第65話 意外というか人外な協力者

「変哲もない森に見えるがな」


 森の入り口に来たのだが山の中腹まで続いている普通の森だった。


「で、いまでも何か感じているか?」

「はい、今も見られている感じがします」


 残念ながら俺とセレナはその視線を感じることができない。よってリンの感覚だよりでその視線の主を探す。


「じゃあリン頼むぞ」

「はい」


 リンの先導の元、森の中を進んでいく。


「………おい、なぜそっちに行く?」


 まっすぐ進んでいたはずなのにリンが徐々に曲がり始めた。


「え?…………こういうことですか」


 リンはなにかを理解した顔になる。


「ではバアル様、まっすぐ進んでみてください」

「???」


 リンに言われて、俺が先頭となりまっすぐ森の中心部目指して進むのだが………


「………なぜ」


 方向感覚には結構自信があったのだが、なぜだか入ってきた森の入り口に戻ってきてしまった。


「どういうことだ」

「どういうことだも何も、二人が曲がりは始めるのですからびっくりしました」


 リンの話では普通にまっすぐ進んでいたら急に俺たちがどこに行くのかと声を掛けてきた状態らしい。


(つまり俺たちの方向感覚が狂わされたのか?)


 それと根本的な疑問が出てくる。


「なぜリンの感覚は狂わない?」


 俺たちが狂わされているのにリンだけが道を間違えなかった。


「おそらく、これのおかげだと思います」


 リンは一角獣の模様が入った腕輪を見せてくる。


「それって!?」

「なるほどな」


『ユニコーンリング』には【純潔】と言うスキルがあり毒はもちろん、呪いなどの状態異常を防ぐ効果を持つ。


(ただ処女しか使えないのが欠点だがな)


 ユニコーンらしい性能を持っていた。


「その話がそうなら【浄化】で俺たちのも防げそうだな」


 【浄化】は他者の状態異常を回復する。そのため俺たちのズレも直してくれると踏んだ。


「じゃあもう一度行きましょう」


 次に森を進み、ある程度すると徐々にリンとの方向にずれを感じてきた。


「【浄化】」


 リンが掛けてくたおかげで今のズレを認識することができた。


「なるほどこういう感じか」


 周囲の状況と自分の認識に誤差があるのが理解できる。


(これは迷いの森と言われるだけある)


 分かりやすく言うと距離感が引き延ばされている。少し右にズレたつもりが大幅に右にズレたり、大きく左にずれたつもりがほとんどズレていない状態になってしまう。


 人間は構造上完全にまっすぐに動くことはまず無理だ。少し右にズレて、次にほぼ同じ距離を左に移動することでまっすぐに移動する手段を持っているだけだ。この感覚を狂わされれればほとんどまっすぐに歩くことは不可能に近い。


(ほんと、魔法って何なんだろうな)


 頭で理解しようとするが前世の知識が邪魔をしてすんなりとはいかない。


 その後も色々なことを考えながら進んでいく。


 リィン、リィン

「バアル様!!」


 イヤーカフスから音が鳴ると同時にリンが目の前に出てくる。


 ギィン!!!


 リンの刀が何か固いものに当たった音が聞こえる。


「狼か……それもアルビノ、珍しい」


 リンが相対しているのは真っ白い狼だ。


 大きさは大型犬程度で、唸り声をあげている口からは鋭い牙が見える。


「バアル様」

「一人で十分か?」

「無論です」


 リンが狼の相手になる。


 狼がリンを警戒しているうちにモノクルを取り出して、鑑定する。


 ――――――――――

 Name:

 Race:白亜狼

 Lv:15

 状態:警戒

 HP:577/577

 MP:874/874


 STR:34

 VIT:17

 DEX:28

 AGI:57

 INT:24


《スキル》

【狼牙:14】【狼爪:15】【防毛:7】【身体強化:19】【魔力察知:10】【臭気探知:21】【獣の勘:9】【夜目:18】【念話:5】【光闇耐性:――】

《種族スキル》

【群れで個となる】

《ユニークスキル》

【孤独ノ月狼】

 ――――――――――


(ほどほどのステータスだな)


 これならリンが圧倒できるだろう。


「………あれって」


 セレナは狼を見ながら何かをつぶやいている。おそらく知っている魔物だったのだろう。


 鑑定をしたのがバレたのか一瞬視線がこちらに向いた。


(まぁ、それでもリンを無視はできないだろうな)


 既にリンは【身体強化】を使い、身構えている。


 そしてしばらくの間二人は動きを止めた。


(何をそんなに警戒している?ユニークスキルを持っていたのは意外だが、正直素のステータスで圧倒しているだろうに)


 リンの方がステータスに優れているのだが動こうとしない。


「なんで二人は動かないんですか?」

「さぁ?」


 これは本当にわからない。


 だがリンが警戒しているってことは何かしらがあるのだろう。


(戦闘の勘だとリンはずば抜けているからな)


