第104話 ノストニアからの招待状

「ではこれにて」


 ソフィアは書類を持ち、帰っていった。


「まさか、か」


 ソフィアの正体………平民なのに特待生クラスに所属しているからある程度の家の出だと予想していたのだが。


(想像をはるかに超えた存在だったな)


 これが敵にしていたら厄介だが、今は味方、何も問題ない。


「戻りました」

「ました~」


 思わぬ手札が手に入ったことに笑いそうになっていると、リンとセレナが帰って来る。


「?誰かいましたか?」

「ああ、ソフィアが訪ねてきた」

「へぇ~あの子が、なんで?」


 二人とも面識があるのだが、それゆえになぜ来たのか不思議に思っている。


「説明するとだな―――」


 あの四人が貴族たちに言い寄られ、拒否し、嫌がらせされていることを教える。


「じゃあ、安定のルートを通ったんだ」

「……………」


 その言葉を聞き、無言でセレナの頬を引っ張る。


「いひゃい!いひゃい!」

「だからなぜ先に言わない?」

「こりはびゅんきせんちゃ(分岐選択)だからよひょう(予想)できないのひょ」


 選択によって訪れる場面が変わるので確定ではないと言いたいらしい。


「仕方ない、か。じゃあそのゲームとやらでこの路線の他のどんなのがあった?」

「えっと、貴族と真っ向から戦うルートと王族に助けを求めるルート、あとは国から離れて旅人になるルートね」

「俺に助けを求めてくるルートは普通なのか?」

「いえ、とてつもなく難しい条件だったわよ」

「ではこの先は?」


 普通に何かしらのイベントが侵攻したのならこの席で何かしらの大きな動きがあると思っていたのだが。


「何もないわよ、バアル様のおかげで二年生になるまでの間に鍛えることができるようになるだけ?」

「……それは物語的には他の選択がいいのでは?」


 物語からしたらイベントがある方が色々と旨いと思うが。


「ないわね、この時期はすべて労力と報酬が見合ってないイベントばっかりなの、しかもイベントでは次につながるキーイベントもないし、この時期はクエストとかで鍛えている方が全然よかったのよ」

「…………イベントというのは分からんが辿れる運命の内、これは何もしない期間と言うことか?」

「そうです」


 それなら問題ないか。


「ちなみにだが俺が関わりそうなイベントとやらはあるのか?」

「……………ないと思うのだけど」


 セレナが言いよどむ。


「本来ならノストニアにバアル様は出ないはずだから、絶対って言えないの」


 やはりすでにある程度既定路線は外れているようだ。


(となると、知っている程度でとどめている方がいいな)


 セレナの言葉は頭に掠めておくぐらいでいいだろう。


「とりあえず飯にしよう」

「そうですね」

「あっ、バアル様は手伝わなくて大丈夫です」


 料理の間、俺はまた書類を片付けることになった。








 借家で何日も過ごしていると、ようやく帰る日がやってきた。


「なぁバアル、この顔を見て申し訳ないとか思わない?」


 ゼブルス領に戻る馬車で父上が話しかけてくる。


 父上の顔は少しやつれていた。


「ないです、他家の交渉は当主である父上の仕事ですから。それにそもそも手伝うとしても補助する程度ですよね?なのに父上はほとんど俺に丸投げして補助に徹しようとしますよね?「それは経験をつませようと」経験を積ませようと言ってますが、それならまずは父上が見本になるべきですよね?それに本来俺は当主のような決定権はないんですよ。ふつうは傍にいてどのようなことを行うかを見せるだけのはず、なのに最近は父上よりも話が早く進むからと文官が父上の案件も俺に回してくるようになっているのですが知っていますか?「そ、そうなの!?」そうです、本来なら父上と協議して物事を進めるところをまずは俺に助言を求めて、ある程度案が固まったら父上に持って行くようになっています。その案件も父上に戻してもいいのですか?「か、勘弁してくれ」ではこれくらいはこなしてください、俺は俺でいろいろな書類仕事をしているんです、本来なら勉強や稽古、イドラ商会に時間を費やしたいのに、だいたい俺はまだ13歳ですよ本来なら――――――――――」


 それから日が暮れるまで父上が反論できないように言う。


 トントントン


 馬車の扉が叩かれたので話を追える。


「どうした?」

「宿場町に到着しましたので宿への移動をお願いします」

「わかった!!!!」


 父上は助かったという顔をして馬車を軽やかに降りる。


(はぁ~反省してないな)


 俺も馬車から下りて父上の後をついて行く。










(ふつう逆じゃないかな…………)


 馬車の中での親子のやり取りと宿に入る光景を見てそう思う騎士の一人だった。











 王都でのパーティーも終わりいつも通りの日常を過ごしていると。


「招待状?」


 学園が始まる2か月前、突如として王家から手紙が届いた。


「はい、王家経由でバアル・セラ・ゼブルス様に送られてきた物です」


 そう言って手紙を開く。


(……アルムか)


 内容は王座交代する際に祭りが行われるのでそれの招待というものだ。


(にしても)


 そんな連絡は来ていない。


 連絡がないことを少し胡散臭く感じるが、同時に俺を驚かそうとしているアルムの顔が脳裏に浮かんでくる。


(あいつのことだから何か企んでいるのだろう)


