第108話 生誕祭の由来
4日後~
ノストニアの首都である神包都エルカフィエアには中心に神樹が
「すごいわ!!桜みたい!!!」
「「すごい!!」」
セレナとアルベールとシルヴァも窓の外を見て興奮している。もちろん彼らだけではないカルス達も護衛で着いてきた騎士たちもだ。
神樹は桃色の花を満開咲かせており、前世の桜を思い出させる。
さらには神樹だけではなくエルカフィアにある木々のすべてが同じく桃色の花を咲かせている。
「どうすごいでしょ!!!」
クラリスが隣で胸を張っている。
「綺麗だな」
俺の言葉に気をよくしたのか饒舌になり、クラリスが説明してくれる。
神樹はこの時期になると膨大な魔力を生み出し、花を咲かせて開花する。そして開花すると同時に魔力を放出して、神樹を中心に魔力が届く範囲の木々総てをあのような桃色の花を咲かすようになるのだと。
「すごいな」
「ですね」
俺の意見にリンも同意してくれる。
時折風が吹くと、地面に落ちた花びらが舞い上がり綺麗な光景を見せてくれる。
「ほぉ~~~~」
「はぁ~~~~」
父上と母上もその光景をじっくりと眺めている。
そのまま馬車は進み、以前来たことがあるアルムの別荘にたどり着いた。
「祭りが終わるまではこの屋敷を使ってください」
案内してくれたエルフの一人が全員を引き連れて中に入っていく。
「部屋割りだけど、どうする?全員一人部屋とかにできるわよ?」
「そうだな………」
考えた末に、父上+母上+弟妹、セレナ+リン+ウル、カルス達、俺が一人部屋、護衛は男女に分かれて二部屋使う。
亜空庫に入れていた荷物をそれぞれに渡し、ゆっくりとする。
コンコンコン
「ちょっといいかしら」
「いいぞ」
最初に入ってきたのはクラリスとあの黒い子ライオンだ。
『ひさしぶり!!』
子ライオンが胸に飛び込んでくる。
「お、アグラの子供か」
『ネアグラクだよ!』
(なんかアグラに似た名前だな)
そして飛び乗ってきたネアを掴み上げる。
「大きくなったな」
『うん!』
以前はチワワサイズだったのだが今は柴犬サイズになっている。
「それでクラリスはどうしたんだ?」
「あっそうね、明日には父様に面会してもらう予定なんだけど、大丈夫かしら?」
「ずいぶんと急だな」
「祭りが始まったら父様たちはとても忙しくなるわ、だからそれまでに面会してもらいたいのよ」
それから父上にも無事に許可を取ることができ、明日の予定は決まった。
翌日、俺と父上は城まで案内される。
「他のみんなは大丈夫かな?」
「おそらく大丈夫でしょう」
女性陣はクラリスに連れられて前夜祭に行っている。護衛もかなりの数がおり、さらには全員女性と配慮されている。
「では、こちらへ」
城の中をエルフの先導で進むと玉座の間に案内される。
「では中へ」
中に入ると自然と調和し、木漏れ日が玉座を照らしている空間に出る。
(何度見てもきれいだな)
豪華絢爛ではなく安穏とした空間、それでいて質素と言うことはなく品良さを伺いさせる。
「私はグロウス王国ゼブルス公爵家当主リチャード・セラ・ゼブルスです。この度招待していただき感謝を申し上げます」
父上は玉座の前で跪き口上を述べる。
「顔を上げよ」
俺達は顔を上げる。
「よくぞ来られた
玉座に座っているのはアルムによく似た顔の青年だ。
エルフというのは外見で年齢を察しにくい、なにせアルムの少し上の兄と言われても違和感がないほどだ。
「我はルクレ・ルヴァムス・ノストニア、アルムの父にして現森王だ、こちらこそ子供たちを救出してくれたことを感謝する」
「いえ、感謝は必要ありません、元は同じ
「それでも子供を救ってくれたことに変わりはない、礼を言う」
こうして誘拐の件は終わった。
その後、お互いの交易町の事に対しての意見や、文化の褒め称え合い、などで話を続ける。もちろんそれとなくお互いの事を探るようにだ。あちらもこちらの事を知りたいし、こちらもあちらの事を知りたい。ただ話の際に黙秘や急な話題の変更は相手を不快にさせるだけなので、できない。ましてや嘘など完全に信用を失う可能性につながるため絶対にしてはいけない部類。もちろん絶対に話せない部分に関してはお互いそれらしい理由を付けて話題を避けている。
