第24話 クラブでのいざこざ

〔~リン視点~〕


「それで何があったんだ?」


 寄宿舎への帰り道、問題が解決するとあの場で何が起こっていたのかを尋ねられる。


「それはですね―――」









 バアル様を起こそうとしてまた眠ってしまった後、私は先生の言っていたクラブの新入生勧誘の場に行きました。







「ちょっと待てその勧誘の場というのは?」

「ほらクラブとかあったじゃないですか、そのクラブすべてが広場に集まってそれぞれ新入生に勧誘を掛ける場があるのです」

「そんなのがあるのか」

「……とりあえず、続けます」







 私は興味があったクラブを見たのですが、正直やっていることはチャンバラと似たり寄ったり。ゼブルス家の訓練場にいる騎士たちとの鍛錬の方が何百倍も有意義でした。


(期待外れね)


 それに加えて私の家で習っていた刀術とは全く違ったという点も大きいかったです。下手にここで剣を習おうとしたらおそらくはもともとの家で習っていた基礎と混ざり合って弱体化してしまう可能性すらありました。


 それからは目的を暇つぶし切り替えて、大きいクラブが集まる広場まで向かいます。


(最も大きいとされる剣術クラブ『剣聖ソードマスター』、次点の槍術クラブ『太陽槍ブリューナク』、同格の光魔術クラブ『聖光ホーリー』ですか)


 現時点でもっとも規模が大きいとされているのがこの三つ。


 剣が主流の『剣聖』は男子から絶大な人気を誇り、『太陽槍』は剣には劣るが男から人気を持つ、そして『聖光』は主に女性から人気がありました。


(有名な物語では剣と槍が有名だからやはりこの二つは人や規模が大きい。もう一つのホーリーは聖女などのヒロインからかしら)


 やはり聖女などは聖なる力で主人公を支えるものが多いので自然とこうなっているのでしょう。


(どうしよう……新しくほかの魔法でも習ってみようかな)


 私は風魔法しか覚えていないのでこの機にほかの属性を覚えようかなとも考え始める。


(ん?)


 どんなクラブがあるか回っていると、なにやら『剣聖ソードマスター』の前で騒ぎが起こっていました。


 気になって近づいてみると


「平民が貴族に逆らうのか!」

「グロウス学園では貴族平民関係ないはず!」

「そうだ『剣聖ソードマスター』に入るのに身分は関係ないはずだろ!」


 見たことがある平民と貴族が言い争っていました。


「残念ながらあるんだよ、な、先輩方」


 一番偉そうな貴族が話しかけると周囲の先輩方は視線を逸らす。


「貴族がそんなことをしていいと思っているのか!」

「なにをいっている、我々貴族は幼少のころから剣術を習っている。平民のように遊んでいるばかりではないのだ………それに弱い平民が入ったら『剣聖ソードマスター』の格も落ちるだろう?」


 少年の影にいる少女が出てくる。


「二人とも、もういい」

「けど、こんな理由で!」

「そうだぞ、平民なら身をわきまえろ」


 アークと呼ばれた少年が粘ると相手側から提案がなされる。


「そこまで言うなら俺たちに勝ったら『剣聖ソードマスター』に入れてやらんでもないぞ」

「……」


 騒ぎを起こしていた全員と野次馬が移動する。


(あの貴族、町でも騒ぎを起こしていましたね、それに周囲の貴族が逆らわないのが気になりますね)


 全員が合同訓練した場所に移動する間に話を詳しく聞いていると、アークが守っていたあの少女が騒ぎの原因だった。


 なんでもその子が『剣聖ソードマスター』に入ろうとしたのだが、あの貴族がそれを阻止した。そしてその理由が理不尽ということで少年アークとその友達が食って掛かったらしい。


(そこまで貴族に詳しいわけではないのよね……後でバアル様に尋ねましょう)


 移動中に聞いたところ、あの貴族はニゼル・セラ・アズバンといい、バアル様と同じ公爵家の次男だとわかりました。










「ああ、あの家か」

「説明をお願いしても」

「ああ、アズバン家はゼブルス家と同格の公爵家だ。特産などはないんだが領地が国の北端で三国に接していることから交易などで有名な家だな………あとあの家の血筋は土、闇の属性持ちが多くいるが、その影響からかすこし陰湿な奴が多い。ほかにも黒い噂が結構出ているぐらいだな」

「そうですか……続けますね」










 それでなにやら話し合いをするとアークとその友達二人、ニゼルの取り巻き全員で戦うことになっていました。








「そこはわからんのか?」

「ええ、すこし距離が遠すぎて声が聞こえませんでした」

「……まぁ大体の予想はつくが」

「どんなですか?」

「さっきの話だと『俺たちに勝てたら』とニゼルは言ったのだろう?」


 おそらくアークは一対一を何度も繰り返す意味あいで捉えていただろうが、この言葉をうまく婉曲させると多人数と同時にも戦えてしまう。


(言葉尻を取り合う貴族のやり取りには慣れてないからこそね)


