第78話 強き敵と

〔~バアル視点~〕


『――現在、全員に役割を振り結果を待っている状態になっています』

「ご苦労、ラインハルト」


 ノストニアに向かう馬車の中でラインハルトと連絡を取っている。


 本来なら連絡用の魔道具は使えないのだが、アルムが魔道具を配布してくれたことにより、道中の数か所に道具を設置すれば使える状態になっていた。


「一応、配員を教えてくれるか?」

『はい、エルダ殿は教会の幅広い伝手を使い情報収集と事態の処理、噂の拡散、ジェナさんはエルフ数名を連れて誘拐していると思わしき組織を調査』

「どうやってだ?」

『エルフの魔力を見る能力を使い、エルフの反応があった者から拉致拷問で情報を集めています』


 さすがエルフ優秀な能力だ。


 なにせ言い逃れない証拠が彼らには見えているのだからな。


『続けてもよろしいですか?』

「ああ、頼む」

『ガルバ殿は裏オークションに参加しエルフが売買されているか確認、そしてもし出品されていた場合は買収する手はずです』

「そこから尻尾を掴めるかもしれないか」


 救済という面が大きいが、俺からしたら副産物の情報が重要だ。


『そしてデッド殿とベルヒム殿には情報の精査するそうです』

「まぁ妥当だな」


 影の騎士団は限られた存在しか知らない、当然ラインハルトにも知られてはいけない。


 それゆえに裏方に徹する。


「(まさにだな)それでアークたちはどうしている?」


 アークたちは十日ほど前にアズリウスから出立しており、予定通りならノストニア内に入っている頃だろう。


『予定通り、ルーア殿とアネットを連れてノストニアに向かっています。最後の報告では二日前に最北の村を出たとのことです』


 これを聞いて思わず笑みを浮かべる。


『それとアネットの首輪に関してですが、デッド殿が解除した模様』

「そうか」


 影の騎士団として席をおいているデッドだ、ある程度の非合法での解除方法も知っている。


 もちろん従来の解除方法でないことから多少時間を食うらしいが今の状況では誤差もいいところだ。


「予定通りだな」

『しかし本当にうまくいくのでしょうか』

「さぁな、そこはあいつらの正義感に期待するしかない」


 上手くいけばエルフの大々的な印象変化が促せる。


『こちらからの報告は以上になります』


 一通りの報告を終え、通信を切る。


「ということだ、こちらの動きは理解したな?」

「ええ、それでは次に私たちが動く必要がありそうね」


 俺は対面にいるクラリスに話を振る。


「しかし、そんな大きく動いてトカゲの尻尾切りにならない?」

「ああ、だから教会と貴族の力を使う」


 手段としてはこうだ。


 まずはジェナとエルフ達が組織から情報源を拉致、その後チンピラがトラブルを起こし騎士が捕縛したという嘘の事実を教会に流してもらう。


 これにより騎士たちにより素行の悪い奴らが逮捕され、それがたまたま組織のメンバーだったと判断するようになる。


「だけどその策だと頭の回る人物は違うと気付かない?」

「もちろん数人は気づくだろう、だが真っ当に生きれない奴がそこまで頭は回ると思えない」


 この世界で教育を受けた人物は貴重だ、ほぼ全員が真っ当に生きられると言っても過言ではない。ということは必然的に裏の世界にいる奴らは大半が教育などを受けていないことになる、もちろん不幸にもそちらに落ちた奴もいるだろうがかなりの少数だろう。


