第13話 ダンジョン、それは魔訶不可思議

 リンとラインハルトの準備は数時間で終わり、手配した馬車が館の前にたどり着く。


「それでは行くぞ」

「どちらへ?」

「新しくダンジョンができた町、ジャフラタだ」


 俺たちは手配した馬車に乗り込みダンジョンができた町に向かう。









 ジャフラタ、ゼウラストから比較的に近い場所に存在している町で、周辺の村の交易の場になっている場所。そして少し前から近くの森にダンジョンらしき場所が出現したため、安全のため町の兵士を配備して、領主である父上の指示を待っている。


 そして現在町長にダンジョンと思わしき場所に案内してもらっているが。


「で、これがそうか」


 目の前にはあきらかに 不自然に大きくなった切り株が存在していた。


「確かにこのサイズの切り株があるのは不自然だな」


 切断面だけでも直径15メートルはある。これに対して、周囲の樹は精々が幅一メートル前後、この切り株だけ明らかに異常だった。


「ですが、これだけでは中が大きいかどうかわからないのではござらんか?」

「そうでもない」


 ダンジョンの入り口は中が大きくなるにつれて大きくなっていく、これぐらいなら小さい部類だと判明している。


 それから町長に発見した経緯を聞く。


「なんでもない日にいきなり現れたので、不思議に思って調べていたところ、切り株のうろに階段らしきものがありました」

「それがダンジョンだと?」

「おそらくではあります」


 普通に考えれば、不自然に表れた切り株とそのうろに下に続く階段があるならそう思うだろう。


「誰も入ってないのか」

「はい、最初に見つけた木こりたちは戦うすべを持ちませんのでこれを見つけたらすぐに戻ってきたそうです」

「わかった、では戻っていいぞ」


 俺はこの場所までの案内してくれた町長を帰るように促す。


「バアル様はどうなさるのですか」

「無論、中に入って調べるさ。ああ、調査が終わったら報告するからそこは心配するな」


 公爵家の長男である俺を残していくことに引け目を感じているのか最初は動こうとはしなかったが、そう言うと町長は素直に帰っていった。


「では入るか」

「はい!」


 リンは事前に入ることを知っているため、俺の言葉に同意してくれるのだが。


「!?バアル様、私はダンジョンに入るなど聞いてませんが……」


 ラインハルトには護衛の指示しか出していない。ダンジョンに入ると言われて驚くのも当然だった。


「ここに来たのは俺のレベル上げが主な目的だ」

「それでしたらほかの場所でも」

「ダンジョンがレベル上げに最適なのは知っているだろう?」


 ダンジョン以外でも魔物は居るのだが、ダンジョンほど密集して存在はしていないため効率が悪すぎる。騎士団などでもレベル上げなどにはダンジョンを使うのが普通だった。


「安心しろ引き際を見誤ったりしない」

「…………了解です」


 渋々ながらもラインハルトの許可も得たのでダンジョン内に入る。


 ランタンを準備して下りたのだが下の階に行くと、石でできた通路が続いていた。


 明かりも常に輝いている結晶が石の壁に埋め込まれていて必要が無かった。


「へぇ~」


 ダンジョンの入り口だけしかまだ知らないが、様式としては古いゲームのダンジョン内のような感じだった。


「では進むぞ」


 そのまま一本のみの通路を進むと広い空間にたどり着く。入り口から中を覗くと数体の魔物がうろついていた。


「一応確認だが、あの魔物はなんだ?」


 一体は水色のゼリーがひとりでに動いていて、ゼリーの中に丸い球体を持つ魔物。


 それ以外は緑色の肌を持つ10歳児の俺と同じくらいの身長の生物、顔は醜くここからでも悪臭が漂う。


「スライムとゴブリンですね。どちらも上位種ではありませんね」


 傍に居るラインハルトが何の魔物か言い当てる。その言葉から出た名前はファンタジー定番の生き物だった。


「強いか?」

「バアル様一人でも余裕で倒せるくらいです」


 戦力的には何の問題ないということ。一応の戦闘なので傍にラインハルトが控えながら、試しに槍を構えて戦うのだが…


「いや、手応えも何もないな」


 槍で容易に頭を貫けるし、振り抜きでゴブリンを吹き飛ばせる。さらにはスライムに関してはただただナメクジのように張っているだけなので駆除だった。


「お見事です」