 もちろん悪い企みではなくいい意味でなにかを企んでいると考える。


「では私たちはどう動けばいい?」

「はい、これより7日後に一度王宮にお越しください」

「了解した」


 要件が終われば王家の使いは帰っていく。








 王家から召集を受けて準備を進めのだが。


「さて、だれを連れて行くか………」


 当然ながら護衛を選定しなければいけない。大勢を連れて行ければ何も問題もないのだが、護衛の数は相手をどれだけ信用しているかを表すものでもあるため、人数を絞る必要があった。


 まずは護衛としてリンは確定している。


 もう一人候補としてラインハルトがいたのだが、残念ながら長期の休暇を与えているため連れていくことはできない。


 セレナは動けるが、下手に知識を持っているがゆえに連れて行きにくい。


 カルス、ノエル、カリンは微妙な線だ、連れて行きたいが今のところ戦力としてはカウントできない、できても小間使いとしてだ。


(手駒が少ないな)


 もちろん、父上に許可を取ればもっと動員できる数は増えるのだが、下手に人員を使い威圧させてしまうと考えると、ほとんど使えない。それに完全に信用できる騎士ともなればその数はぐんと減る。


 自室で頭を悩ましても仕方ないので屋敷内を散歩する。


『………またどこかにいくのか?』


 庭を通りがかり考え事をしていると声が聞こえてくる。


「ウルか」


 現れたのは草むらに身を隠しているウルだった。ただその白い躯体では緑の中に体を隠すことなどできず、むしろ目立たせていた。


『次どこか行くなら同行させてくれ』

「どうしてだ?」

『ここに居たら体が鈍りそうだ』


 確かに森にいたころとは違い、屋敷内ではほとんど動くこともないだろうからウルからしたら退屈で仕方がないのだろう。


「(まぁ森だし問題はないとは思うが)連れて行く代わりに大人しくできるか」

『よほどのことがない限り、牙は抜かぬ』

「…………」

『わかった、お主かリンの許可がない限り戦わないと誓う』


 ということで本狼たっての頼みで、ウルを連れて行くことは決定した。


「で、本当は何で行きたいんだ?」

『…………………貴様の弟と妹が我に近づくと引っ付いてくるのだ』


 ウルはアルベールとシルヴァに見つかると、引っ付かれる。さながら磁石に見つかった鉄のようにだ。


 それが相当嫌なのだろう。


「………なぁ」

『なんだ?』


 俺はウルに誰をノストニアに連れて行くのか聞いてみる。


『全員を連れて行けばいいのではないか?』

「全員か…………それでいいか」


 別に今回は何かに対処とかは無い。それならウルの言う通り全員連れて観光にでも行ったと思えばいいと考え直す。


「出発は7日後だ、それまでは二人が来たときは構ってやってくれ」

『…………逃げてもいいか』

「好きにしろ」







 準備が着々と進む中、ノストニアの事情も確認しながら進むため、アルムに通話をする。


「ということで家族と部下の計10名、もしかしたら追加であと数名がそっちに行くから」

『わかった、今回の祭りは豪勢にするつもりだから存分に楽しんで行ってよ』

「楽しみにしているさ」


 アルムに連絡をするとあっさりと招待してくれたことを認めてくれた。


「それにしても俺を呼んでもよかったのか?」


 人族ヒューマンとの交流を始めたばかりだ、行事などで俺を呼ぶのにはまだまだ年月がかかると思っていたが。


『問題ないよ。それとだけどローグはもう交易町にいるのかな?』

「わからない、要請はしたが今どこにいるのかは俺は確認してない」

『要請してくれたのなら問題ないよ、ただできるだけ早くお願い』


 アルムの口ぶりだと、よほどルリィがしつこいのだろう。


「それと武器の持ち込みはできるのか?」

『もちろん、ただ王宮では武器は預かることになるよ。ああ、君は【紋様収納】で意味がないけどね』

「それはお前もだろう」


 俺とアルムは【紋様収納】で武器を隠すことができる。


『君は敵対するのか?』

「するつもりはない」

『僕もさ』


 ノストニアが全面戦争になればおそらく負けるのはグロウス王国。だから俺は敵対する道は取らないつもりだ。


「ではノストニアの祭り、楽しみにしている」

『期待しててくれ』












 予定の七日後に王都にやってくると、早速父上は俺を連れて王宮に訪れていた。すぐさま王座の場所に通されると俺と父上は陛下の前で跪く。


「では、リチャード・セラ・ゼブルスよ今回の大使に任命する」

「はは!承りました!」


 仰々しく言っているが、俺たちはちょっとした旅行気分だった。


「宰相」

「はい、ゼブルス卿、今回お主に頼みたいのはノストニアがどんな国か確認してもらいたいのだ」


 陛下が声を掛けると傍に控えていた宰相が内容を説明してくれる。


「というと」


 父上はどの部分を知りたいのか宰相に問う。


「うむ、具体的に知りたいのは三つ。一つはノストニアの勢力圏、二つ目はおおよその戦力、三つめは不足しそうな物資をお願いしたい」


 宰相が出した最初の二つは国家の安全のため必要な物、そして最後の内容は交易でどれが売れそうか調べてこいと言うものだ。


「承りました、このリチャード、陛下のご期待に添えるよう全力を尽くします」


 こうして陛下との面談はあっさりと終了した。

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