第138話 逃がすとと思っているのか?

〔~???視点~〕


 ゼウラストから少し離れた林の上空に二つの影があった。


「いや~おっかないね、あんな雷撃見たことないよ」

「ああ、私も話でしか聞いたことしかない」


 私たちの依頼は二人を館まで運ぶだけ、そのあとは定刻まで待機し、二人が戻ってきたらそのまま戻る、来なかったら私たち二人で戻ることになっている。


「にしても、人ひとり攫うことができないなんて無能だね~」

「本当にな」

「まぁ行きがけの駄賃てことだったし、成功しても失敗してもどっちでもいいしね」

「この後は予定通り東に?」

「そう、いまいい感じに稼げそうなんだよ」


 私は月が見えるように地に背を向けながら空を飛ぶ。


「はぁ~今日は雲が邪魔だね~」


 今夜は綺麗な満月。だが残念なことに雲もそれなりに浮かんでいる。雲は月を完全には覆い隠さず、月光が地上に降り注いでいる。


「ふぁぁ~~~、あれ?」

「どうした?」

「う~ん、いや見間違いだよね?」


 遠くに見える雲が光った気がした。


 バチバチバチ、ブジュン


「えぇえ!?」


 一つの雲が光ったと思ったら、雷が近くの雲に当たる。


「あんな現象ってあるんだ……」


 普通は雷は地上に落ちるもので雲から雲に向かうはずがない。


 バチバチバチ、ブジュン

 バチバチバチ、ブジュン

 バチバチバチ、ブジュン

 バチバチバチ、ブジュン


「ちょっちょっちょっ!?」


 何度も同じ現象が起こり、雲から雲に雷が移動していく。


 それも私たちのほうに。


「やばいやばい!」


 確実にアレは人為的に起こされているものだ、ならだれを狙って?当然私たちということになる。


 だが雷の速さに勝てることもなく、最終的には頭上にある雲までやってきた。


「何が起きてるの!?」

「落ち着け、とりあえず高度を落とせ」


 クロネは冷静に眼前の森に入れと言うが、当然そんな暇なく。








 バリバチバチ、ブジュン!


「侵入しておいて、逃げられると思っているのか?」






 光ったと思ったら、突然目の前から声が聞こえる。


「はっ!?な!?ぐえっ!」


 ガシッ


 戸惑っていると、首と左手首をつかまれる。


 ビリビリビリ


 そしてつかんだ手からは電流が流れてきており、しびれてくる。


(やばっ!?)