 ラインハルトはこういうが正直に言って、まったく戦った気がしない。


 しばらくすると魔物の死体が消えて、代わりに部屋の中心に宝箱が現れる。


「アレにトラップはあるか?」

「確認してみます」


 ラインハルトは近づき罠があるかどうか確かめる。


「大丈夫です、罠はありません」


 用心して宝箱を開けてみる(ラインハルトが)。


「……なんだこれは?」


 宝箱の中にはモノクルが一つ入っているだけだった。


「おそらくですが『魔具』の一種ではないでしょうか」


 俺が生産している『魔道具』は人の手で作り出された魔法を使う道具、それに対して『魔具』はこの世界に存在する原理自体が謎な道具のことだ。


 そして今回はラインハルトの言う通り魔具の一種だと推察できる。価値と効果は様々で一概には評価できない。


「鑑定してもらうしかないか」


 『魔具』専用に鑑定を行っている店もあるので、そこで見てもらおうと思っているとラインハルトが背嚢から何かを取り出す。


「大丈夫です、私の手持ちに鑑定のスクロールがありますので」

「いいのか?」

「はい」


 ラインハルトは巻かれた紙を取り出すと、モノクルに張り付ける。


 これも『魔具』の一つで張り付けた対象の情報を映し出してくれる効果を持つ。


 モノクルにスクロールが張り付けられて、しばらくすると紙が変色し、鑑定が終了する。


 ―――――

 鑑定のモノクル

 ★×7


【鑑定】


 このモノクルを掛けると物品を鑑定することができる。鑑定対象により消費する魔力が変化する。

 ―――――



「これは……」

「説明しろ」

「【鑑定】というスキルは生物なら教会のステータスのように表示され、物ならこのように、名前、レア度、スキル、説明が表示されます」

「それで何に驚いていた?」


 俺は最初に驚いていたことが引っかった。


「レア度は現在9まで確認されています。それも現在確認が取れているのは3点のみでレア度が下がっていくにつれて出る確率も上がるのですが……このモノクルはレア度7、つまり運のいい冒険者が一生に一度手に入れられるかどうかなのです」


 その言葉通りならすごく貴重という物品だという。


「どうしますか?売却するならば金貨200枚は下りません」

「200!?」


 リンは驚いているがイドラ商会を経営している俺からしたら大金であることに変わりはないがそこまでではない。


「いや、俺が使う」


 モノクルを付けると自動で宙に浮きあがる。


「これは便利だな」


 本来、モノクルは眼窩に駆けるのだがこれにはその必要がなかった。


 俺はラインハルトのことを見てみると。


 ――――――――――

 Name:ラインハルト・ガルリオ

 Race:ヒューマン

 Lv:35

 状態:普通

 HP:378/378

 MP:224/224


 STR:29

 VIT:31

 DEX:18

 AGI:26

 INT:18


《スキル》

【聖剣術:7】【双剣術:19】【槍術:5】【光魔法:4】【身体強化:14】【威圧:7】

《種族スキル》

《ユニークスキル》

 ――――――――――


 ユニークスキルは無いが、数値は騎士の中でも有望株と呼ばれるだけある。


「どうですか?」

「使い勝手はいいな」


 だが戦闘では視界を遮ってしまうため、モノクルを『亜空庫』にしまう。


「すごいですね、時空魔法を使えるなんて」


 ラインハルトはうらやましそうにこちらを見る。


「なんだラインハルトも使ってみたいのか?」

「ええ、使えたら荷物を背負って歩く必要がなくなりますからね」


 ラインハルトだけでなくリンも興味深そうにこちらを見てくる。


 原理をここで話してもいいが時間がかかりすぎるために他の機会にする。


 時空魔法に気を取られていると宝箱は自動で閉じていき、同時に壁の一部が開き道ができた。


「……なるほど、これはステージタイプですね」

「説明を」

「はい」


 ラインハルトの説明ではダンジョンには主に3種類の形があるとのこと。


 まずはこのダンジョンのように一本道に度々広い空間が現れて、そこで魔物と戦うタイプ、これをステージタイプと呼んでいる。最初は弱い魔物だがどんどん進むごとに魔物の質と数は増えていく。そして特徴はステージをクリアするその都度、宝箱が現れてランダムに報酬が与えられる。