 俺の『飛雷身』も勘だけで行先を当てるくらいだ。何かしらの脅威をあの狼から感じているのだろう。


「リン」

「バアル様、手を出さないでください」


 そう短く告げて狼と視線を交わす。すると突如として狼は振り返りそのまま森の中を進んでいく。


 リンは何も言わずにそれについて行く。


「おい、なにが」

「バアル様、今はついてきてください」


 俺は肩をすくめながらリンの後に続く。


「あとで説明してもらうぞ」











 狼に連れられてながら進むと一際大きな樹木が見える場所にたどり着いた。


(聖樹とはまた違った凄みを持っているな)


 あれは植物的にあり得ないくらいの高さを誇っていたが。


 こちらは常識を残しつつ最上級に成長した太い木と言った印象だ。


 そんな木の洞に狼は入っていく。


『よく来たな客人よ』


 頭に響いてくる声が聞こえた。


(これは)


 アグラベルグも使っていた【念話】だ。


(だが……どこからだ)


 あの狼の可能性はあるのだが、今やる理由がわからない。会話をするなら道中、もしくは戦闘中でもよかったはずだ。


『戸惑っておるな』

「ああ、お前はどこにいる?」

『目の前におるではないか』


(目の前?)


 目の前にはあの白い狼しかいない。


『ちなみにこの狼ではないぞ』

「………」


 じゃあどこだよ。


『わからんか?目の前にある樹じゃよ』

「は?」


 即座にモノクルを取り出して鑑定をする。



 ――――――――――

 Name:

 Race:千年魔樹エンシェントトレント

 Lv:341

 状態:衰弱・呪い

 HP:3456/3456

 MP:12454/12454


 STR:―

 VIT:547

 DEX:―

 AGI:―

 INT:442


《スキル》

【風魔法:54】【土魔法:54】【超自然回復:56】【土壌回復:104】【魔力察知:45】【思考加速:504】【限界突破:52】【言語理解:88】【念話:176】【魔法耐性:245】【火炎耐性:34】

《種族スキル》

【伸縮枝槍】【幻惑】【光合成】【成長】【守護契約】

《ユニークスキル》

 ――――――――――


 目の前の樹は何と魔物だった。


『わかったかな?』

「ああ」


 俺は警戒を強める。


 なんせアグラベルグよりもレベルが高い。


 構成から魔法タイプ、それもMPが大量にあり防御力すらも堅い。


 生半可な攻撃を加えても意味がない、植物らしく動くことがない戦闘スタイルだ。


『警戒するな、客人と言ったであろう』

「……わるい、出会った魔物たちは出会い頭に攻撃してくる奴らばっかりでな」


 知性があるアグラでさえ、些細なことで戦闘になったぐらいだ。


「俺たちを招いた理由は何だ」


 この千年魔樹エンシェントトレントが狼の親玉のような存在なはずだ。ならばここに連れてきたのには訳があるはずだ。


『せっかちじゃのう、もう少し会話を楽しもうとは思わないのか?』

「あいにく用事がある、しょうもないことで時間をつぶしたくはない」


 狼の耳がピクリと揺れる。


『その用事はこの地の事であろう』

「…何が起こっているのか知っているのか?」

『詳しい事は分からん、季節が二順前ぐらいから何やら不穏な気配が漂ってきた。するとたちまち同胞が衰弱していき、死滅して行きおった』


 頭に響く声はとても悲しそうだった。


「お前は無事なのか?」

『ああ、我は耐性があるからな。魔法などはあまり効かん』


 先ほど見たステータスの中に【魔法耐性】があったな。


『いずれ朽ち果てるのは自然の定めだ、だが何かしらの手段で同胞が死滅していくのをただ見ているのは我慢ならん』

「ふ~ん、その何かしらの手段を使ったのが俺達だとは思わないのか?」

『昨日からお主たちを監視していた、その様子を見るにお主たちもこの異常をどうにかしたいのだろう』

「演技しているとは思わなかったか?」


 知性を持っているなら疑うのが普通だ。


『そこはこの狼を信頼しておるからな』

『……その黒……嘘……なかった』


 先ほどのリンとの戦闘で信用に足ると狼は判断したようだ。そして千年魔樹エンシェントトレントは狼を信頼していることから俺達が嘘を付いていないと判断している。


『すまんな、まだこいつは念話が稚拙でな』


 今のやり取りでこの狼もかなりの知性があることが理解できた。


「で、俺達を呼び出した理由はなんだ?」


 客人と言っていたくらいだ何かしらの用事があるのだろう。


『もしお主たちがこの事態を何とかしようとしているのなら協力しようと考えてな』

「(……ここは協力してもらっても問題ないだろう)一応確認だが、爺さんとそこの狼の目的は森を正常な状態に戻すこと、これで合っているか?」

『ああ』


 しばらく考え、問題ないと判断しこの二体と協力関係になった。

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