「では、生誕祭が終わるまでゆっくり我が国で観光でもされよ」
「ありがとうございます」
父上と森王が様々なことを話し合いを終えれば、この場は終了だ。
会談を終えれば、母上たちにもとに案内されるべく、案内人のエルフによって城の出口へと向かっている。
(今回は父上との顔合わせがメインみたいだからな)
会談の最中にさきほどやり取りは当たり障りのない話題しかなかった。もちろん父上もいろいろなことを探っていたが、おそらく交流が本格的に始まればすぐにでも手に入るような情報しか引き出せなかった。
これは父上の話術が拙いと言うよりも、相手がエルフと言うことでどこに地雷が埋まっているかわからない状態なので慎重にならざるを得なかった結果だ。
「やぁバアル少し時間いいかな?」
父上の会話から得られた情報を整理していると通路の反対側からアルムがやってくる。
父上に視線を向けると頷く。
「では父上、私は遅れて合流します」
「わかった」
予定ではこの後母上の方に合流して祭りを楽しむのだが、俺は遅れて合流することになった。
「それで話ってなんだ?」
以前同様アルムの私室に移動する。
「例の誘拐の件さ、あれはまだ終わってないだろう?」
さすがアルム、抜けているようで抜けていない。
「どこでそう思った?」
「これだろ」
アルムは自身の首を指さす。
「エルフの魔力すらも封じる首輪、子供たちすべてにあれが嵌められていた」
アルムの言う通りだ。
あの数の首輪を揃えるとなるとダンジョンで手に入れることは困難、だとするとアレはイドラ商会同様量産できる道具ということになる。しかも製作にはかなりの魔法技術が必要になる。
だがここで言いたいのが。
「僕のほうでも調べたけど、関与されたと考えるネンラールにあんな高度な魔法技術があるとは思えないんだよね」
アルムの言葉にすべてが詰まっている。
つまりネンラール自体にあの首輪を作ることはまず無理ということだ。となればネンラールにどこかの国の技術を持った組織が潜入、そして暗躍していたことになる。たとえ仮にネンラールが自ら物を手に入れて使っていたとしても、ノストニアからしたらネンラールをつぶしただけでは事態が終わらないのは変わりがない。なにせ物さえそろえばどの国でも誘拐が可能になってしまうのだから。
「どこだと思う?」
「さぁな、俺はグロウス王国の魔法式しか知らないから特定はできないよ」
「だよね~、僕も知らない式だったし」
魔法はそれぞれの国で体系がある程度はっきりしている、なのでそれで特定できなくはないのだが………
(ほかの国の魔法式を使って偽装することもできるからな)
完全な証拠とは言えない。
「対策はしたのか?」
「もちろんだよ、一定間隔で監視用の大樹を作って、そこで監視をしてもらっているよ」
既に対策は施しているとのこと。というよりもそういった対策しか今は取りようがない。
次にどこが誘拐を行いそうかわからない中、無作為に動くは危険。しかもエルフは数が少ないという欠点がある。となればとる策は誘拐に強固な対抗策を考え、実行すること。そのほかに実行犯を捕まえて芋ずる式に殲滅していくことだ。
「それと魔道具に関してなんか騒ぎがあったみたいだね」
「……まぁな」
交易町の不手際に関しては報せを当然ながらアルムは受けている。
「返金だけなのかな?」
いい笑顔でアルムは訪ねてくる。
これは暗に『迷惑料に何をしてくれのかな?』と言っているのだ。
「他に何が欲しい?」
「そっちの国の情勢を教えて」
「また急だな」
「仕方ないじゃん、なんかそっちの国の使者がやたらに僕を取り込もうと動こうとしているんだよ」
心底嫌そうに言うアルム。
エルドとイグニアの使者が詰め寄る姿が目に浮かぶ。
「わかった、俺としてもこっちの問題をそっちに持ち込むつもりはない」