「そしてその報酬ですが一番最初にクリアするとレアなものがもらえやすくなるみたいですよ」

「だからモノクルが手に入ったのか」


 明らかに最初に手に入りそうにないレア度だが最初にクリアできると今回みたいにレアなものが出やすくなるらしい。


 そして二つ目がラビリンスタイプ。


 これは呼んで字のごとく迷宮みたいになっている。通路は入り組んでいて魔物はいつどのタイミングで現れるのかもわからない。そして宝箱だがランダムで出現してレア度も様々だそうだ。


 最後にエリアタイプ。


 これは一つのフロアだけダンジョンのことを指す。湖や、森、火山、砂漠といった特徴的なエリアが広がっている、もちろんそれにあった魔物の生態系や資源などが存在している。魔具もダンジョンのエリアに類似した物が出現しやすい。


 ダンジョンはこの3つのタイプのどれかになっているという。


「それとですがこのドロップアイテムはどうしましょうか?」


 さきほどゴブリンやスライムがいた場所にはボロボロのナイフや魔石と思われるものが落ちている。


 ダンジョン内で魔物は死ぬと消えるのだが一部が消えずに残りドロップアイテムとなる。本から得た仮説では魔力だけで構成されている魔物たちが外から来た獲物を捕食することで正式に物質化しドロップアイテムになるとされている。


「『亜空庫』に仕舞いますか?」

「……仕方がない」


 俺は『亜空庫』の扉を開く。


 『亜空庫』は容量は理論上は無限なのだが、空間を出現させるのと維持するのに魔力を消耗する。当然ながら規模が大きければ大きいほど消費量は大きい。


 すべてのアイテムを入れ終えると前に進むのだが。いくつかのエリアを進むと、魔物数が多くなった。そのため俺のレベル上げをメインにしながら、ほかの二人にも戦ってもらう。


「順調でござるな!」


 リンは最後のゴブリンの首を刎ねながら笑う。


「そうだな」



 ――――――――――

 Name:バアル・セラ・ゼブルス

 Race:ヒューマン

 Lv:4

 状態:普通

 HP:135/135

 MP:247/368


 STR:15

 VIT:18

 DEX:28

 AGI:35

 INT:68


《スキル》

【斧槍術:25】【水魔法:2】【風魔法:2】【雷魔法:8】【時空魔法:3】【身体強化:3】【謀略:14】【思考加速:4】【魔道具製作:8】【薬学:2】【医術:7】

《種族スキル》

《ユニークスキル》

【轟雷ノ天龍】

 ――――――――――


 3つレベルが上がりステータスが伸ばすことができた。ちなみにだがレベルが上がる際は体が熱くなり作り変えられる感覚が走った。


「それにしてもステータスの伸びがすさまじいでござるね」

「日ごろから鍛えているからな」


 日ごろから適度に鍛えているとステータスの伸びは上がる。


(それにあの存在が言っていた方法は正解だったということか)


 さらに、ここまでの伸びがある理由は特殊な鍛え方のおかげだった。


「それにしても結構いましたね」


 一度目は五匹ほどだったのだが、二回目は15匹、三回目には25匹と結構増えた。ここまま行くならば


「じゃあ次は35匹ほどいるのかな?」

「だと思う……それにしても確かにレアな物ばかりだな」


 今までの通ったエリアでは


 ―――――

 強化ポーション

 ★×5


【身体強化Ⅳ】


 飲むと一騎当千の力が手に入ると呼ばれる魔法薬ポーション。数多の権力者はこれを複製しようと努力したがすべて水の泡と消えた。

 ―――――


 ―――――

 魔剣“ガルウス”

 ★×5


【魔法切断】【闇魔装】


 かつてこの剣を使った者は英雄として上り詰めマジックスレイヤーと二つ名をもらった。だが英雄は味方に裏切られ自分の使っていたこの剣で殺されてしまう。彼はその恨みを持ちながらこの剣に宿り復讐の機会を待っている。

 ―――――


 この二つが宝箱から出てきた。


(片方は完全に呪われているな……)


 だがこれでもレア度はある。いつかは使い道もあるだろう。

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