「それに頭のいい奴がいくら言ったってバカは理解しようとしないだろう?」


 前世でも知能が低い奴と高い奴は馬が合わないと言われていた。こちらの世界でも残念ながらこれはある程度当てはまってしまう。


「たしかにそういわれると問題ないような気がしてきたわね」

「ああ、それよりもそちらも手はず通り動いてくれよ」

「任せてちょうだい」








〔~アーク視点~〕


 僕たちは雪道を歩いている。


「アネット、大丈夫?」

「うん」


 僕たちはアネットをノストニアに届けるために同行している。


 現在は最北の村を出てノストニアの国境を目指している。


 ただ季節は冬の中盤の為、すでに森の中は雪が積もっている。雪道を慎重に進む必要があるため僕たちの歩く速度は遅くなっていた。


「うぅう~、寒!!」


 オルドは震えながら歩いている。


「だからもう少し着込んだ方がいいって言ったのに~」


 オルド以外は念入りに防寒しているのに、オルドだけは他の5人に比べて薄い恰好をしている。


「くそっ、服をケチるんじゃなかった」


 アズリウスで防寒着を買ったのだが、冬直の最中ということで結構な値段だった。これにはオルドはしり込みしてしまい不十分な防寒になってしまう。


「アーク、そろそろ日が暮れる野営の準備をしないか?」

「そうだね」


 カリナの言葉で野営に適した場所を探す。ほどなく進むといい感じの穴倉が見つかった。










「ふぅ~~あったけ~~」


 中を確認すると何かが居付いている様子もないので焚火で暖を取る。


「それにしても冬に山に入るとは思わなかったわ」


 アネットの護衛で同行しているルーアも雪山を超えてノストニアに入るとは思わなかったみたいだ。本来なら秋の間にノストニアに帰るか、そのまま春までグロウス王国で過ごすのが普通だとか。


「そろそろご飯にしませんか」

「そうだね」


 僕は父さんから譲り受けた亜空袋から調理道具を取り出す。


 ―――――

 亜空袋

 ★×6


【縮小収納】


 外見からは考えらないほど容量がある魔法の袋。かなりの頑丈なのだが、一度破れると中身がすべてあふれ出すため注意しなければいけない。中に入れた物の重さは感じない。

 ―――――


 乾いた木材もこれで持ってきた。さすがに袋の中は時間が止まっているわけではないので保存のきく食料以外は持ってきてない。内容も普通の背嚢の五倍ほどしかないため少し余裕を持てるほどでしかない。


 食器と干し肉を取り出し、カリナに水を出してもらい、簡単なスープを作る。


「あ、ちょっとまって」


 アネットが何やら木の根っこを差し出してくる。


「これもいっしょににこむとおいしくなるよ」

「……これはショウガですか、ありがとう」


 ショウガを切り刻み、煮込んでいるスープに入れるとおいしそうな匂いがしてくる。


「本当なら野菜も煮込みたかったのですが」


 残念ながら今回の備蓄にはそこまで量を持ってきていない。理由は冬の為、野菜自体が市場に全くと言っていいほど出回っていなかった事にある。


「いいじゃんか肉さえあれば」


 オルドはそういうが女性からは不満そうな顔をしている。








 食事を済ませると外は真っ暗になると交代で夜の番をする。


「あ~寒い~~」


 今回はリズと一緒に見張り番をしている。


「そういえばおじさんに弓をならっているんだってね」


 リズは夏の事件から弓使いのおじさんに弓を習っていると聞いた。


「うん、連射も~人の動きを予測するのも上手くなったよ~」


 証拠に一度森に行ったときの獲物の数が格段に上がっていた。


「アークは強くなった~?」

「ああ、お父さんに鍛えられていたよ……いたよ……」


 父さんは名のある冒険者だ。それためにかなりのスパルタで鍛えられている。そう、かなり・・・だ。


「いまでも結構強くなったと思うんだけど、お父さんにはまだ一撃も入れられていないよ」

「ご愁傷様~~」


 それからも話が弾み、夜が濃くなっていく。


 時間になると交代して僕は眠りについた。











 それから何日も掛けていくつかの山を越えるとまだ冬なのに雪がない森に入った。


「もどってこれた」


 僕たちが止める間もなくアネットが駆けだす。


「あ、待って」


 道中でも魔物は出ていた、ここも安全だとは思えない。だがそんな心配とは裏腹にアネットはどんどん先に進んでいく。


「追いかけるわよ」


 ルーアは即座に追いかける。


「俺たちもいくぞ」


 僕たちもアネットの後を追う。









 走っていると冬から春に変わるのが体感できる。


「はぁはぁ、たくどこまで行ったんだよ」


 あの二人はこの森に慣れているのか、かなりのスピードで走る。


「こっちは靴も換えていないから」


 僕たちは雪山用に分厚い靴を履いているためとても走りにくい。


「おい、アーク、お前だけでも二人の後を追え」


 オルドがそういう、みんなも同じ意見なのか頷いている。


「わかった、先に行くよ」


 僕は『青天の戦鎧』を使い、速度を上げる。


(……どこまで先に行ったんだ)


