第102話 王族入場
しばらくすると扉の方が騒がしくなる。
「どうやらきたようだな」
このざわめきには心当たりがあるため、俺はこの場を解散させて父上の元に向かう。
「父上」
「ああ、来たようだね」
俺が父上の元に行ったようにほかの子弟も当主の元に戻る。
「何が始まるのですか?」
「簡単に言うと陛下がこの場にお越しになる」
近くでは、今回が初めての子供が父親に訊ねていた。
「さて準備するとしようか」
そう言うと母上を呼びに行った父上。
「さて、リン」
「わかっています」
俺達も移動する。
「陛下のおなりです!!!」
扉の前から王族専用の座席までの道に空間ができる。
「なんか面白い配置ですね」
リンがそう思うのもおかしくないだろう。
なにせ扉の前の空間にそれぞれの公爵家の当主が並んでいて、ほかの貴族は扉から王座に向けての道に沿うように待機している。
「まぁ色々あるんだよ」
そうして扉が開くと豪華な王冠を被り手には豪華な王笏を手に持った、アーサー・セラ=ルク・グロウス陛下が入場してくる。
その後ろに二人の貴婦人が入ってくる。
「バアル様、あの方々は?」
「アレはエルドの母親であるエリナ・セラ・グロウス第二王妃とイグニアの母上であるアリシア・セラ・グロウス第三王妃だ」
陛下の左右斜め後ろに二人がおり、さらにそれぞれの後ろにイグニアとユリアのペアとエルドと緑髪の少女のペアが入ってくる。
(イグニアとユリアは婚約者だから何らおかしくない、問題はエルドの方だな)
貴族のパーティーは一定年齢以上になると男女のペアで参加する風習がある。
もちろん、それは夫婦でも婚約者でも兄妹でも問題ない。もちろん、それには護衛も含まれる。リンを連れてきているのもその風習に
ただこれが身内や護衛以外だと意味は変わってくる。
例えば他家の家、それも遠い親戚でもない場合は彼女はすでに何らかの繋がりがあるということを示す。
今回の場合ではエルドと一緒にいる少女は王族とその配偶者の特徴が見受けられない。さらに言えばエルドの婚約者はいないはずだった。
となると導き出されるのは
「リチャード・セラ・ゼブルスよノストニアの国交樹立見事であった」
少し考え事をしていると陛下が父上に話しかけている。
「国のことを思えばでこそです」
陛下はまずは父上に話しかける。
「バアル・セラ・ゼブルスもご苦労だった」
「ありがとうございます」
俺にもそう労った後次はアズバン家に声を掛けていく。
「あの、なんで距離が離れているアズバン公爵に話しかけるのですか?」
「ああ、それはこの話しかけによってどの家が、もっと言えばどの地方が一番国に益を与えたかを知らしめるためだよ」
陛下が門前の公爵に話しかける順番は国への貢献度順。なので去年はゼブルス家ひいては南部が一番王国に貢献したとみられている、次点でアズバン家の北部となる。
それからキビクア公爵家に声を掛け、最後にハルアギア家と言う順番で挨拶を終える。
(妥当かな)
魔道具事件で一度反発したものの暗部に魔道具を支給し、使い勝手を良くした。だが一番大きいのはノストニアとの国交にも十分貢献した、それゆえにこの順順番となったのだろう。
「さて、では皆の者、今年も平穏に過ごせることを願おう!!」
そういい、陛下が手に持ったグラスを飲み干すとそれぞれが真似をするように飲み干す。
全員がグラスを掲げると端にいる音楽団が曲を奏で場を盛り上げる。
「さてでは皆行くとしよう」
父上がそう言うと南部の貴族を引き連れて陛下の元に向かう。
「行かなくてよろしいので?」
「ああ、これは父上が陛下に皆を紹介するためだから」
それぞれの公爵家がそれぞれの地方の貴族を引き連れてあいさつしに行く。その順番は先ほど陛下が話しかけた順番と同じだ。
(そしてこれが終わったら)
全ての公爵家とその地方の貴族が挨拶を追えると扉が開き料理を持ったメイドや執事が入って来てテーブルに配膳していく。
そして中央部分に空間が空く。
「それじゃあ行くか」
「はい」
手をリンに差し出すと、嬉しそうに握ってくれる。