アルムに教えていい部分を教える。グロウス王国で第一王子と第二王子が争っていること、そしてその影響がノストニアに来そうだということ。そして俺が一応ではあるが釘をさしておいたこともだ。
「だから下手な動きはないとは思うんだがな………」
正直保証はできない。
「そっか、ある程度内容が知れただけでも良しとしよう」
アルムとしてはグロウス王家の継承位争いは無視することにしたようだ。
「さて話は終わりか?」
「本当ならもっと詳しく聞きたいところなんだけど、時間もなさそうだから今日はここまででいいかな」
「また時間がある時に話してもらうとするよ」
俺は退室し、エルフの一人に連れられて城を出る。
一度宿に戻ると、ちょうど戻ってきたクラリス達がいたので、そちらに合流した。
合流した後は全員で祭りを見回るのだが……
「祭りというからどんなかと思ったが………」
目の前で敷き布を広げて様々なエルフが何かを売っているだけだった。
「仕方ないでしょ、今日は前夜祭、つまりは祭り本番じゃないのよ」
本格的な祭りは明日以降になるという。そして今回はそのための下準備が多いという。
(しかし売っているのはほとんどが民芸品や布、矢と弓)
どうみての大規模なフリーマーケットにしか見えない。
「ちなみに明日はどんな屋台が出るんだ?」
「ん~、まぁこれは明日になってみなければわからないわね」
そういって意味深な笑みを浮かべるクラリス。
「…………よし…………これはチャンスよ」
視界の隅でセレナが何かをぶつぶつとつぶやいている。
(あいつ、何か知っているな)
本来なら今すぐしゃべらせるのだが、様々な目があるため、下手な行動は取れない。
「じゃあ何を目的にこの前夜祭は行っている?」
「あれよ」
クラリスは一つの店を指さす。
「ここは?」
その店には多くの水晶のようなものが売られている。
(アクセサリー?にしては、そのままだな)
指輪などに加工していない水晶を売る屋台などではないはずだが。
「ここは『精霊石』が売られているところよ」
「!?ほんとう!?」
近くで聞いていたセレナが俊敏な動きでクラリスに詰め寄る。
「どうした急に?」
「だって精霊石よ!精霊と契約しやすくなるで激レアアイテムじゃない」
「あら、よく知っているわね」
クラリスもセレナの知識にはびっくりしている。
「セレナちゃんの言う通り、精霊石は精霊と契約を補助してくれるものよ」
「すまん、話が見えない」
アイテムの使い道は理解した、だが祭りと何が関係しているのだろうか?
「祭りの名前は?」
「生誕祭」
「じゃあ何が生誕するの?」
ん?
「新しい王じゃないのか?」
「はずれ」
そしてクラリスは楽しそうに笑いながら答えを教えてくれる。
「正解は精霊よ、この時期になると神樹が膨大な魔力を放つのは教えたわね?」
「ああ…………つまりこの生誕祭はアルムの即位がメインではなく、精霊の生誕がメインなのか?」
「そのとおり、でも王が代わるのはこの祭りの時だからそっちの意味がないわけではないわ」
説明が終わると俺たちも屋台を見てみる。
「おや、クラリス様、どうされましたか?」
「実は
「ほぅ、お客人は祭りが終わるまで滞在するのですかな?」
「そのつもりだ」
「では精霊石をひとついかがですかな、もしかしたら精霊と契約できるかもしれませんよ」
みんなに視線を送ると、両親はそれぞれアルベールとシルヴァと手を繋ぎ、桜に見とれており、リンは護衛として周囲を警戒、セレナはぜひお願いしますといった視線を向けてきており、カルスはきれいなエルフのお姉さんに見とれている、ノエルはセレナ同様精霊石に惹かれて、カリンは光物に興味がないようで反対側にある屋台に視線を向けている。
護衛に関してはあらかじめ割り振られた護衛対象の周りを固めている。
「とりあえずどんなものがあるか見せてくれ」
「わかりました」
店主は最低ランクから最上級の精霊石を並べて見せてくれる。
「こちらの『無の精霊石』が最低ランクなっており、次に属性の精霊石、その次に―――」
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