第84話 導き出される者は
〔~アーク視点~〕
僕たちは急いでアズリウスに戻る。
最北の村まではルーアさんの同僚に馬車を要してもらい、最北の村からアズリウスまではちょうどアズリウスに帰る馬車があったのでそれに便乗させてもらった。そんなこんなで4日が経つ頃にはアズリウスの門をくぐることができた。
「あら戻って来たの?」
教会の礼拝堂ではエルダさんが待っていた。
「アネットちゃんは無事に届けられたの?」
「はい、それと」
僕はアネットを送り届けてからの事を説明し、持ってきた白い粉をエルダさんに見せる。
「これが何かわかりますか」
だがエルダさんの反応がない。エルダさんの視線は開けた袋に詰め詰められている粉に向かっている。
「あのう」
「いい、良く聞きなさい、今からガルバの元に向かいなさい」
袋から視線を放すと、拒否を許さぬ声色でそう告げてくる。
「わ、わかりました」
「それとこれのことを誰にも言ってはいけません、いいですね」
「「「「「は、はい」」」」」
「では、行きなさい」
荷物を置く暇もなく僕たちはベルヒムさんの元に向かった。
「ベルヒムさん」
「ん?ああ、アークかどうした?嬢ちゃんは無事に届けたか?」
「ええ、それとガルバさんはいますか?」
「ああ、奥に部屋がある。そこでクアレスの爺さんとラインハルト殿と会談しているぞ」
「今入っても問題ないですか?」
「ああ、大事な話し合いじゃないから問題ないはずだ」
ベルヒムさんは僕らを案内してくれる。
「誰じゃ」
「すまんが入るぞ」
「ベルヒムかよい、入ってこい」
中に入ると三人が様々な書類を見ていた。
「お、アークたちか、おかえり。で、どうだった?アネットは無事帰れたかい?」
「ええ」
「じゃあ何があったかを教えてくれるか」
僕たちはアネットを届けてここに戻って来るまでどのようなことがあったかを説明する。
「なるほど、君も運がいいのか悪いのか……」
「まさかノストニアで犯人と遭遇からの戦闘」
「さらには裏切り者に出会い戦闘、その後、裏切った原因を持ってきたのか……」
「あれ?皆さんこの粉のことを知っているので?」
なぜだか皆はあの粉のことを知っているようだ。
「ああ、既に連絡は来ておるからな」
「いつのまに……」
ルーアさんの言う通り、あまりにも早すぎる。
「あ~ちなみにバアル様は裏切っていないぞ」
犯人だから理由を知っていると思ったがそうではないらしい。
「私はゼブルス家の騎士です。なので任務に必要である魔道具はある程度支給されるのですよ」
その中に素早く連絡を取ることができる魔道具があるのだとか。
「そんなものがあるなら俺たち要らなかったんじゃ……」
「そうでもない、現物がないので断定はできなかったんだ」
老人は粉を見ると一摘みしてじっくりと観察する。
「ふむ、儂の知っている狂快薬ではないな、何らかの改良がされておるな」
裏の世界に詳しいクアレスは何度かこうゆうものを見たことがあり、ある程度の知識はあるのだとか。だがそれでも今見せているこの粉は何かが違うという。
「ふむ、ベースは普通の快楽薬だが……どんな改良をされているのかはよくわからんな。デッド殿が帰って来るのを待たぬとダメか」
「?デッドさんは今いないのですか」
このメンツの会議ならデッドさんも居そうなのだが。
「あやつならせわしなく動いているわい」
「どういうことだ?」
現在、デッドはネンラールのアルア商会とウニーア子爵を調査しに行っているとのこと。
「ベルヒム、デッドがいつ戻ってくるのかわかるか?」
「調査は終わったみたいで戻ってくる最中と聞いていますが」
するとタイミングよく扉が開く。そこには見慣れたローブ姿の男が立っていた。
「デッド様よくぞお戻りで」
「ああ」
ベルヒムに何かを渡すとそのままテーブルに何やら書類を置く。
「洗い出せるだけの情報は出た」
「ほぉ、ほぉ、さすが情報屋と言われるだけあるのぅ」
ウニーア子爵の書類にはどのような商会が通過したのか、積み荷の大きさと種類、倉庫の中身がびっしりと記載されていた。