『青天の戦鎧』で走っているのに距離がなかなか縮まらない。


(見えた)


 二人の後姿を捉えることができた。


「キャアアアア!!」


 だが、次の瞬間少女の悲鳴が響き渡り、僕たちは立ち止まる。


「今のは……」

「アーク!!」


 ルーアがアネットを抱いて戻ってくる。


「ルーア」

「アネットをお願い、私は様子を見てくるわ!!」


 そういってアネットを僕に任して、声のする方向に走っていく。


「…………」


 僕も何があったのか心配になる、だけどアネットを一人にするわけにはいかない。


「わたしたちもいこ!!」

「だけど」

「だいじょうぶたたかえないけどにげることはできるよ」


 そういい、アネットは僕の腕を引っ張っていく。


(……すごいちからだ)


 無意識に【身体強化】を使っているのか全力じゃないと抵抗できなさそうだった。


(……これなら最悪逃げられる)


 アネットは邪魔にはならないと考え、僕もルーアの後を追う。


 幾つかの茂みを抜けると戦闘音が聞こえてくる。


「ルーア!」

「アーク!?」


 ルーアさんの後ろにはエルフの子供が一人、正面には緑色のローブを深くかぶった人物が二人。


 そして二人のうちの一人はエルフの子供を抱えていた。


「なんでここに子供が?」

「しかもエルフじゃないね、さらには樹守の一人か………情報が違うね」


 そういってこちらを見据える。


「どうする?」

「当然、排除するしかないでしょ」


 そういうと子供を抱えてない方は二本の剣をとり切りかかってくる。


「させないわ」


 ルーアさんは腰につけている二本の短剣で受け止める。


「アークはこの子を、はぁ!!」

「やはり、エルフと言うのは面倒だな」


 一見リーチの差があることからルーアさんが不利に見えるが、そんなことなくローブの男は押されていく。


「切り刻みなさい!!」


 ルーアさんが叫ぶとローブの足元から風が舞い上がる。


 何十にも重なる風の刃を喰らい、もう一人の位置まで吹き飛ぶ。


 だがローブは攻撃などなかったように空中で翻り、軽やかに着地する。


「ねぇ早くしてくれない?」

「じゃあお前も手伝え」

「え~~~」


 まるで脅威ではないというように僕達の前で会話しだす。


「この!!」

「おっと、僕に向けて魔法を使ったらこの子に当たるかもよ?」


 一人がエルフの子供を盾にするように抱え直す。


「っ!!!」


 悔しそうに腕を下げるルーアさん。だがそのタイミングで双剣の男はルーアさんに切りかかる。


 そのスピードは先ほどの剣戟よりも数段速く、息する暇もなくルーアさんの前に移動する。


「っ!!!」

「もらった」


 男はルーアの首めがけて剣を薙ぐ。


 だが


 ギィン!


「………………ほう」


 剣はルーアの首元で光の盾で止められている。


(間に合ってよかった)


 ルーアさんを守ったのは僕のユニークスキルのアーツ、『極光盾』だ。


 『極光盾』は視認できた場所に任意に出現させることができる。ギリギリのタイミングで間に合った。


「へぇ~~君がやったのか~~」


 軽い口調の男は僕がやったと確信している。


「ユニークスキル持ちは高く売れる、その子も連れて帰らない?」

「……わかった」


 そういうと双剣の男は体から魔力を溢れ出させる。


「そして『封魔結界』」


 僕たちを囲むように半透明の結界が敷かれる。


「これは魔法を封じる結界だよ、だからさっきみたいに盾を作ることはできないからね~~」


 軽口の男がそういうと双剣を持った男が襲い掛かってくる。


「ぐっ」


 ルーアさんを援護するため、極光盾を作り出そうとするのだが、言葉通り作り出すことができなかった。


「さあ、“英雄殺し”の剣術をみせてよ」

「っチ、余計なことは言うな」


 そういうと双剣を巧みに扱い、ルーアと切り合う。


「やり、にくい、ですね!!!」


 ルーアのほうが身体能力が上なのに押しきれていない。


 男の剣を躱し懐に入ると短剣で刺そうとするが剣の腹で防がれ。


 そのまま男が体勢を変え、剣の腹を滑り短剣がすり抜け、ルーアは無防備になる。


 今度はその瞬間を狙って剣を振り下ろすのだが、ルーアさんは短剣で力任せに防ぐ。


 一度剣は止まると思ったのだが男は剣から手を放し、腹部を殴りつける。


「くっ」


 ルーアさんはそのまま転がり、男は空中で再び剣を取る。


 どちらが押しているかは一目でわかる状況だ。


 ルーアは力で秀でているが男の技量はルーアの比ではない。


(魔法が使えないのが大きい)