それから一段と音楽が鳴り響くと同じように男女のペアが中央に集まり踊り始める。
一応は踊りも習ってはいるのだが、正直苦手だ。それに比べてリンの筋はかなりいいみたいで講師もほめていた。リンに関しては護衛としてこのような場に参加する際は必要と言うことで習っていた。
「はぁ~」
先のことを考えて気が重くなる。
「踊っている最中ですよ」
リンにため息をつくなと窘められる。確かに本来なら相手側に失礼な行動なのだが。
「仕方ないだろう……アレを見てみろ」
俺達は踊りながら不自然の無いように周囲を確認する。
「……確かにこの後はすごく迫られそうですね」
「だろ」
簡単に言うと令嬢が獲物を見ているような目を俺に向けている。
なにせ婚約者もいない公爵家の長男だ。貴族の独身女性からしたら垂涎の餌とでもいうべき標的だ。
「まぁリンも注目されているけどな」
「え?」
「ほら」
リンの視線を誘導するとリンは顔を顰める。
理由は視線の先にいる三人にあった。貴族ならば当然ながら参加しているだろう。
「………バアル様、何とかなりませんか」
「俺は用事がある、今回はこれで終わりだ」
「では、私も護衛として同伴しましょう」
と言うことで一曲目が終わるまで踊りを続ける。
パチパチパチパチ
演奏が終わると周囲から拍手が始まる。
「じゃあ移動するぞ」
曲が終わると中で踊っていた人は外に出て次の人と交代する。
そして俺が嫌だったのは。
「バアル様、次は私と」
「いえ、わたくしとお願いします」
「ぜひ、私と!」
踊りが終わり外に出ようとすると多くの令嬢が詰め寄ってくる。
「すみませんが、雑事があるので、本日はもう踊るつもりはないのです」
そう言うと攻めよってきた令嬢はしぶしぶ離れていく。
「いいのですか?」
「問題ない、それに本当のことだしな」
先ほどの言葉に嘘偽りはない。雑事を済ますために陛下の元まで移動する。
「っと、その前に」
ちょうどよく通り道に重要人物がいる。
「お久しぶりです、グラス殿」
「ん?おお、バアル殿か久しぶりだな」
テーブルに置いてある食事を取っているグラスに声を掛ける。
「それにしても意外だ、よく令嬢の壁から抜け出せたな」
興味深そうにそう見てくる。
おそらく令嬢に囲まれるのを予想で来ていたのだろう。
「余興として一度踊れば十分ですし、私はそれ以上に例の件のお話をしたいのです。陛下に取次ぎをお願いしてもいいですか」
「ああ、少し待っていろ」
この言葉を聞いてグラスは皿を徘徊しているメイドに渡すとそのまま、陛下の元へ行き耳打ちをする。
そして何かを伝えられると戻ってくる。
「ではついてきてくれ」
一度会場を抜け出し、傍にある応接室の一つに移動する。
「一応確認だが、ゼブルス卿には許可を取っているか?」
「大丈夫です、もともとこれは私に任されていることなので」
そういうとわかったとつぶやき再び部屋を出ていく。
「ふぅ~、このまま帰りたいな」
「残念ながらそうはいきません」
「わかっているよ」
愚痴も溢したくなる、これが終わると再び踊りのお誘いが来るだろう。
(…………それにしても、エルドの連れていたパートナーは)
深緑色の髪はキビクア家の特徴、さらにはキビクア公爵の子供の数が聞いていたよりも少ない。
となると答えは明白。
「キビクア公爵家はエルド殿下に加担したか」
これで情勢が一気に動く。
東のハルアギア家は年頃の娘がいないので比較的つながりの強いグラキエス侯爵家の娘をイグニアの婚約者にし、西のキビクア家はエルド殿下についている。
ゼブルス家とアズバン家、つまりは北部と南部は中立を保っている。
(少し遠い縁の分、イグニアの方が少し劣勢か)
血の濃さ程度でと思うが大事なファクターなのだ。
(さて、どう動こう)
どちらに着いた方が利益がでかいか考えているとリンがふと思い出した表情になる。
「そういえば、第一王妃様はいらっしゃられないのですか?」
「……それ、陛下に言うなよ」
俺はリンに説明する。
「なぁ、なんでエルドとイグニアが争っていると思う」