 この状態で飛ぶことを維持できるわけもなく、私とクロネにかけている浮遊が解けていき、森に落下していく。


 何重にも枝を突き抜けて地面に衝突する。


「がはっ」


 事前に高度を落としておいたことと浮遊が完全に解けてないおかげでそこまでダメージはない。けど、いまだにしびれが残っている。


「さて、素直に吐いてくれるなら俺も何もせずに済むが?」


 目の前には無傷の男がいる。地面に衝突する際に手を放し、先ほどみたいに雷になって移動したからか、相手に傷はついていない。


「ふつう、ここまで追ってくる?」


 警戒しながら立ち上がる。


「ここで逃したらメンツがつぶれるだろう」

「あはは、貴族だね~」


 話しているうちにしびれが取れてきた。


「じゃあ、そのメンツを完全に潰してあげるよ」


 気づかれないように掌を彼のほうにむける。


「『上がれ』!」

「おっ?」


 少年はそのまま宙に上がっていく。


「んで、落ちろ」


 十分な高さになったら解除する。あの高さから落とされるのであればほんの少しでもダメージはあるはずだ。


「こんなもんか『飛雷身』」


 何かをつぶやいたと思ったら、一瞬で光りその場から姿を消していた。


「さて、これ以外に何をしてくれるのかな?」

「!?」


 斜め後ろから聞こえた声に驚き、振り向く。


「なんで!?」


 すぐさま距離を取る。相手は余裕なのか動いていない。


「さぁなんでだろうな?」

「っその余裕がいつまで続くかな!『封魔結界』」


 一切の魔法を禁じる、結界を生み出す。


「どう!これで雷移動できないでしょ!」


 さきほどの消える魔法、以前一瞬で移動したことから時空魔法の一種と予想し、結界を敷く。


「そして私はこの結界内でもさっきのことが使えるのよ!!」


 再び、手を少年に向けて持ち上げる。


「はぁ~『飛雷身』」

「なんで!?」


 上がっている最中に再び彼は消える。そして同時に頭の中では物事が理解できずに混乱していた。なにせ魔法を封じる空間で、明らかに魔法の動きをして見せたのだ。


 何度も混乱していると今度は真横から首に手を添えてくる。


「もう終わりか?」

「っ!?」


 一応護身用につけていた、短剣を抜き、切りかかる。


「どうやらその様子だと『所有者』の段階か」

「何を言っているの?」


 短剣を受け止められるとそのまま、組み倒される。


「うぐっ」


 背中を足で押さえつけられて、片腕を拘束されている。


「お前が使っているのは魔具だろう?」

「だから何の話?」

「それはお前がっと」


 何かが降られる音がすると、腕の拘束が解かれて、背中においてある足の感覚が消える。


「すまん遅くなった」

「クロネ!」


 どうやらクロネが攻撃したことにより、少年が離れたようだ。


「それにしてもここまでやられるとはな………やれるか?」

「ええ、どうやら逃げるのも無理みたいだしね」


 クロネが私の前に出て、剣を構える。


「二対一か、そっちの実力はわからないが、問題ないだろう」


 そういうと彼はいつの間にか手の平には何やら古びたハルバートを握っていた。


「じゃあ行くぞ」


 少年は律義に告げてくれる。普通なら相手に出方を教えるなんてことはしない。なぜならタイミングを教える事で不利になるからだ。だがそれをするということは……


「はぁ!」


 二人がぶつかり合うとそのまま連撃の応酬になる。


 ギィン!


 だが予想と反して徐々にクロネが押されていく。


「遅いし、軽い、そこまで強くもないんだな」

「っ」


 クロネも言い返したいみたいだが、できない。そして彼は先ほどの言葉を出すほどの実力を確かに備えていた。


 少年の一撃は二つの剣でないと防ぐことはできなく、さらにはクロネのスピードが負けていることからクロネの攻撃は容易に避けられ、避けられないタイミングでカウンターを入れられる。完全にステータスで後れを取っている。


「私を忘れないでよね」


 私も周囲にある岩や倒木を持ち上げて少年にぶつけようとする。


「いい連携だな」

「それはありがとう!」


 ぶつけはできなかったが体勢が崩れた。


 クロネが返答と同時に渾身の一撃を入れる。


「っふぅ!」


 そのまま押し込めると思った瞬間に斬り結んでいる二人を中心に大規模な放電が起こる。


 ドサッ


「クロネ!?」

「あとはお前だけだ」


 彼は何事もなかったかのようにハルバートを肩に担ぎ近寄ってくる。足元にはクロネが倒れており、首など簡単に切り飛ばすことができてしまう。


「……………降参です、取引しませんか?」


 両腕を上げて戦意がないことを伝える。


「なんだ続けないのか?」

「ええ、クロネが倒されたので、私に勝ち目はないです」


 既にクロネが来る前はボコボコにされてた、つまりは私一人になった時点で勝ち目はなくなる。こうなると何とかいい条件を出して見逃してもらうしかない。


「それで、取引ってのは?」

「今回の誘拐に関してすべて話します、ほかにも持っているお金をすべて渡します、だから私とクロネを見逃して。ほかにもあなたの依頼を一つ無料で聞くから」

「ほぅ」


 相手は乗り気になった。


「どう見逃してくれる?」

「そうだな―――――」











〔~バアル視点~〕


 目の前で両手を上げる人物に頭の後ろで手を組ませて膝をつかせる。この耐性ならば相手が指一つ動かす前に首を刎ねることができる。


「まず、私たちを雇ったのは宮廷貴族の一人よ」

「へぇ~」


 これは思った以上にでかい情報になりそうだ。


「ターゲットはネロという人物」

「理由は?」

「簡単、ネロは今後の王位継承位争いに加わるかもしれないから」

「なに?」


 ネロがか?


「ネロの詳しい情報は?」

「グロウス王国国王がずっとかくまっていたって情報しか持ってないわ」


 陛下が匿っていた?