アルア商会の方では売値買値、通過ルート、積み荷の種類と大きさ、従業員や人員の数、さらには背後のマフィアのことまで記されてあった。
「ふむ……」
「へぇ~……」
クアレスさんとガルバさんは紙を見て思うところがあるのか反応している。
「何かおかしな点でも?」
「ああ、あるぞい」
「そうですね」
カリナの質問に二人は答えてくれる。
「アルア商会で運んでいる積み荷がおかしいんじゃ」
「おかしい?」
「そ、馬車一台に乗っけている荷物の量と大きさがあってないんだ」
ガルバさんはこの量だと一つの木箱に半分程度しか入れてないという。
「つまりアルア商会がエルフの誘拐に関わっていると?」
「可能性があるというほどじゃな」
僕たちが良くわかっていないのを見ると説明してくれる。
「空の木箱を運ぶのはそこまでおかしいことではないんだよ」
「ああ、
荷物を売った後に大量に何かを買い込んで今度は自分の場所で売ったりする場合があるのでそれほどおかしいことではないと言う。
「ではなんでお二人はおかしいと思ったのですか?」
ソフィアの問いに笑いながら答えてくれる。
「ああ、馬車はなんとなく怪しい程度で済むがな」
「おかしいのは期間のことだよ」
二人は紙の一部分を見せてくれる。
「えっと~アズリウスに来るのは前からだったけど~………最近になってめちゃくちゃ多くなっているね~」
「リズの言う通りさ」
「そしてその期間はちょうどエルフ達が良く売買されているタイミング、おかしいと思うだろう」
つまり可能性は高いと二人は判断している。
「ただ、このような簡単な手段で検問所を突破できるとは思えんのだが……」
クアレスさんもガルバさんも共に難しい顔をしている。
確率は高いのだが、肝心のアズリウス内に運べるとは思っていない。
「こっちの貴族の方はどうなんですか?」
「「黒」」
二人は即答する。
「理由は何ですか?」
カリナは純粋に疑問に思う。
紙を見る限りではおかしいところは何もないと思うが……
「そうだな紙を見る限りでは普通に仕事をしている領主にしか思えんだろうな」
「ではどこで?」
クアレスさんは一つの部分を指す。
「この食料の運搬だ」
「???」
僕は言いたいことがわからなかった。
「えっとね、この大量に食料を運搬した記事があるでしよ」
「はい」
「これがかなりおかしいんだよね」
「おかしい?」
ガルバさんが説明してくれる。
「そ、ここまで大規模に買い込むのは不自然なんだよ。もちろん理由があるなら普通なんだけど」
書いてあるものを見る限りそのようなものは無い。
「収穫を終えてから大量に買い込み、春まで持たせるそれがここら辺の領主のやり方だ。だから普通は余計な出費を押さえて春まで耐えるはずなのだがな」
「冬の間はどうしても食料の値段が上がるからね」
これらの理由でまずウニーア子爵は何かをしていると考えてもいいようだ。
「……それとアーク、例の物を持ってきたのか?」
「はい、えっと、これのことですよね」
僕は亜空袋に入れておいた白い粉の袋をデッドさんに渡す。
「……これがか」
「「「「「なぁ!?」」」」」
デッドさんは手に取り確かめると、白い粉を摘み舐めた。
「なにやっているんですかあぁあ!?」
デッドさんの奇行に僕だけではなくガルバさんも声を上げる。
「……ん、問題ない」
頭を押さえながら答えるデッドさん。
「……たしかに大部分が狂快薬、それに依存性がとてつもなく高いアジャカラとウバナカも配合されているな」
何やら小声でブツブツと何かを喋っている。
「あの、デッドさん」
「……ああ、すまない。これの正体だったな」
「ええ、これは一体何なの?狂快薬って言葉を何度も聞くけど」
ルーアさんの任務はこれの正体を確かめることだ。
「……これは狂快薬で間違いない、さらに依存性が強く改造されてもいるな」
「それは普通の狂快薬とどう違うの?」
「………簡単にいえば操り人形を作るのに最適な薬だ」