「???どういうことですか?」
「思っていることを何でも言ってみろ」
リンは少し考えこむ。
「エルド殿下は第一王子として本来なら継承権が優位にあった、ですが同じ年にイグニア殿下が生まれ、ユニークスキルという才能を持ち合わせたため、イグニア殿下を王にしようとする勢力が現れた」
リンにしてはいい線をいっている。
「たしかにその考えも持つ奴がいる、だがエルドがイグニアを将軍にすると約束すればエルドはすんなりと王になることができるだろう?」
「あっ、そうですね」
これだったら多少不満も残るだろうがイグニアは地位と権力を所持することができ表面上は安定する。
「でしたらなぜ?」
「……さっきの第一王妃様が関わっているんだよ」
「それはどうゆう」
コンコンコン
説明しようとすると扉がノックされる。
「陛下が参られたぞ」
返事をして陛下を部屋の中に招き入れる。
「では、このような案でよろしいですか?」
俺は陛下と財務大臣、グラス近衛騎士団団長に支払いを待ってもらう代わりに利息として返済までゼブルス家への減税を約束させた。
(もっとも俺のイドラ商会を重点的にな)
これによりさらに安価で売り出すことができる。
無論これには陛下にも恩恵がある。
(なにせ魔道具が広がれば、影の騎士団の活躍範囲が増えるからな)
さらにノストニアに関しては二年間の免税と約束させた。理由は明白。ノストニア内に魔道具による通信範囲を作り出すためだ。
(……アルムはすでに通信機のことは知っているけどね)
話がまとまると財務大臣は書類を作りに退席した。
「さて、これで満足したか」
「はい、私の愚案を飲んでください感謝しております」
「はは、本当によく頭が回る」
今回の場合、王家がとる選択肢は利息が付くか、税を軽くするかどちらかだ。
そしてそれがどちらも同じ金額ほどだったら、より使えそうな方を取ることになる。利息だけならただ支払いの額が増えるだけだが、減税の場合は魔道具がさらに売りやすくなり、そして魔道具が広がると通信機の範囲も広がれば、結果的に影の騎士団が行動しやすくなる。
これらを加味したうえで減税を選んだ。一応俺もその有用性を仄めかし、陛下がそれに乗ってくれたわけだ。
「そういえば、バアル君は婚約者を選ばないのかね?」
「………残念ながらまだまだやることがありますゆえ」
陛下の言葉の裏にはどこの派閥に所属するのか、と尋ねている。
そして俺はまだどの派閥に所属するか決めてないと伝える。
「私からも一つ質問をよろしいですか?」
「よかろう」
「では陛下は両殿下のどちらが未来の陛下にふさわしいと思いですか?」
これには部屋の気温が数度下がったと錯覚する。
「不敬だとは思わないのか?」
陛下は答えずにグラスがそう注意してくる。
「失礼しました、ですが私も決めかねているのですよ」
知恵のあるエルドか、武勇に優れるイグニアか。
「それを聞いてどうする?」
「なにも、ただ陛下がどのようなお考えを持っているか伺いたいだけなのです」
グラキエス家の密約がある限り、俺は裏ではイグニアに協力している。
それゆえにここで陛下がどちらがふさわしいか聞く必要がある。
ここでエルドと答えたら、俺はグラキエス家の密約を反故にする可能性も考慮に入れる必要がある。
「ふむ、そうだな、両方とも王の資質は持ち合わせている」
普段イグニアの様子を知っているなら不思議に思うところもあるだろうが、アレはある意味年相応なのでおかしくはない。なにせエルドのような智がなくともイグニアは武で貴族を束ねることもできるだろうからだ。そしてその資質は十分あるらしい。
「それはどちらも可能性があると?」
「うむ」
つまりはどれほど功績を残せるか、自派閥が大きくするかで決まる。
(ここでどちらかと断言してくれれば楽だったけどな)
となると仕方ない、裏で消極的に協力しつつ情勢を逐一確認しなければならない。
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