第454話 消える線と再びの再会

「……というとお前らのところもか」


 こちらの言葉でリョウマは酒を飲むのを止めて、真剣な視線でこちらを見る。


「ああ、こっちは本戦の参加者全員が襲われたことを掴んでいるが、そっちの情報は?」

「それは初耳だな」


 リョウマは酒瓶をテーブルに置くと、姿勢を正し、会話をする体勢を整える。


「今回の同伴の主な理由はこれか?」

「ああ、こちらとしては事情を把握しておきたくてな」

「……どう思うと言われてもな」

「なら、直接的に聞こう。リョウマ、今回の襲撃が緋炎家そして天日様が絵を描いたと思うか?」

「いや、無いだ」


 こちらの質問をリョウマはばっさりと切り捨てる。


「その理由は?」

「至極簡単、昨夜の襲撃者は中途半端だった。ここからは俺の感覚だけになるが、あいつら、成功しても失敗してもどうでもいいという風に感じた。殺すつもりなら一度目に完全な殺意を持ってやってくるだろう?」


 リョウマの言葉に眉を顰める。


「だから俺は大会における負けた恨み故の仕返しか、もしくは本命の標的がいて、それを隠すための陽動と判断した。そして緋炎家もしくは天日様の暗殺となると」

「中途半端に襲い掛かるのは矛盾が生じるわけだな」


 本来、暗殺は確実に殺すように用意してから行動に動く。つまりは完全に殺す気だと言う事だ。だがリョウマの感覚だけだが、暗殺者からは襲撃が失敗してもいいという意志すら感じられたという。


(となると、リョウマが本命でこちらがとばっちりを受けたという線はなくなる。そしてこの線さえなくなれば、あとはだいぶ絞れる)


 こちらとしてはリョウマが標的での暗殺の線を消しておきたかったため、その目的は果たされた。


「そちらでは、何か掴んでいるのですか?」


 リョウマの背後からシイナが出てくると問いかけてくる。


「残念ながら教えられない」

「では、次の襲撃までビクビクして居ろと?」


 シイナはそう言うが視界の端でリョウマが不機嫌そうな顔をしている。おそらくは誇張とはいえビクビクしていると言われて、侮られていると感じているのだろう。


「いや、襲撃の可能性はかなり低いだろう」

「それはなぜ?」

「まぁ、一言で言えば暗殺を行う者の狙いが読めたからだ」

「その狙いとは?」

「それはごく簡単、神前武闘大会の優勝というありきたりなものだ」


 答えを告げるがシイナは納得し表情を浮かべない。


「私たちは脱落したのだから、問題ないのだと、そうおっしゃりたいのですか」

「そうだ。それで納得できなくても、こちらは情報を一切出す気はない」


 しばらくの間、俺とシイナの視線がぶつかり合う。


「シイナ、問題ねぇよ」


 だが、それに終止符を打ったのは当事者であるリョウマだった。


「緋炎家と天日様の襲撃じゃないとなれば、俺は完全に巻き込まれたと考えるのが、普通だ。そしてその原因は今行われている大会だろう?」

「それは……そうですが」


 シイナもリョウマの言いたいことを理解しているのだろう。リョウマの襲われた原因は本戦に出場したことにあると、そして確証はなくても予想でもほぼ確実と言えるほど確率が高いとも。