「ちなみに私たちに依頼されたのは誘拐犯二人を屋敷に忍び込ませることだけ、襲撃は料金に入っていないわ」

「なるほどな…………お前は今の依頼主を裏切るつもりはあるか?」

「………ただで使われるつもりはないのだけど?」


 つまりは裏切りに足る何かがあればいいということだ。そしてこういった時の定石はお金だ。


 俺は笑みを浮かべながら金額を告げる。


「いいわ、契約成立ね」


 俺とフィアナは契約を結ぶ。向こうからしたら命が助かる上に金がもらえる。悪い話ではないだ。


「それでどう依頼主を裏切ればいいの?」

「簡単だ」


 それから一度屋敷に戻って準備をする。












 ゼブルス領の端の森にある、とある廃墟。


「遅い!!あやつらはなにをしておる」

「落ち着きください、まだ予想の時間内です、もう少しだけ待ちましょう」


 文句を言っているのは悪趣味なほど宝石を身に着けている太った男と逆にやせ細った老年の執事だ。


 この廃墟の周囲には村などの気配はなく、誰にも気づかれない場所だ。そんな場所で明らかに場違いな二人とその護衛が十名ほど、誰がどう見ても良からぬ現場だろう。


「はぁ~い、お待たせ」


 廃墟に響いた声の主は雇った運び屋だ。わきにはシーツで包まれた人型の物を持っている。


「遅い!何をやっておる」

「いや~ごめんね、以外にも反撃がひど」

「おい、二人はどうした」


 理由なんて興味がないという風に太った男は言葉を遮る。


「……最後まで聞きなよ、あの二人は誘拐の際に返り討ちにあって死んだ」

「なに!?」

「待って焦らないで、最後にはきちんと荷物はもらったから」


 証拠に脇に抱えている袋が動き出す。


「そうか!よくやった褒美を取らす!」


 そういって執事がわきに抱えているもの・・を貰おうとするのだが。


「待って、そっちが先だよ」

「……おい」


 脇にいた護衛の一人が革袋を持ってくる。


「クロネ、確認してくれる」

「ああ」


 もう一人の運び屋が革袋の中を確認する。


「問題ない、すべて入っている」

「うん、じゃああとはよろしく」


 そういってわきに抱えている袋を取る。


「むぐ!?むぐぐ!?」


 しかし、現れた存在を見て、誰もが目を白黒させる。


「おい!?誰だこやつは?」

「だから渡された人物だよ、ちがうの?」

「違う、我々が運ぶように命令したのはアン――」


 デブが何か言おうとすると突如様々な部分から強風が吹き荒れる。


「!?」

「今晩は皆さん、よくゼブルス家にケンカを売れたな」


 強風により強制的に開かれた窓から、金髪の少年と黒髪の少女が現れる。


「おい、殺せ」

「ですが」

「これを見られたらどうなるかわかっているのか?」


 この場にいる全員が剣を抜く。


「死ね」


 まず剣が向かった先は手足を縛られて布でしゃべられなくなっているセレナだ。


「みゅぐーーー!?」

「『風辻』」


 だが剣が振り下ろされる前にリンが真っ二つに切ったことにより阻止される。


 それと同時にセレナの拘束を解き、自由にさせる。


「り゛ぃぃぃぃん゛さ゛ぁ゛んーーーーーーーーーーーー」


 号泣しながらリンに抱き着くセレナ。


「さてと、この場にいる全員を捕らえたい、協力してもらうぞ」

「あいあいさ~」


 そこからは蹂躙だった、痺れて動けない者もいれば、天井に埋め込まれた者もいて、果ては四肢のどれかが欠損する人物すらもいた。


 それからほどなくするとこの場で制圧は終了する。










「では渡したぞ」

「あの……私を便利に使うのはやめてもらっていいですか?」


 数日後、あの場の全員を昏倒させてゼウラストに帰ってくると、檻にぶち込む。その後は急いでルナに連絡を取り、出張してもらった。


 ちなみに運搬はあの二人にやらせた。


「それにしてもなんでこんなことに?」

「ネロを誘拐しようとしていた奴らを返り討ちにしただけだよ、そうグラスに伝えてくれ」

「!?了解です」


 ルナは重大さがわかったのか拘束されている全員を急いで馬車に載せて出発する。

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