薬草オタクの公爵令嬢、将来を誓った人が実は王子様でした。
山春ゆう
壱、再会
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ずっとこの時を待っていたんだよ、愛するリーナ
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◇◇◇◇
大国であるグランディーレ王国の王都近くに、質素ではあるが高級な屋敷がある。
この国で王族の次に権力を持つ、スコットレイス公爵家だ。
そこが私の家。
アンジェリーナ・スコットレイス、18歳。
このスコットレイス公爵家の長女。母譲りのアメシストのような紫色の瞳と、直系の血が濃い証拠である明るい空色の髪。
代々製薬魔法に特化した家系で、その功績で不動の地位を得た。
そんな家の娘なので当然幼い頃から薬を目にすることが多かった。領地では薬草を栽培し、公爵家の広い庭でも育てている。
薬草のみでも調合すれば薬になるんだけど、軽症以外の病気や先天性の病気などはスコットレイス家の血を引く者が魔法をかけて調合した薬じゃないと治らない。
これがまた難しくて。
薬草の調合は上手くいっても、最後にかける『○○の薬になれ!』の詠唱が弾かれればその薬草では不可能ってことになる。逆を言えば、薬草の調合が成功して詠唱が弾かれなければ、絶対に効果がある薬になるのだ。
だからいろんな調合した記録の本も膨大な数になる。少しでも量や調合時間がズレれば最後の魔法は弾かれるため、詳細が記載されている。それを絵本代わりに読んでいた私は、既存のものだけでは飽き足らず、自ら新薬を開発するようになった。
なかなか難しいけれど、一年に一度くらいは新しい治療薬が完成するので結構国に大きく貢献してると思うのよね。既存の作り方よりも材料を少なくして調合可能かを模索したり、難病にも効果のあるものを生み出したり。
空色の髪の毛を1つに上で纏めて縛り、日々調合に勤しんでいた。だって薬を作るのが楽しいんだもの!
「アンジェ、準備はできたか?」
「あっ!そうだった、王城に行くんだった、すぐ準備します!」
「薬のこととなるとお前は時間すら忘れるからな……」
呆れるお父様を尻目に、私は慌てて侍女に髪を整えてもらい、馬車へと乗った。向かうのは、王城。10年ぶりだろうか。最近開発した、今までの材料の半分で済む“痔に効く薬”で国王陛下から表彰されるらしい。……いやその前に、一昨年開発した“失明した人が再び見えるようになる目薬”のほうで表彰されるべきではないのかしら……?国王陛下が痔なのかしら?
今日は王子も同席するらしい。
この国には王子が二人いる。
年齢で言うと二人とも私の2つ上。つまり双子。
弟は病気がちで一切外に出ないと聞いていた。パーティーにほぼ出ていない私は二人の王子に会ったことがない。だから今日来ると聞いて、どんな人なのか、少し楽しみなのである。
とはいっても、別にお嫁に行きたいとかそんな気は全く無いけど。
だって私は幼い頃からずっと想い続けている人がいるのだから。
馬車が王城へ到着する。私達は玉座の間へと案内され……るはずなのだが、何故か普通の謁見の部屋に到着した。
あれ?普通にテーブルを囲んでソファーに座る感じなの?
チラっとお父様を見たけど、表情は変わらない。ってことはここでいいのね。
ドアが開き、頭を上げる。部屋の奥、正面に男性が一人、立っていた。その人を見た瞬間、私は思わず息を呑んだ。そして数秒止まったあと、目の前までやってきた笑顔の彼の言葉で我に返る。
「愛しのリーナ!会いたかったよ。僕との約束、覚えていてくれているかい?」
優しい眼差しで、私を見つめる目の前の男性。私は久々に会うその美しく成長した姿に驚く。心臓が大きくドクンと跳ねた。あまりの衝撃に、言葉が出てこない。
この人は……。
「アンジェ。こちらの御方はこの国の双子の王子の兄、第一王子ジルジート・グランディーレ王太子殿下だ」
お父様の紹介により、私は過去の記憶が鮮明に蘇る。息の止まるような感覚からなんとか絞り出して名前を呼んだ。
「デラ……」
名前をすべて呼び終える前に、目の前の彼は私の唇に人差し指を当てた。
「シッ。そうだよ、10年ぶりだねリーナ。こんなにも美しくなっていただなんて」
金色の細くてサラサラと揺れる髪に、真っ赤な瞳。目の前の微笑む彼は、……彼だ。
王城で会って、たくさん話して……将来を誓い合ったデライドの顔だ。
「約束したよね?大きくなったら結婚しようって。今日はその話をするために呼んだんだ。ずっとこの時を待っていたんだよ」
微笑むデライドに私は頭の中が混乱した。色々と予定外のことがありすぎて整理出来ていない。
デライドって……王子様だったの?!
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