「話が早くて助かる」

「だが、俺は護衛を受けるにあたって、その時はキッチリと説明してもらうつもりだ。さすがに事情も知らずに護衛はまっぴらごめんだぞ」


 とどのつまり今は追及しないが、今後説明しなければ護衛を受けないとリョウマは言う。


「ああ、その時は話してやろう」

「ならいい、お~い、俺たちにもそっちの酒を飲ませてくれよ~~―――」


 その後、薄明の時間になるまで、数多くの酒を飲み、この時間を楽しんだ。


















「ふっっふ~バアル~~……うえぇ~~」


 高級レストランでしこたま飲んだ、レオネがまるで宙に浮かんでいるような千鳥足を披露しながら、寄りかかってくる。


「吐くなよ」

「うん、大丈夫……だと、思ぅ」


 さすがに自信がないのか語尾が完全に消えそうだった。


「しかし、本当によろしいのですか、馬車を先に帰してしまって」


 俺達はリョウマとの飲みの帰り、夏の夜という気持ちいい時間のため、馬車ではなく、歩きでホテルへと戻っていた。


「ふぅ、今日は三日月か」


 空を見上げると薄明の中で爛々と煌めく三日月の姿があった。


「うっぷ、まさかもう一軒なんて言い出さないよね」

「さすがにな、クラリスのそれを使えば可能だが」


 ロザミアはレオネのように千鳥足とはいかないが、それなりに不安定さを見せる歩きをしていた。


「それとバアル、気付いているかい?」

「何がだ?」

「……ああ、その様子だと、君も酔っているようだな」

「??」


 ロザミアの言葉に疑問を抱いていると―――


 バリン!!


「バアル様!!」


 丁度、大きな酒場の横を通り過ぎようとすると、窓から大の男がこちらに吹き飛んできた。


「ふん!」


 だが、それを見て、アシラが間に入り、飛んでくる相手の軌道を変えて、大通りの真ん中に落とす。


「おら!!もういっぺん言ってみやがれ!!!」

「……ロックル・・・・


 幼そうな声で大声を張り上げながら酒場から出てきたのは、セレナ、オルドに続く転生者ロックルだった。


「おい、止めんか、ロックル。というか、奴の言葉に一理あるぞ」


 そしてロックルの後ろからやれやれといった表情で出てきたのは、本戦に出場しているドイトリだった。


「げっ!?ん!?」

「ん?おお、バアル様じゃないか」


 ロックルは吹き飛ばしたやつの中間あたりに俺がいるのを見ると、不機嫌な顔になり、すぐさま喜色の表情になる。またドイトリは懐かしいとばかりに腕を振り近づいてくる。


「すまん怪我はなかったか?」

「ないが、何があった?」

「あ~~~、正直言うのもとてつもなく億劫なんじゃが」


 ドイトリは頭が痛いとばかりに額に手を当てる。


「この酒場に踊り子がいるのじゃが――」

(……この時点で読めたのは事態がわかりやすいからだと思いたい)

「わかりやすく言えば、ロックルとさっきの吹き飛んできた奴が踊り子の前で歓声を上げて、そして自分の方がいいと言い合ってだな」


 ドイトリの言葉で、予想があっており、ため息を吐く。


「しかし、ロックルがあの男を吹き飛ばせたということはそれなりに力はあるのか」

「……いや、アレは儂がやった」


 ドイトリはバツの悪い表情を浮かべる。


「まぁ酒場に喧嘩はつきものだが」

「仕方ないんじゃ、あいつロックルを追いかけたはいいものの、ロックルが儂を盾に使い追って、そのおかげで…………儂の大好物の酒と珍味が床に散らばったんじゃ!!」

「ぎゃ!?」


 ドイトリは説明しているうちに怒りが込み上げてきたのか、傍に居るロックルに拳骨をお見舞いする。


「そうか、飲み過ぎには注意を」

「なぁ、綺麗なお姉さん方、もしこの後お暇でしたら、一緒に飲みませんか」


 俺がドイトリに注意しようとしている間に、いつのまにかロックルはクラリスに近づき、そう提案する。


「あら、そう……どうしようかしらねぇ」


 クラリスは面白いことを思いついたとばかりにこちらを見てニタニタと笑う。


「おい、クラリス、さっき、かなり飲んだだろう」

「なら、『浄化』」


 飲み過ぎたことを理由にしようとすると、クラリスが全員に『浄化』を掛けて酔いを醒ます。


「お前な」

「なに、儂からも誘いたい、まぁ、本命はそっちじゃがな」

「ん?俺か」


 クラリスに苦言を言おうとするとドイトリからもそう告げられる。だがどうやら彼の場合、話の矛先はアシラに向いているらしいが。


「ほら、決まりね、じゃあ、案内してもらおうかしら」

「お任せください」


 クラリスは終始、こちらをチラ見しながら酒場に入っていく。


「あのバカ……すまんの、何か用事があるなら、連れ戻すが」

「……いや、いいこちらもちょうどいい・・・・・・と言える」


 こうして俺たちは予定外ではあるが酒場に入ることとなった。

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