 ルーアさんはもとより弓や魔法の遠距離で戦うのが得意なタイプだ。


(僕が前になればもっと有利に戦える、だけど)


 後ろにはアネットとエルフの子供がいる。僕が動けば、もう一人の男がこの二人を狙うだろう。


(それに人質もいる)


 おかげで直接あの男を攻撃するという手段が取れない。


(『太陽の光剣』も『青天の戦鎧』も使えないのか)


 何度も発動しようとしているが使えない。


 するとルーアが僕の前に吹き飛ばされる。


「かっ、げほっ、アーク、二人を連れて逃げなさい」


 傷だらけになったルーアが僕にそういう。


「けど」

「ここで、全員死ぬよりはましでしょ!!!!」


 ルーアは思わず怒声を上げる。


「そうはいきません、僕たちとしても情報を持ち帰られるとめんどくさいので」


 そういうと軽い男の方が腕を振るう。


「!?、カハッ!!」


 僕の体が宙に浮き、地面に叩きつけられる。


「!?え、何が」

「わかってないみたいだね、ならもう一度」


 僕の体が何かに引っ張られるように宙に上がり、またそのまま落下する。


「ぐっ、ユニークスキル!?」

「う~ん、違うよ」

「じゃあ、この力は」


 なんなんだ、と言おうとしたのだがすぐ目の前に双剣の男が迫っていた。


 僕は一撃を剣で防ぐのだが、すぐさま柄の部分を蹴飛ばされ、剣を放してしまった。


「死ね」

「!?!」


 極光盾で防ごうにもあの軽い男の術で使えない。


 盾にできる剣も先ほど吹き飛ばされてしまった。


 あとは回避なのだが既に剣は振り下ろされており回避が間にあうタイミングでもない。


 とっさに体を後ろに背けるが全く意味がない。


「アーク!!」


 何とか助けに入ろうとするルーアさんが見えるが間に合わない。


 ヒュン


 だが男は急に体勢を変えて僕から離れる。


 ヒュン


「うぉ!」


 もう一人もなにやら体勢を崩し、エルフの子供から手を放した。


「もらい!!」


 茂みから赤いオーラを出したオルドが現れ、エルフの子供を引っ手繰ひったくる。


「っち」


 軽い男は腕を振るおうとしたのだが、また音がしたので、その方向に向けて腕を振るった。


「あ~二度目はないか~」


 茂みの奥から弓を構えたリズたちが姿を現した。


「やられたね、ずっと視線があるのは分かっていたけど、その二人は囮だったか」


 リズたちとは別の方向からソフィアとカリナが姿を出す。


「おい、何やっている」

「いや~ごめんごめん」


 双剣の男は文句を言うが、軽い男は軽く流す。


「で、どうする?」

「う~ん、やり合ってもいいけど…………ここは退こうか」

「どうしてだ?」


 双剣の男は心底不思議な顔をする。


「全員殺してしまえばいいのではないか?」

「できなくもないけど、少し手間がかかる、だから今回は退く、わかった?」

「……お前がそう判断したのなら文句はない」


 そういうと双剣は剣を納める。


「逃げます、で、はいそうですかとでも言うと思いますか?」


 ルーアさんはそういうと剣を構える。


「まぁそっちは逃がしてくれないみたいだけど、それならやり合うだけだよ?実力の違いは理解できない?」

「…………」


 相手の言う通り、僕たちの中で最も地力があるルーアさんが手も足も出ない。


 当然僕たちも苦も無く殺せるだろう。


「じゃあ、問題ないようだね~」

「「「「「「!?」」」」」」


 二人は不自然に舞い上がり空を飛んでいく。


「君たちとはまた会うかもね~」


 そう言い残し、去っていった。

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