 平民であるアークがそれに引っかかっても仕方がない。









 それから戦いが始まるのだが、意外にも三人は粘ってた。それで焦ったのか貴族たちは魔法すら発動しはじめたのです。


「卑怯だぞ!」

「これは剣の勝負だろ!」


 二人は魔法が使えないようで防戦一方になってしまいます。


(……本来避けられるけどあの女性を庇っているせいか、ろくに動くことができないのか)


 それから反撃してこないことから貴族の魔法がどんどん派手になりました。


(あれは魔法式を刻んだ杖ですか……)


 本来は自分で魔法式を覚える必要があるのだが、魔法杖ように魔法式を刻むことにより一種類に限るが魔力さえあれば行使することができるようになる。


 そして魔力が込められると魔法が発動するが刻める魔法は一種類のみ。


(あれは複合魔法『爆炎エクスプロージョン』ですか……)


 魔法が発動すると衝撃と爆音が響きわたる。


 あの魔法は容易たやすく人を殺ることができてしまう。


「……死にました、か?」


 さすがに死んだと思ったのですが、砂煙が晴れるとなぜだか三人は無傷でその場にいたのです。


(………ユニークスキル)


 爆発する際に三人の前に光の盾が現れ三人を防いでいた。現に今も光の壁が三人を包み込んでいました。


「大丈夫!?」

「…ああ、だがこれは…」

「ユニークスキル……」


 一人はわかってないようだが、もう一人は何が起こったかわかっている様子。


「攻撃の手を緩めるな!」


 だがニゼルは取り巻きに魔法をやめないように命令する。


「だ、大丈夫かアーク」

「ああ、だけど」


 爆発が何度も起こるがすべて光の盾で防ぐ。


(いくらユニークスキルの魔力消費が少ないと言っても数をこなせばいずれは尽きる)


 すでに50以上の盾が出現して爆発を防いでる。


(さすがにそろそろ介入しないと死人が出るでしょう)


 私は止めようと動こうとする、その時に


『うるせえ!!!!!!!!!!!!!!!!』


 隣にある校舎から怒号が聞こえてきました。


(たしか隣の校舎って……)


 すぐにバアル様が寝ていた校舎だと思い出すと校舎から何かが飛んできます。


 ドン!!


 その影は先頭の真ん中に降り立ち。


「お前ら、ここで何しているんだ?」


 ここからはバアル様も知っての通りです。









〔~バアル視点~〕


「本当にどうでもいい」


 誰がクラブに入るか、身分がどうこう、などは毎年の騒動らしいがあまりにもくだらなすぎる。


「あ、あの!」

「ん?」


 後ろからの声で振り返るとあの場にいた平民の少女がやってきた。


「誰だ?」

「わ、わたしはカリナ・イシュタリナと言います、先ほどは助けてくれてありがとうございました」


 そう言って頭を下げる。


「……それで?」


 こちらとしては別段助けるつもりであの場に行ったわけではない。何だったらただただ八つ当たりと言ってもいい行為だった。


「ええ、どうしてもお礼が言いたくて」

「じゃあ、用は済んだな」


 変に感謝されるのは心地悪く、俺はそのまま歩き始めるのだが。


「あの……何かお礼を…」

「いらん」


 後ろから掛けられる声を聞き流しと帰ろうとすると足音が聞こえてくる。


「カリナ、急にどうした?」

「あ、あの時の奴か」


 カリナと共にいた先ほどの二人が合流する。


「アーク、オルド」

「カリナ、どうしたんだ急に」

こいつ・・・はさっき訓練場に来た……」


 一人の言葉にリンが反応して刀に手を当てる。


「いい。今回は許す。だが」


 リンを止めると、俺は体に魔力を集め圧縮しそれを三人に向けて放つ。


 圧縮した魔力を浴びて三人は言葉もなく震え始める。


「別にお前たち平民が貴族に礼を言うのは別にいい、だがな、そこに礼節がないのなら………どうなるかわからんぞ」


 威圧を解くと三人は座り込む。


「行くぞ、リン」

「はい」









「優しいですね、ほかの貴族なら場合によっては首が飛びますね」


 この国では貴族への不敬罪で首が飛ぶなどは珍しくない。それに比べたら優しい方だ。


「それにしても相手もよく退いたな、同じ格の家なら食って掛かってくると思ったが」


 アズバン家なら少しは文句を言うと思ったが。


「…………あんな【威圧】を放てば何も言いませんよ」


 あの時は不機嫌というのもあったが、そこまで強くした覚えはない。だがどうやらあれぐらいでも駄目だったようだ。


「それにしても『破滅公』であるバアル様に食って掛かる可能性があるんですか?」

「残念ながらありうる」


 ゼブルス家は魔道具を一手に担っていることやこの国の食糧事情に大きくかかわっている点から勢力を強く保てている。だがアズバン家はゼブルス家とは違い、外務卿として外国との太いパイプを持っており、この繋がりは結構な力を持つ。その力は程よく拮抗していると判断せざるを得ない。


 ただ、その代わりに


「アズバン家はゼブルス家の魔道具を交易に使っていて、できれば喧嘩したくないのだろう。あくまでできれば・・・・だがな」


 リンは俺の説明を聞いて納得した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る