一度使わせれば何を犠牲にしてでも、もう一度使いたいと思わせる薬らしい。
「この国ではこんなものが出回っているの?」
「……普通は出回ってない。かなり厳しく規制されているはずだ」
「じゃあなんでこの薬のことを知っているの?」
「……俺も情報屋だからな、場合によっては禁薬の情報も必要になる」
「使ったことはあるの?」
これにはデッドは何も答えない。
情報屋という裏の組織なので使ったことがないとは断言できない。
「まぁまぁまぁ、デッドさんも情報屋なんですから言えないこともあるでしょう」
「そうじゃ、この世界にいるなら手に取ることも多々ある」
二人がそういうがルーアさんは納得しそうにない。
「で、これの出所は」
ルーアさんは不機嫌そうに尋ねる。
「……狂快薬はネンラールから流れてきている物だ。さらには改良に使われている物もネンラールから流れている」
「じゃあネンラールが主導でやっているってこと?」
「……国が関わっている可能性は驚くほど低いと思うがな」
「なんで?」
「ノストニアと戦争になるのはどこの国も避けたいだろうからな」
デッドさんに代わりラインハルトさんが答えてくれる。
「ルーア殿はどうしますか?薬のことが分かったのです。ノストニアに戻りますか?」
「いえ、誘拐組織を知るために貴方達と共に動くつもりですが……貴方たちはこの後どう動くつもり?」
「今後はこの二つを軸に探索を進めるつもりです」
ラインハルトさんが今後の方針を話してくれる。
「まずは三つ配置する」
そう言うとおおざっぱな地図に書き示す。
「まずはこのままアズリウスに残るのはエルダ殿とジェナ殿とクアレス殿」
呼び出されたのはこの三人。
「君たちには引き続きアズリウスで捜索をつづけてもらう」
アズリウスの場所に三人の名前が書かれる。
「うちの者はどうする?」
「アズリウスの裏社会に一番詳しいのは貴方たちだ、なので引き続き裏社会の監視と網を張ること」
「つまりは現状維持だな」
「その通りです。そして君たちが共に動くつもりなら」
次にウニーア子爵の領地にラインハルトさんと僕たちの名前とルーアさん、それとエルフの数名が書き記される。
「次にウニーア子爵の領地の人員だ」
「あの、そこで何をするんですか?」
僕たちは怪しいとは聞いてはいるがどこをどうするのかはわからない。
「ウニーア子爵ではアズリウスに向かう馬車の監視、それとウニーア子爵の周囲の調査だな」
「子爵の周囲はわかりますがほかはなぜ?」
「簡単だ、ウニーア子爵領はネンラールからアズリウスに向かうためには必ず通る道だから、アルア商会もこの道をよく使っている」
そのために仮にアルア商会がエルフの誘拐に関与しているなら道中にウニーア子爵領を経由しているはずだと。
「そのために警戒心が薄くなりそうなアークたち、それに魔力を見ることができるエルフが担当する」
「ラインハルトさんは?」
「私は監督役です、エルフや君たちに監督を任せるわけにはいきませんし」
結果、ウニーア子爵領ではラインハルトさんが舵を取る。
「最後にアルア商会にはガルバくんとエルフの数名、それとデッド殿で当たってもらう」
「……少なすぎないですか?」
「いや、少なくする必要があるんだよ」
僕が不思議に思っていると担当であるガルバさんが答えてくれる。
「アルア商会があるのはネンラールの中だからね、大人数で侵入ってのがまず難しいんだよ」
「……そうだな、俺でもネンラール内では自由には動けない」
情報屋であるデッドさんですら思うように動けないという。
「……そんな状況で大人数を動かしてしまえばどこかで不自然になる」
「だから少人数で動きやすくするんだよ」
ここまで説明されてようやく理解できた。
「ガルバはアーゼル商会として接触を」
「わかった、護衛にエルフの一人を連れていくから、確かめさせてもらうよ」
こうして僕たちはそれぞれ動くこととなった。
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