは無い。もちろんイカサマなら問い詰められるだろうが、そうでないなら詰めるだけ無駄な話だ。
「強いて言うのなら、カーシィムが今回の全貌を知りえたのは三つ、計画を持ちかけた、もしくは持ちかけられた、そして
「繋いだ?」
前の二つはアルベールも理解するのだが、最後の部分が理解できていないらしい。
「簡単だ、計画の立案が、カーシィムか、ドワーフか、
「ああ」
今回の計画が上手くいけば利を得るのは三勢力なら、このどこかが出したというところだろう。
(そしてもう一つだけ、偶然知りえたという可能性もある。そしてそれを言い訳にできてしまうからな)
偶然知りえた問われてしまえば、三つのすべての関与を否定できる。もちろんこちらに確かめる術はないので水掛け論で終わり不毛なだけだ。
「そして、ドワーフの優勝だが、わからない、が正しいところだな」
「ほぅ、わからないことを認めるのか」
「ああ、確かなのはアジニア皇国への侵攻を邪魔するぐらいだ、そうそう軽い事柄じゃない事だけだな」
だが、実は大体の予想がついている。
「さて、これ以上は何も出てこない。次はそちらの話を聞こう」
「そうは言うがな」
カーシィムに視線を向けながら問うと、カーシィムは果実を口に含み、喉を酒で潤すと、困り顔のまま笑い、口を開く。
「概要はバアルが
正解だと告げているような返答をカーシィムから受け取る。
「こちらの推論に間違いないと言えるな」
「ああ、首謀者はドワーフで間違いない。また侵攻が失敗する理由も合っている」
「言質は取ったからな」
こちらが念を押すと、カーシィムはお好きにどうぞとばかりに肩を竦める。
「さて、ここで経緯について説明しようか?」
「いや、そっちは二、三確認だけして、あとは今後の話をしたい」
「なら、何を確認したい?」
「まず一つ、今回の計画は誰が考えた?」
「誰がか、それは至極簡単、私が考えついたな」
やはりなのか、この計画を考えていたのはカーシィムだったらしい。また、部下の誰かからの発案だったとしても、どちらにせよ関係はなかった。
「では次に、どうやってドワーフとアジニア皇国にコンタクトを取った?」
「そこは言えない」
「……次に『黒き陽』は誰の伝手で使うことになった?」
「それは答えられる。ドワーフの長老の一人がそのコネクションを持っていた」
カーシィムはそのことについては別段考えることなく答える。
「なるほど、最後に、ドワーフが優勝する理由は、なんだ?」
「バアルなら推察はできているだろう?なにせ今朝、自分の有用性を説いたばかりだ」
「…………」
確かに思い返すと、俺もあの時点では失言をしていた。
「わからないと言うが、一応は有力な可能性が導き出せているのだろう?」
「……ドワーフたちの狙いは―――」
俺が答えを口にするとカーシィムは笑い、ドイトリは正解を言い当てられたのか顔をしかめるのだった。
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